第70話 暴露

 席を移し替え、俺の隣に座った有希。それに合わせるように、有希の正面に正吾。正吾の隣に白川の席順で、説明会というか、弁明会みたいなものが始まった。


 何回かの説明を経て、ようやくと有希の言っていることを信じた正吾と白川。


 最初は、またまたぁ、とか、そんなはずないって、なんて否定していたが、合鍵を有希のスクールバックから出したところで信用に至ったみたいだ。


 自分の全てを曝け出したわけではないが


 メイド喫茶のバイトのこと。


 それが俺にバレたこと。


 秘密を守る条件として、部屋の掃除と食事の折半をしていることだけを説明した。


 専属メイドってことは誤解を生みそうだから伏せておいた。


「すみません晃くん。秘密にして欲しいと言ったのは私なのに、こんなヘマをしてしまって」

「有希が悪いわけじゃない。そもそも家に上げたのは俺だ。有希に落ち度はないよ」

「しかし、私があんなところにメイド服を置きっぱなしにしなければ」

「制服をちゃんとアイロンがけしてそのままだったんだ。メイド服も仕事道具。道具を大事にした結果なんだから有希は悪くない。それよりも、有希に秘密を喋らせた俺が悪い」

「いいえ。晃くんが変態と思われるくらいなら私の秘め事など大したことではありません」

「あのー」


 有希と傷のなめ合いをしていると、白川がジト目で俺達を見て来ていた。


「2人は付き合ってるの?」


 その発言にお互い顔を見合わせて、ついつい顔を逸らしてしまう。


「「付き合ってない……」」

「あんな甘い会話して、付き合ってないとかあるの?」


 今の会話は甘かったのか? 自分ではよくわからない。


「まぁまぁ、白川。胸焼けしそだったけど、今、それは置いておこうぜ」


 正吾的にも甘かったみたい。


「なぁ2人共。今までの流れでいくと、大平は晃の隣に住んでいて、面倒をみてくれてるってことで間違いないか?」

「まぁ」

「はい」

「通い妻じゃん」

「ぶっ」


 確かに……。白川の言葉は確信をついてきている気がする。


 状況的に、毎日料理をしてくれて、掃除も洗濯も、朝起こしてくれたりもしている

のだから、彼女の言葉は的を射ている。


「違います」


 しかし、白川の言葉を否定した有希は、持っていたメイド服をみせびらかすように持った。


「晃くんの専属メイドです♪」


 有希が壊れた。


 流石の優秀な生徒会長、妖精女王ティターニアもキャパオーバーみたいだ。


 せっかく伏せてたのに……。


 予想していたというか、なんというか、白川が俺をジト目で見てくる。


「言わせてるの?」

「否定はできない」


 実際、専属メイドになって欲しいと発言したのは俺だしな。


「まぁまぁ。とりあえず2人の関係性はなんとなくわかった」


 正吾がかなり珍しく場を取りまとめてくれる。普段バグってるくせに、こういう時

はちゃんとする。イケメンかよ。


「大平。俺の晃がいつもお世話になってます」

「語弊を生む言い方するなくそ正吾」

「いえいえ。こちらこそ、晃くんと仲良くしてもらっていてありがとうございます」

「そこ! 乗るな!」


 なんか知らんが、有希と正吾のペコリ大会が始まった。どこの井戸端会議だよ。


「あ……」


 白川がなにかを思い出したように声を漏らした。


「もしかして……大平さんの噂されてる彼氏って……」


 チラッと視線だけで俺を差してくる。それに気が付いた有希が、ペコリ大会を終了させて白川へ答える。


「はい。晃くんのことかと思われます」

「文化祭も一緒に回ってるじゃん。前からコソコソと2人だけでラブラブしてるとか、どんだけ青春してんだ」


 白川の発言に再度顔を見合わせて、恥ずかしくなり、また顔を逸らす。


「それやめろぉ。見てて胸焼けするぅ」


 彼女は自分の胸をなでながら言ってくる。


「いや、ほんとな……。帰りにハバネロ買って帰るか……」

「ハバネロでもこの甘い感じは拭えないかも」


 好き勝手言って来る2人へ、俺は改めてお願いをするように声をかける。


「……それで、このことは誰にも言わないようにしてくれ」

「守神くんが生徒会長の弱味握って、メイド服着せて世話させてるってこと?」

「ちが……わなくもないけど、それが本題じゃなくてだな……」


 言葉がグラデーションのように濁ると、白川はからかうように笑った。


「わかってるっての。大平さんの秘密、誰にも言わないよ。それに、誰かに言っても信用されないだろうし」

「それもそうだな。晃と大平って組み合わせは誰も予想できないだろうし」

「守神くんと近衛くんなら簡単に想像できるけどね」

「だろ?」

「おいくそ正吾。なんで嬉しそうなんだよ」

「まぁなんだ。俺も誰にも言うつもりはないぜ」

「おいまて。否定してから言え」

「みなさん……」

「待て待て有希。〆にかかろうとするな。このままじゃ俺と正吾がお似合いのカップルみたいな雰囲気で終わる」

「ありがとうございます」


 まじで〆やがった。







 話しが大きく脱線してしまったが、勉強会が再開された。


 結構衝撃的な話しだったのだが、期末テストが近づいてきていることもあり、その話に触れることなく、黙々と勉強会は行われた。


 全員が集中していたので、いつの間にか日は沈んでおり、空は真っ暗になっていた。


 時間も、夕飯を食べるにも遅い、結構深い時間になってしまった。


「じゃあな晃、大平」

「また明日、学校で」


 勉強会を終え、時間も遅いため、正吾が白川を送るといった形で帰って行った。


「本当に良かったのか?」


 主語なしの言葉を有希に送ると、なにが聞きたいのか察してくれて、呆れたように小さく笑っていた。


「良くはありません」


 冷静になったのか、いつもの有希らしい答えにどこか安心する。


「ですが、晃くんが誤解されてしまうよりかはマシだと判断した結果です」

「俺のこと変態とか言ってたろ? それに、俺は誰にそう思われても平気だったぞ?」

「私が思うのは良いのです。他の人が晃くんをそう思うのはダメです」

「んだよ、それ」


 よくわからない感情である。


「まぁ、あの2人なら喋らないと思いますよ。それに、2人も言っていましたが、誰かに喋ったところで誰も信用しないと思います」

「そうかもな」


 今日も散々説明して、ようやくだったもんな。誰かに口を滑らせたとしても、そいつが信用するはずもないってことか。


「そんなことより晃くん」


 切り替えるように、生徒会長な雰囲気を出してくる。


「期末テストは大丈夫ですか?」

「あー。まぁ……」


 赤点はないと思うが、自信がないので、曖昧な回答をしてしまう。


「赤点で補習なんてことになったら許しませんから。自信がないなら今から勉強しますよ」

「この時間から? 厳しいっすね」

「厳しくもなります。補習なんてことになったらデートできないじゃないですか」

「で、デート?」


 いきなりそんな単語が出て来て、ドキッとしてしまうが有希は平然としたいつも通りの綺麗な顔をして言ってきやがる。


「クリスマス。デートしてくれるんでしょ?」


 いや、こちとらデートって単語であたふたしてるってのに、有希はどうしてそうも平然としてられるんだよ。


 なんて声に出すのも男らしくないと思い、「あ、ああ」と小さく頷いた。


「だったら、今からでも勉強しますよ」

「はい」


 素直に彼女へ従って、勉強を開始した5分後。


 急に有希が悶えだしたのは、多分、俺と同じだろう。


 クリスマスデートって単語を放ったからだろうな。

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