第84話 男友達がやたら絡んでくる

 楽しい冬休みが終了してしまった。


 文字通り楽しかった。人生で1番と言っても過言ではないくらいに充実した冬休みだった。


 今まで野球漬けの人生。それも1回の故障で絶望していたけども、人生ってこんなにも楽しいんだと実感できる。


 有希と、クリスマスに年末年始。その後も、ダラダラと過ごしていたが、その時間こそが至高の時間とも言える。


 ただ、唯一悔やまれるのは冬休み短すぎる問題だ。もっと期間があれば有希と一緒に過ごせたのにな。


「こおおお! おおおお! おおおおおお! おおおおおお!!」


 久しぶりの登校で、自席に座り、冬休みを思い返していると、やかましいのがやってくる。


 てか、まじでうるさい。


「てか、うざいぞ、正吾」


 こちらの新学期早々の久しぶりの再会の言葉に対して怯まずに突っ込んでくる。


「だってよぉ! だってよおおお!」


 泣きそうな声で俺にしがみついてくる。


 それを見たクラスの女子達が、黄色い声で俺達を見守ってくる。


「ええい! 離れろ!」

「やだぜ! 冬休み中会えなかったんだからよぉ!」

「遠距離恋愛中の彼女かっ!」

「ほぼ、それだろ!」


 きゃあああ! と黄色い悲鳴なようなものが上がる。それは本当に悲鳴なのか、嬉しい叫びなのか……。頼むからクラスメイトの女子生徒さん達。勘違いはやめてくれよな。


「なんで連絡してくれないんだよぉ。去年まではずっと一緒だったのによぉ」

「そりゃ、お前……」

「新しい女ね!」

「言い方!」


 正吾は、わざとらしく、キリッと有希の席を睨む。ちなみに、彼女は生徒会があるらしく、今は席を外している。


「どうせ、大平と、それはそれは、イチャイチャ、ラブラブな冬休みだったんだろ」

「ち、ちげーわ。付き合ってもない女子と、イチャイチャ、ラブラブなんてできないだろうが」

「ふぅん」


 正吾がジト目でこちらを見てくる。


「ええい。見苦しい」

「イケメンが見苦しい?」

「くそ。美形めっ」


 そんなやりとりをしていると、ふとクラスメイトの女子達の会話が耳に入ってくる。


「そういえば、妖精女王ティターニアに彼氏やっぱりいる件について」

「あ、やっぱりいるんだ? 誰?」

「いや、はっきりと見たわけじゃないけど、早朝の初詣で見かけったミユが言ってたお」

「うっそーん。早朝お忍びデートバレてんじゃん。草」

「しかも、めっちゃ楽しそうにしてたって」

「まじかぁ。やっぱいるわなぁ。妖精女王ティターニアだし」


 あっちは別に聞こえるように会話をしているわけではないだろうが、距離が近かったので、自然とこちらの耳に届いたような感じ。


 それは正吾も同じらしく、こちらを、ジトーっと見てくる。


「なぁ晃?」

「知らん」

「白状しろって。ネタは上がってるんだぞ」

「黙秘権を行使する」

「カツ丼奢るぜ」

「取り調べにはカツ丼だよな」


 なんか急にカツ丼が食いたくなった。


「今日、カツ丼食って帰る?」

「お。いいね」


 パンと手を叩いた正吾。


「でも良いのかい? 大平は?」

「有希は生徒会で忙しいらしいからな。今日は別行動」

「彼女じゃん!」


 ビシッと言われてしまう。


「カマかけたらナチュラルに言ってくるじゃん! 彼女の予定が合わないからって2番手の俺に来てるじゃん」

「正吾のくせにカマかけてくんなボケ」

「たった今、ボケでもカマはかけれることが証明されたな」

「すげームカつくぅ」


 正吾如きにこんな扱いを受けるとは……。屈辱だ……。泣きそうになる。


「おい、晃。なに泣いてんだよ」

「泣いて、ない」

「あれ? それって俺ごときにカマかけれて泣いてる感じ? その感じなら俺が泣きたくなるんだけど」

「共に泣こうぜ。友よ」

「おお友よ!」

「お2人さーん。新学期早々、ツッコミ皆無のボケ乱舞は収集つかなくなるからやめてくださ―い」


 俺達の騒がしい会話に白川琥珀が、ピョンとうさぎみたくやってくる。


「なんの話したら、今みたいなカオス理論が完成するの?」

「ああ。ただの痴話喧嘩だ」

「ちげーよ。お前と痴話喧嘩なんて気色悪いからやめろ」


 手を挙げて、「あ」とちゃんと補足をつける。


「ちなみに、キモいじゃなくて、あえて気色悪いって言ってお前の心をえぐっているから」

「確かに! キモいより、気色悪いの方が心えぐれるわ! 


 正吾は自分の胸に手を置いた。


「くおお!」

「相変わらずラブラブだね。2人とも……」


 白川は呆れた声を出していたが、切り替えるように正吾に言ってのけた。


「近衛くん。約束の件、今日大丈夫?」

「ん?」


 正吾は天井を見上げて、思い出すように、ナウローディングしていた。


「あ、ああ。今日だったか」

「約束?」


 俺が首を傾げると、正吾がすぐに教えてくれる。


「冬休み前に言ったろ? 野球部の助っ人だよ」

「あー、あー。言ってた。牛丼屋で言ってたやつか」

「そうなんだよ。合流することになってるのをすっかり忘れていた。しかし、晃とのカツ丼が……」

「いやいや。それは野球部に行けよ。前からの約束なんだし」

「しかし……。くっ……」


 非常に思い悩んでいる。


「す、すまない晃。先に約束をしていた方を……」

「うん。そっち行け」

「ええっと。大丈夫?」


 正吾のリアクションに、戸惑っている白川。そりゃ、なんか苦渋の選択を余儀なくされているような感じを出されると困るわな。その内容が、カツ丼か野球部だし。


「白川! 晃を裏切るんだ。絶対野球部を勝利に導くぜ」

「大袈裟だなぁ」


 笑いながら正吾を見た後に白川を見る。


 俺と同じような表情をしていると思ったが、どこか思い悩んでいるような顔をしていた。

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