軌跡へとなる最後の修学旅行
第91話 修学旅行前の独特の雰囲気
ザアザアと降り注ぐ雨は、学校内の至るところに当たって打楽器のように様々な音を奏でている。
雨の演奏会も悪くはないのだけど、やはり傘を差さなけらばならないのは億劫だ。絶対に濡れるし、かといって思春期特有の感情でカッパも着たくない。
雨の音と混じった教室内の雑音も決して悪い気分ではない。
修学旅行の前日なので、教室内は独特の雰囲気に包まれ、皆騒いでいる。
本日のLHRは体育館で結団式なるものが行われるらしい。
なんだ、それ? と思った。
小学生と中学生の修学旅行の時に、そんなことしたことがなかった。
俺と同じような人も多い中、半分は、それが普通だろうと思う人もいるみたいだ。
聞いた話によると、前日に、マナーを持って旅行しろ、ってことを言うだけらしい。
体育館で行われる結団式の準備ということで、俺達は教室で待機となる。
文化祭は一致団結して、みんなで目的のゴールを目指す。そんな空気に当てられてクラスの仲が良くなっているように思えた。
修学旅行は、ほとんどの生徒がなにもすることなく、自動的に楽しみにするだけ。なので、オートマチック的にクラスの仲が良くなっているように思える。もちろん、生徒会や修学旅行委員、教員のおかげなのは忘れてはいけない。
自分の中で、文化祭は手間暇かけて絆を深め、修学旅行は手軽に絆が深まるイメージだ。
「な、守神。修学旅行と言えば枕投げだよな!」
「トランプしようぜ! オールで!」
「バカめ。守神と言えば恋ばなだろ」
「「それだ!」」
文化祭で仲良くなったクラスメイト達が、積極的に話しかけてくれるのも、修学旅行の効果だよな。同じ大部屋になったので、明日からの部屋での予定を話している。
クラスメイト達は、有希の名前を出さないところで若干の気遣いが見られるが、やはり
知らん奴等は、ガツガツ聞いてくるからな。それを思えは幾分もマシだ。
「近衛の恋愛観とか聞きたいかも」
「あ、わかる」
隣に立っていた高身長イケメンのバカが名前を呼ばれて、「うほ?」と聞いていた。
「今まで何人に告白されたとか」
「実はもう、経験済みとかな」
「こう見えて、実は……みたいな」
同部屋のクラスメイト達は、正吾の事も気になるみたいだが、残念。こいつは本当に恋に関しては空っぽだ。なにを聞いても、スカスカな内容しかない。
俺との思い出は沢山あるけどな。
そう言うと、有希とは違った変な噂が流れそうだな……。
いや、待てよ。そういうことにしていた方が、俺的にも楽なのか? 有希と噂されるのは有希にも迷惑だし、正吾とそういう関係って噂を流した方が……。
「ぬ?」
うん。俺のプライドが許さない。ちっぽけで、なんの価値もない俺のプライドも、このバカと噂されるのだけは避けたいと本能が叫んだ。
やめておこう。
「はあい! みなさあん!」
ほんわか癒し系の女の人の声が聞こえてくる。
担任の猫芝先生が教卓に立ち、俺達に教えてくれる。
おかしいな。毎日見ているはずなのに、今日はやけに久しぶりに感じる。なんでだろうね。人生って不可思議なものだ。
「結団式の準備ができましたので、廊下に並んでくださーい」
修学旅行前の生徒達は皆素直で、誰も文句を言わずに自分達の会話を中断して廊下に出る。
もちろん、俺もその仲間である。
廊下に並んだ俺達2年F組は、適当な順番で並んで体育館を目指す。俺はなんとなく1番後ろになって、前の人に続いて歩く。
「守神くん」
ふと、後ろを歩いていた猫芝先生が、俺の隣に並んで声をかけてくれる。
「はい」
「進路希望調査票。修学旅行が終わってからで良いから出してね」
「あ……」
本気で忘れていたので、心の底から、しまった、と言わんばかりの声が出てしまう。
「進路、決まった?」
少し心配する様子で俺を見てくる先生。
1人暮らしをしていることや、過去の出来事を、母さんが少しだけ言っているので、気にかけてくれているみたいだ。
ただ、こちらから声をかけない限り、先生はなにも言ってこないので、良い距離間だと思っている。
流石に進路希望調査を出してないから、今回は心配になって聞いてくれたのだろう。
「一応決まりました」
「どうするの?」
「大学。行きたいと思って」
「そっか。親御さんとお話しは?」
「まだです」
「うんうん。そっか、そっか。その点も親御さんとしっかりね。お金に関する大事なことがあるから。入学金とか奨学金とか、色々ね」
「あー……」
お金に関することは全くといって良いほど頭になかった。ここら辺がまだまだ子供なのだと思い知らされる。
「でも、良かった。守神くんがちゃんと進路考えてて。もしかしたら、『俺はなにもしないぜ』とか言うかと、ヒヤヒヤしてたからね」
「そんなにひねくれて見えます?」
「入学した当初はね」
「あ、はは……」
相当暗かったもんな。それは自分でもわかる。
「でも、最近めっきり明るくなったよね。誰のおかげかな? んん?」
この人も噂のことを知っているのだろうか。同じ校舎内での噂だし、多少は耳に入っているかもしれないな。
「さぁ」
「ふふ。照れちゃって」
大人の余裕みたいな笑みをされて、ちょっとムカついたけど、先生は真剣な顔をして言ってくれた。
「進路が決まっただけでも安心しました。進路の相談、いつでも受け付けるからね」
「ありがとうございます」
「あ……」
言って、先生は訂正するように声を出すと、茶目っ気たっぷりに言い放つ。
「恋の相談も受付中だよ。完璧美少女との恋愛方法。伝授してあげる」
「結構です」
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