第76話 映画の感想

「はあぁわぁぁぁ……」


 映画を見終わった俺達は、最上階にある映画館の1つ下の階にあるレストラン街へと降り、イタリアンレストランに入った。


 放映時間が少しだけ長い映画だったので、時間的に言えば遅めの昼食となる。なので、レストランへは待ち時間なしで入ることができた。しかし、流石はクリスマスイヴというべきか、昼の時間がズレているのにも関わらず、席はほぼ満席である。


 4人席へと通してもらった俺達は、それぞれ好みのメニューを注文した。


 その後に有希が、「はあぁわぁぁぁ……」なんて、へにゃへにゃな声を漏らしている。


 多分、というか、絶対にさっきまで見ていた映画の影響で、こんな感じになっているのだろう。


「今日の映画、すごく良かったですね」

「良かったよなぁ」


 映画の内容は王道的なラブストーリーであったが、王道だからこそエモかった。


 唐突な出会いから、最初はツンケンしていた2人だけど、お互いの魅力に気が付いての告白。甘い時間を過ごしていたのも束の間。2人に大きな困難の壁が現れる。しかし、2人ならば大丈夫と、困難に立ち向かう途中でのすれ違い。それでも2人の愛で解決して最後はハッピーエンドな物語。


 俳優陣の演技も迫真で、ついつい見入ってしまった。


「ああ……。私もあんな恋愛したいですぅ……」


 有希の語尾がとろけるようになっている。どうやら恋愛脳になってしまったようだ。


 俺もよくあるが、良い作品を見ると、ついついそのことをしたくなってしまう。


 バトルものを見たら、燃えるような戦いをしたくなる。


 熱い青春ものを見れば、誰かと友情を育みたくなる。


 恋愛ものを見れば、誰かと恋愛したくなる。


 俺も有希とあんな恋愛模様を展開したいわ。あんなイケメンな主人公になりたいわ。


「有希的ポイントのシーンはどこだった?」

「やっぱり、告白のシーンです」


 即答されてしまうが、こちらも納得の回答に頷いてしまう。


「あの告白はやばいですよ。やばいが倍でバイバイです」


 エモシーンを思い出し、有希が壊れた。


 語呂は良いけど、語彙力は皆無。言葉の意味もわからないが、凄く良いシーンだと言いたいのは伝わった。


「ヒロインの女の子が告白するシーンな。流れ的にはヒーローから行くと思ったのに、予想外な上に、めっちゃエモい告白してたよな」

「です、です。もう、凄すぎて、泣きそうでした」

「あのシーンは胸キュンだったけど……」

「ぷっ……」


 突然、有希は吹き出して、クスクスと笑っている。


「なに?」

「いえ……。ぷくく……。晃くんも、くく。胸キュンとか使うんですね。意外です」

「なんだよ。わりぃか?」

「いえ、悪くないですけど、なんか可愛いと思って」


 むぅ……。なんだかバカにされている気分になる。


 そんな俺の心境を読んでいるのか、有希は楽しそうに笑っている。


「すみません。話しの腰を折ってしまって。胸キュンだったけど、なんですか?」


 有希が脱線した話題の線路を戻してくれるので、俺もいつまでも拗ねていないで、彼女へ尋ねてみる。


「胸キュンだったけど、女の子から告白ってのはちょっと珍しいって思ってな。有希的には女の子からの告白ってどうかと思って」


 質問すると、少しだけ考えてから口を開いてくれる。


「私は、どちらでも良いと思います。好きになった思いを伝えたいのに男女は関係ないと思いますので」


 そして、頬杖ついて言って来る。


「私的には、むしろ、自分で行きたいかな……」


 チラリとこちらを見ると、そのまま視線を逸らして続ける。


「告白を受けて、断りを入れる側も精神が疲れますからね……。かといって好きでもない人と付き合うことは、私にはできません」


 少し嫌なことを思い出させてしまったかもしれない。


 クリスマス前。いや、もっと前から有希は大勢の男子からの告白を受けている。


 告白をする側は、もちろん本気で告白する人もいるだろう。でも、妖精女王ティターニアと呼ばれる人気の生徒会長へ、遊び半分、記念告白みたいに、イケたらいいな程度の奴もいたことだろう。


「ですので、私は好きな人には自分から告白したいと思っています」


 有希は好きな人には自分で告白したいと思っているのか……。


「それって、高2で初恋した人に?」

「はぅ!?」


 こちらの質問に、有希がとんでもない反応を示した。


「そ、それは、その、あの、えっと……」

『お待たせしましたー』


 動揺に動揺を重ねている中で、店員さんが料理を持ってきてしまった。


 テーブルに並べられる料理。


 店員さんが並び終えると、軽く1礼して去って行く。


「わ、わあ! す、凄い美味しそうな料理ですよ!」


 わざとらしく言ってのける有希は、明らかに話を逸らそうとしているのが見えた。


「あの……」

「さ、さ! 晃くん! た、食べましょう!」

「あ、ああ……」


 結局、有希のチート技であるゴリ押しにより、話はうやむやになってしまった。







「「ごちそうさまでした」」


 お互い、食事を終えて、礼儀正しくごちそうさまをする。


 あれから、告白をどちらからするか、の話題はなくなってしまい、有希が初恋の人へ告白するという話題も昇華してしまった。


 かなり気になる話題だが、明らかに話したくない感じがするので、ここで、無理に話しをするのはナンセンス。


 この後もクリスマスデートは続くのに、くどい男は嫌われるだろうから、その話題は出さないでおく。


「あの、晃くん。この後の予定に、どこかのお店の予約を入れていたりしますか?」


 後半戦を迎えようとしているところ、彼女の質問に少し、ドキッとしてしまった。


 予約なんてものは入れておらず、このままショッピングにでも行こうかと思っていた程度だ。


 これってもしかして試されているのか? イヴの日に予約も入れてないなんてありえないみたいな……。


 いや、有希はそんな人じゃない。


「ごめん。特に決まってないんだ。せっかく都会まで来たし、ショッピングでも、って思って」


 正直に言うと、彼女は手を合わせて、「良かった」と安心したような声を出した。


「すみません。わがまま言っても良いですか?」

「わがまま?」


 彼女には珍しい単語が出て来て、首を傾げてしまう。


「よかったら、この後は部屋で一緒に過ごしませんか?」

「へ、部屋!?」


 それってのは、大人のホテルのことなのか? え、いきなり? 聖なる夜だから?


「はい」


 肯定したよ、この妖精女王ティターニア


「ディナーを外で食べるのも良いとは思うのですが、やっぱり晃くんの部屋でクリスマスケーキが食べたいと思いまして」

「あ、俺の部屋」


 思春期爆発しすぎた。冷静に考えて部屋ってのは俺の部屋にきまってるだろ。


「ダメでしょうか?」


 こちらの微妙な反応を見て、そんな質問をしてくる。


 すぐに首を横に振った。


「いやいや。有希の行きたいところが良いからさ。もちろん、良いよ」

「ありがとうございます」


 嬉しそうにお礼を言ってくれた後に、少し申し訳なさそうな顔をした。


「すみません。色々と考えてくれていたのに、こんなわがままを言ってしまい」

「わがままなんかじゃないって。それじゃ、ケーキ買って戻ろうか」

「はい」


 こんな程度は全然わがままでもなし。


 それに彼女と過ごせるならばどこだって良いと言うのが本音である。

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