第114話 人気がバズってる妖精女王
修学旅行が終わり、いつもの日常へ強制的に戻された俺達。
2年の学校イベントは終わりを告げ、後は最高学年の3年生になるのを指折り数えるだけの毎日。
あの妖精女王に彼氏ができたらしい。
そんなイベントのない日々だからこそ、俺と有希が付き合ったという噂は、恰好の的であった。
付き合っているかもしれない、から、付き合っている、にシフトチェンジした噂は、雪崩のように俺達のクラスへ野次馬を呼び出した。
詰めるような大量の質問にこちらはパニック寸前だってのに、流石は生徒会長と言うべきか、有希は涼しい顔をして聖徳太子みたいに答えていた。
人の噂も七十五日。
数日で収まった質問責めは、元々修学旅行で広まっていた分と、学校には3年生がいないという不幸中の幸いから、すぐになくなった。
代わりと言っちゃなんだが……。
「なぁ白川」
「ん?」
授業合間の短い休み時間。用を足して教室に戻ったところ、俺の席が女子生徒で埋まっていた。詳細を言うのなら、有希へ話しかけている女子生徒が俺の席に座っており、戻れない状態となっていた。
なので、教室のドア側の席に座っている可愛いアイドル系のクラスメイトに話しかけてみたところだ。
「有希のやつ。人気がバズってんだけど」
「ですなぁ。まぁ、ゆきりんの人気がバズってるのもわかるけどね」
「なんで?」
「そりゃ旦那ぁ。ゆきりんの雰囲気が柔らかくなっているからに決まってますよぉ」
「雰囲気、ね」
確かに、ここ最近の有希は丸くなっている気がする。喋る仕草も、見せる笑顔も、質が変わったと思える。
「今までは、高嶺の花の
「うん。どう転んでも例えが
「つまりだよ旦那。ゆきりんは守神くんと付き合うことにより、『
生徒会長、
「ちょっと複雑だな」
有希の素顔がみんなに知れ渡るのは良いことだと思う。これを機に、仮面を被った完璧生徒会長の
「旦那。そりゃ独占欲ってやつですな」
「それだわ」
ピンポーンと正解の鐘が脳内で鳴った気がした。
この、もやもやする気持ちは白川の言う通り、独占欲ってやつで間違いないだろう。
「素直に認める辺り、守神くんがゆきりんをどれくらい好きなのか把握できるよ」
「めっちゃ好きだもんな」
「はぁ……。リア充は爆ぜるべきだと思います」
正直な答えのお返しは、ため息付の爆発しろという酷なものであった。
「今振りまいている笑顔も、きっと守神くんに見せる笑顔とは違うものなんだろうね」
白川は、頬杖ついて、どこか夢見る少女のような顔をしてみせる。
「わたしも恋、したいなぁ」
「彼氏、作らないのか?」
白川も、元気で明るくて、アイドルみたいな美少女なので人気のはずだ。
行動したらすぐにでも彼氏の1人でもできて、すぐに恋ができそうなものだが。
「簡単に言わないでよ」
「白川は可愛くて明るくて人気者だから、簡単にできると思うんだけど」
思っていたことをそのまま口にすると、少しばかり睨まれてしまう。
「彼女持ちが他の女の子を可愛いとか言わない方が良いよ」
「どうして?」
「そりゃ、こんな会話を彼女が聞いたら怒るからでしょ」
「有希は別格だから、この程度じゃ怒らないだろ」
「……ムカつくけど、容易に想像できる」
むぅと頬を膨らませて反論できないでいる白川は、ため息と共に頬の膨らみをしぼませた。
「守神くん達を見てたら、わたしも特殊な恋したくなるなぁ」
「特殊、ね」
「守神くん達はほんと、漫画みたいな運命の出会いだよね。お隣さんで、秘密を知って、秘密を守って、お互い惹かれて……。普通の人はそんな出会い方しないから、憧れるよ」
俺と有希って特殊な恋愛だと思う。初恋で、他の恋なんて知らないが、流石にそれが特殊なことくらいはわかる。
「守神くん達を見てたら、わたしもそういう漫画的で夢のような恋したくなるなぁ」
夢を語ると、ため息1つ吐いてから首を振った。
「ま、そんなことできないってわかってるから、わたしは普通の恋で良いんだけどね」
とか言ってみたり、なんて舌を可愛らしく出した。
「普通の恋も出来てないJKです。はい。笑ってください。焼肉食べたい」
マシンガンみたいに語る彼女へ愛想笑いしかできないでいた。最後の焼肉食べたいも意味わからんし。しかし、俺から絡んだ手前、スルーするのも忍びない。そもそも席が空いていないから戻れない。
「あーあ。どっかに白馬の王子様落ちてないかなぁ」
「白馬の王子様ねぇ」
そこで、ふと思いついたことを彼女へ言ってみる。
「イケメンで良いのなら心当たりがあるけど?」
「ほんと?」
「ああ。男子の高嶺の花みたいな存在だ。女子からもモテるし、高身長の爽やか系だ」
「それって、もしかして……」
「近衛正吾って言うんだけどね」
「ですよねー」
ぐでぇっと机に突っ伏す白川。
「不満か?」
「あの子バカだからね」
「あいつの場合、それだけでプラスの面が全滅だもんな」
「わかってるなら言わないでよ」
怒る彼女へ、思っていたことを言ってみせる。
「でも実際、並んで歩いている2人は絵になってたぞ? 見た目にはお似合いの美男美女カップルだったけど」
「うーん……。近衛くん、野球部の助っ人してくれたし、基本的に喋ってても悪い人じゃないし、確かにイケメン俳優顔負けなんだけど、やっぱりバカだからね」
「やはり高校生ともなると、顔だけではダメか」
成長するにつれて、人は外見だけでなく、中身とステータスを欲するようになるよね。
「確かに、小学生の頃なら無双状態だったのが想像できるね。実際どうだったの?」
「ああ。そりゃもう凄かったぞ。バレンタインのチョコの数は、どこぞのアイドルって感じでもらってたな。ピークは小5だったな。正吾なだけに」
「よくそんなつまらないダジャレでゆきりんを落とせたものだ」
ジト目で言われてしまい、自分のつまらないダジャレを反省しておく。
「小5の正吾はまじでピークでさ。段ボール1箱分の量をもらってたぞ」
「それが大袈裟じゃないだけの顔面偏差値だもんね」
「ピークを過ぎてもチョコの数は物凄いけどな。去年も大量にもらってたし。俺は今までもらったことなんてないから、貰うのってどんな気持ちなのかわからないな」
ちょっと虚しいことを言ってのける。でも本音でバレンタインなんて興味ない。それは今も昔も変わらずだ。そんなイベントより、もっと世の中には楽しいイベントがあるからな。
「良かったね。今年は確実に1個もらえて」
「ん?」
白川の言葉に首を傾げると、有希の方へと指を差した。
「初チョコが初カノからなんて羨ましい限りですな」
「え?」
よくわかってない俺はスマホを取り出して時間と共に、日付を確認した。
今は10時39分。もうすぐ3限のチャイムが鳴りそうな時間。日付は2月14日だった。
「今日、バレンタインなんだな」
「うそ。バレンタインを意識しない男子って存在するんだ」
俺を天然記念物みたいな目で見てくる白川へ、ちょっと拗ねて答える。
「モテないから諦めてたんだよ」
「それでも意識するものじゃないの? 机の中とか、下駄箱の中とか」
「まじでその気持ちは理解できない」
「そんな男子も存在するんだね……。ま、今年はバレンタインのありがたみを噛みしめれるから安心しな、旦那」
「ありがたみねぇ」
バレンタインには興味ないけど、有希からもらえるなら、もしかしたらありがたみってのがわかるのかもしれないな。
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