第73話 クリスマスデートの待ち合わせ

 冬休みに入り、とうとうこの日がやって来た。


 12月24日のクリスマスイヴ。


 有希とのクリスマスデートの日だ。


 揺れ動く電車内は、俺の夢見心地の気分と同じように、小さく揺れている。


 車内のベンチは満席だったので、出入り口付近の端に立ち窓の外をぼーっと見ながら待ち合わせ場所へと向かっている。


 イヴの車内はなんだか浮かれたような気分で、妙にソワソワしていたり、スマホをポケットから何度も出し入れしたり、窓に映る姿を見て髪の毛をいじったりしている人が見受けられる。


 彼等も恋人や片思いの人との待ち合わせ場所に向かうのだろうか。なんて思うが、俺もその1人だと思うと、去年までの自分が懐かしい。


 今までクリスマスなんて縁遠いものだと思っていたし、意識したこともなかった。そんな俺が女の子と、それもとびきりの美少女と過ごせるなんて、まだ実感がない。


『次は、おおさ──』


 車内に響くアナウンスに待ち合わせの駅の名前が聞こえてきて、心臓が1つ跳ねる。


 待ち合わせの駅に着いていないのになんだか、アタフタとしてしまう。


 ジーンズのポケットに入れたスマホを出して、時間を確認する。


 9:17の時刻を見て、待ち合わせの43分前だと確認できて、余裕で間に合う時間だと安堵する。


 スマホをポケットに入れた後に、「待ち合わせ場所、合っているよな?」と不安になり、もう1度スマホを取り出して、有希と前日に行ったLOINのやり取りを確認する。


『10:00に観覧車前で』


 その文字を見て、ホッと胸を撫で下ろし、スマホをポケットに入れた。


 安心した自分の顔が出入り口の窓に映ったので、ついでに髪型を整える。


 寝癖とかついてないよな?


 そう思いながら、角度を変えて髪の毛を見ながら思う。


 俺も、車内でイヴに浮かれてる男だな。







 有希の要望で、デートの日は待ち合わせをしようということになった。


 拒む理由もないので、俺はOKを出した。


 待ち合わせ場所は、大都会の有名な赤い観覧車のショッピングビルがある、赤い時計横の生垣とのこと。


 この場所は有名なので迷うこともない。そこで待ち合わせようと言うことになった。


 待ち合わせ場所までは、駅を出て数分もかからない。ただ、大都会なので人の数がすごい。


 わいわい、がやがやと駅の改札は混んでいる。特に今日はクリスマスイヴということで、カップルが多く見られる。


 前にカップル。後ろにカップルの状況で、駅の改札をくぐり、人の流れに沿って待ち合わせ場所まで向かう。


 まだ待ち合わせ時間の30分以上前なので、有希はまだ来ていないだろう。次の電車で来るかな。


 ちなみに俺は、遠足前の子供みたいに今日が楽しみで中々寝付けなかったので、早めに家を出た。


 有希にからかわれたら言い訳として、待たすより待つのが男の役割だ、とか適当なことでかわそうと思う。


 そんなことを思いながら、赤い観覧車があるショッピングビルの前に到着する。


 流石は有名な待ち合わせスポットということもあって、沢山の人が誰かを待っているのが伺える。大体の人はスマホを眺めて時間を潰しているようだが、そこに、マイクを持った人と、カメラを持った人がいるのが伺えた。


 テレビ局の人かな。


 今日はイヴだし、なにかの取材だろうな、なんて思いながら、適当に赤い時計の生垣の空いているスペースを探していると


「あ、来ました」


 なんて、聞き慣れた可愛い有希の声が、テレビ局の人達の間から聞こえてくる。


 見てみると、テレビ局の取材を受けていた、クラシカルエレガント風の格好をした美少女と目が合う。


 長い髪をおろしてベレー帽を被り、清楚感をマシマシにさせた上に、マフラーを巻き、小さめのショルダーバッグをして、エレガントの中にキュートを詰め込んだファッション。


 西洋の人形みたいな美少女で、日本代表美女として世界に出しても良いレベルだ。というか、世界の美女の中でも余裕で5本の指に入るだろうと思わせる。


 そりゃ、取材されるわ。


「こちらの人が待ち合わせしていた方ですか?」

「はい」


 こちらはなんのことか、わからず置いてけぼりの状態でいると、日本代表レベルの美女が小さく教えてくれる。


「待ち合わせを一緒に待つ企画みたいです」

「あ、ああー」


 どこかの長寿番組で見たことがある企画だ。


「お姉さんの待ち合わせの方は彼氏さんということで?」

「はい」


 ナチュラルに有希が答えた瞬間に、俺の顔が赤くなってしまうが、そんなことはお構いなしに


「そうですか、そうですか。わかりました」


 なんて、統計でも取っているか、テレビ局の人が簡単に返事をすると、頭を軽く下げる。


「お時間いただきありがとうございました」

「いえいえ」

「楽しいイヴを過ごしてくださいね」

「ありがとうございます」


 テレビ局の人達は、次の取材があるのか、次の人を見つけて取材をしていた。


「晃くん……?」


 テレビ局の人達が行ったところで、有希が心配そうに俺を見てくる。


「大丈夫ですか? 顔が真っ赤ですが……」

「い、いや……。その……」


 いつもと違い、やたらと可愛いファッションの彼女を直視できずに顔を背けてしまう。


「か、彼氏って聞かれて、否定しなかったから……」

「あ……」


 思い出したように有希も顔を赤くして、視線を伏せた。


「あ、あ、あそこで否定するのも? へ、変じゃないですか? そ、それに、否定して囃し立てられるのも面倒ですし? あそこはああ言うのが、良いかなっと」

「た、確かに、あそこで彼氏って言わないと、何か言われそうではあったな」

「そ、そうですよ。わ、私の判断は、正しいのです……」

「そ、そうだよな」

「そ、そう、ですよ」


 なんとも言えない空気が俺達を包み、なんだかいつもみたいに喋ることができずにいた。


 これがクリスマスマジックなのだろうか。


「えっと……」


 なにか会話をしようとするが、なにをいえば良いかわかないでいると、待ちあわせにしていた生垣の赤い時計が9:41だったので、思いついたことを彼女へ伝えた。


「ご、ごめん。待った?」


 そう聞くと、有希はいきなりクスリと笑った。


「す、すみません。晃くんにそれを言わせるために、早めに来たのですが、予想通りちゃんと言ってくれて、嬉しくて、つい」


 ぷくくと小さく笑う彼女を見て、なんだか物凄い緊張していたのがほぐれた。


「んだよぉ、それ」

「ふふふ」


 しばらく笑うと、いつもの顔付きに戻って言ってくる。


「すみません。嘘つきました」

「え? 嘘?」

「はい。嘘です」


 そう言って、上目遣いで言ってくる。


「本当は、今日が楽しみすぎて、寝れなくって早く来ちゃいました」


 ズドンと、ストレートの言葉は胸に刺さり、また違った緊張に包まれてしまう。


「今日は楽しみましょうね。晃くん」


 そう言って俺の手を握って駆け出す彼女と共に、大都会のデートが開始される。

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