第82話 年越しも膝枕
「──か、は……?」
ふと、気が付いたら、俺は座ったまま寝ていたらしい。
何時かとスマホを確認すると、3:48と表示されていた。
「この態勢で約4時間睡眠。おそろしいな……」
膝元に心地の良い感触があった。
新年早々に俺の膝元には銀髪美少女の頭が乗っかっている。
なんの不安もなさそうに、安眠している有希は、小さな寝息を立てて眠っている。
これで、いびきが騒音みたいに大きいとか、大量のよだれを垂らしているとかなんて、普段とのギャップもあって良かったが、完璧美少女は寝姿もお手本のように完璧美少女であった。
それにしたって、膝枕をするというのはなんとも言えない感覚だな。
膝枕をしてもらうのは数回程度だが経験があり、それはとても素晴らしい癒しの時間である。
逆に、膝枕をするという行為は、なんというか、母性が……俺は男だから父性? が芽生える。
可愛いペットの子猫がすり寄ってくるかのような愛らしさに近い気がする。
寝ている有希の頭を撫でると、その愛でる気持ちが、撫でる度に上昇している気がする。
これは、やばいな……。
頭だけではなく、軽く頬を、ツンツンしてみる。
「う、うぅん……」
あかん!
これは色々とあかんやつ!
そうか、有希はこの気持ちを知っていたから、膝枕をすることに抵抗がなかったのだな。
それに俺の場合は有希に片思いをしているバフも加わり、もう感情が色々あかん。
「こぉ……く、ん……」
「なんで寝言で俺を呼んだよ」
そんなん、きみが好きだと叫びたくなるだろ。
夜中だから叫ばないけどな。いやいや、夜中じゃなくても叫んだらダメだろ。
ん? 今は夜中なのか? 微妙な時間だな。
「それにしたって……」
よく眠っている。
雑魚寝と変わらないフローリングでの膝枕なのに、よくもまぁこんなに深い眠りにつけるものだ。
色々と疲労が溜まっているのだろうな。
日常の生活に加え、年末年始も俺の相手してくれてるし。そりゃ、疲れて眠ってしまうのも頷けるってもんだ。
「ほんと、いつもありがとうな」
「……!」
「うおっ」
ガバッと急に起き上がる有希にびっくりして、声が出てしまう。
有希は、なにが起こったのかわからないような顔をして、キョロキョロと周りを見渡していた。
「わ、私……、もしかして……?」
「思いっきり寝てたぞ」
俺もなんだけどな。
「うそ……」
彼女は信じられないと言わんとする表情で立ち上がり窓の外を見た。
「もしかして、年明けちゃいました?」
「ああ。随分と前にな」
「ええ!?」
彼女はすぐにスマホを確認した。
俺の言った通り、とっくに年が明けていることを知ると、がっくりと肩を落とした。
「ど、どうして起こしてくれなかったんです!?」
俺も寝ていたしというのは、なんか悪戯心が芽生えてしまって言わなかった。
「それはそれは、いびきをかいて、よだれを垂らして眠っていたら起こす気もおきないな」
「なっ……!?」
言うと、彼女は無意識に服の袖で口元を拭いた。うそなんだけど、彼女は酷く怒った顔をしていた。
「そ、そうなんでしょね! 新年早々、ご主人様の膝枕でいびきをかいて、よだれを垂らして寝てしまって申し訳ありませんでしたぁ!」
「あ、いや……。冗談だぞ?」
拗ねたような怒りに、すぐにネタばらしをするのだが、彼女は聞く耳を持っていなかった。
「そんな下手な気遣いは不要です。どうせ、ガーガーといびきをかいて、よだれを、たらぁって流していたんでしょうね。ごめんなさい。でも、その服洗うの私だから良いでしょ!? ね!? ご主人様の洗いものするの私ですもん! ご主人様の洗いものするのが生きがいのあなたの専属メイドですぅ! 新年早々あなたのために働きますぅ!」
新年早々に有希が壊れた。
「ごめんって。うそだから」
「そもそも」
ビシッと指を差してくる。こっちの話はどうやら無視らしい。
「晃くんの膝枕が気持ち良すぎるのが悪いのです!」
「お、おれぇ?」
「そうです! すごく気持ち良くて! 温かくて! 優しくて! ずっとこうしていたいって思わせる晃くんが悪いんです! 責任取ってください!」
「せ、責任って……」
重すぎるだろ。
「とにかく! 晃くんが悪いのです! 乙女の寝姿を見た罰です! 晃くんも同じ思いをしてください!」
そう言って、正座をすると、有希が膝を、パンパンとしてくる。
「さ、来てください。もう、ドーンっと来ちゃってください!」
「いや、さっきしてくれたし……」
「それは去年の話です! 今年はまだです!」
「数時間前のことだけど?」
「良いから! 早く来てください! 私の膝枕、いらないのですか!?」
「そう言われると……」
その魅力には抗えない。
やはり俺は有希を膝枕するよりは、されたい派らしいので、欲望のまま、彼女の膝枕を堪能する。
「さ、早く寝てください。ガーガーといびきをかいて、よだれを垂らしてください。いっぱい垂らしてくれて構いませんよ。晃くんのよだれなら綺麗なものです!」
壊れた有希は新年からとんでもないことを言って来る。
彼女を見ていると、自分が冷静になれる。
「夕方に有希が膝枕をしてくれたから、全然眠くないわ」
「ガッデム」
新しい年になって、エンジン全開でキャラを壊してきてるな。
「じゃあ、どうしろって言うのですか!? 添い寝ですか!? 一緒にベッドに入ったら寝てくれます!? お互いの温もりで眠たくなりますか!?」
「いや……」
そんなもん、逆に緊張して寝れるかよ。
「ちくしょうです! どうすれば晃くんの間抜けな顔が拝めるというのですか!? 私だけ晃くんに醜態をさらしたのに、不公平です! ズルです! いかさまです!」
「いや、拝むなら神様を拝もうぜ。新年なんだしよ」
「あ、それもそうですね」
「急にテンションを変えてくるなよ、びっくりしたわ」
いきなり有希が元に戻ったかよのような声を出すので拍子抜けした声が出てしまう。
「いや、新年なんだし、お互い眠たくないのなら初詣行きましょうよ」
「お、おおん……。それも、それでアリだな」
もうすぐ早朝と呼べる時間になるだろう。準備をしたらすぐだ。
「そうと決まれば、一旦着替えて来ますね」
「あ、ああ。待ってるよ」
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