第118話 寂れたショッピングモールは心が痛む

 年度末は生徒会が忙しいらしい。


 もうすぐ進級で、有希とクラスが別になってしまうかもしれない。だから、できるだけ一緒に帰りたかったけど、そりゃこの時期は忙しいだろう。3年の卒業式やら、新1年生の入学式やら、色々あると思う。


 正吾でも誘おうと思ったが、ここ最近あいつは帰りが早い。HRが終わると、そそくさと教室を出て行ってしまう。俺と有希に気を使ってくれているのだろう。


 しょうがないので、1人寂しく正門を目指すことになった。


 別に1人で帰るなんて事は慣れている。でもやっぱり、いつもは有希や正吾と帰るので、1人で帰るとなると寂しい気持ちだ。


 有希がいないなら、家に帰ってもやる事はない。


「あ、そっか……」


 つい声に出てしまい、近くにいた女子生徒に、チラッと見られてしまい、少し恥ずかしい思いをしてしまった。


 恥をかいたので、歩みを緩め、女子生徒が、スタスタと先を行ったのを確認してから、思いついたことを自分の中で確認する。


 こういう時にこそ、有希の誕生日プレゼントを見にいけば良いんじゃないか。


 ネットで色々と探していたけど、実物を見る方が参考になる。


 早速、都心の方まで足を伸ばそう……。と思ったけど、都心まで行けば帰りが遅くなり、有希にどこに行っていたのか聞かれるかもしれない。別にやましいことじゃないが、「うーん。色々」なんて茶を濁すとやましい気持ちになる。かといって、「有希の誕生日プレゼントを選びに」とか正直に答えるのはナンセンス。


 都心にこだわらなくとも、今日プレゼントを決めるわけではない。あくまでも参考程度だ。


 だったら、近場で済まそう。


 学校の最寄り駅の奥に寂れたショッピングモールがあったな。


 普段利用しない方の駅なので、2回くらいしか行ったことないが、寂れていてもショッピングモール。なにか参考にあるものの1つくらいは置いてあるだろう。


 本日の予定が決まったところで正門を出ると、帰り道とは逆方向へ足を運び、ショッピングモールを目指した。




 ♢




 うーん。この、なんとも寂れたショッピングモール感。


 全国でも有名なチェーンのショッピングモールのはずで、外観は変わらないはずなのに、雰囲気がどんよりしている。


 店内は、節電なのかなんなのか、明かりが点いているはずなのに暗く感じる。


 閉店しましたの紙がそこら辺に貼ってあるが、その日付も数年前の物。ペナント募集の広告も埃まみれ。


 申し訳程度にあるゲームセンターを見ると、なんだか胸が締め付けられる。


 それでも潰れないのは、スーパーが繁盛しているのだろうな。


 駐輪場や、駐車場は平日の夕方なのに結構埋まっていたから、ショッピングモール目当てではなくて、完全にスーパー目当てだと推測できる。


 その証拠に、1階にあるスーパーは人で賑わっているが、専門店がある2階は、ガラガラであった。


 しかし、それでも女性向けの雑貨店等はあるので、適当に目についた店を見て回る。


 いらっしゃいませー。どうぞ、ご覧くださいませー。


 なんて、感高い店員さんが接客をしてくれて、店に入ってすぐの雑貨を見る。


「ピアスな……」


 壁に貼り付けてあるように並ぶピアスを観覧して、言葉を漏らす。


「あ、これとか可愛いな」


 有希に似合いそうなピアスを見つけ、手を伸ばして、すぐに止めた。


 彼女はピアスを開けてなかったな。


 校則でピアスは禁止。イヤリングもダメだったはずだ。


 うん? でも、あいつ黙ってバイトしてるな。あれも校則違反なのではないだろうか。


 だったら、ピアッサーとセットでプレゼントしたら……。


「旦那、旦那。ピアスは校則違反でっせ」


 悩んでいると、知った声が聞こえてきたので振り返ると、そこには白川琥珀が制服姿で立っていた。


 目が合うと、「やっぴー」なんて独特の挨拶で手を振ってくれる。


「今のはナチュラルな関西弁だったな」

「関西格付けはもう良いよ」


 呆れた声で言われると、切り替えて先ほどの話題を出してくる。


「彼女ができたからって、イキって校則違反のピアスに手を出すなんて、王道的な思春期男子ですなぁ」

「めっちゃ言うやん。そんなんじゃねーわ」

「にゃはは。わかってるってば」


 ケタケタと笑われて、彼女は察したように言ってくる。


「ゆきりんにプレゼントでしょ? もうすぐ誕生日だし」


 誰にも言っていないと言っていたが、最近の有希と白川は仲が良いので、誕生日くらいは教えていたみたいだな。


「まぁ、そんなとこ。ピアスをプレゼントしようとは思ってなかったけど、たまたま有希に似合いそうなピアス見つけたからさ」

「あー。これね。有希なだけに雪のピアスって……。プクク。すごいセンスですな。旦那」

「嘘……。これ、なし?」

「なしでしょ」


 ガーン……。


 俺は頭を思いっきり殴られた気分だった。


「嘘。本気で傷付いてんじゃん」

「俺って、友達は少ないけど、センスはあると思ってた」

「おだてにもセンスがあるとは言えないよ」

「うう……。自信なくなった……」

「あらま。本気で凹んじゃった」


 困惑の声を出す白川は、ポンと手を叩くと提案してくれる。


「お詫びに、ゆきりんのプレゼント選び、手伝ってあげるよ」


 彼女の言葉に少し考える。


 女子のことは女子に聞け。


 確かに、俺ってば女子の知識が無さすぎる。センスがあると勘違いしていた。有希には最高の物を送って喜んでもらいたい。


「良いのか? 白川の用事とか大丈夫?」

「良いよ。野球部のストックしてるスポドリの粉がなくなったから買いに来ただけだし。戻っても、ノッカーしてくれって言われるだけだし」

「あのうっすい粉な。……って、ノッカーしてんの!? 白川がノックしてんの?」


 守備練習でボールを打つ人。普通は、監督やコーチがやるもんだが、マネージャーがしてるなんて初めて聞いた。


「まぁね」


 へへ。なんて、鼻をかいてドヤ顔をしている。


「尚のこと良いのかよ。俺なんかに付き合って」

「良いの、良いの。たまには女子高生らしいこともしたいし。クラスの男子と買い物なんて、なんか青春じゃん」

「わり、俺、彼女いんだわ」

「なんでわたしが振られた雰囲気にした?」

「そういう流れかなって」

「振られたの本日2回目だわっ! ちくしょうがっ!」


 そういえば正吾も同じようなことしたな。ま、それがあったから、今の流れに持っていったんだけど。


「ほら、守神くん。さっさと行くよっ」

「へいへい」

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