第49話 久しぶりのコンビニおにぎりは味気ない

 目が覚めた時、ちょっとだけ違和感があり、枕元に置いてあるスマホを見ると時刻は7:32を示していた。


 今日は有希が起こしに来てくれないのか、という落胆が訪れると共に、昨日言われたことを思い出した。


『明日は朝一番から生徒会です。正門で持ち物検査をしますので早く出なければなりません。ですので申し訳ありませんが朝食を作ることができません』


 という会話をしたのを思い出す。


 そりゃ俺の面倒よりも生徒会優先だろうから、それで良い。


 ただ、最近は有希が起こしてくれていたから、ちょっぴり、というか、かなり寂しい。


「ま、これが普通だけどな」


 有希が起こしに来ない朝はいつもよりも少し遅めの起床。


 それでも、有希に起こしてもらう前と比べたら随分と早起きとなったものだ。


 以前の8時過ぎまで寝ていただるい体は、不思議と早起きすることで抜けていった。早起きは三文の徳というが、寝起きのだるさがなくなるのならば、俺にとっては三文以上の徳かもしれないな。


 ぐぅぅぅ。


 寝起き一発目で鳴る腹の虫。それも、以前なら朝ごはんなど食べずにそのまま昼飯をガッツリ食べていた。そして、昼間の授業は眠くて仕方ないといった感じだったな。


 しかし、朝食を食べて、昼飯もそこそこの量にすると、昼間の授業はそこまで眠たくなくなった。


 なんだか、有希が俺の健康状態も自ずと見てくれている感じになっているな。


「しっかし、料理はできないからな。しゃーない。朝飯はちと高いが。コンビニ飯にするとしよう」







 なんだか久しぶりにコンビニのおにぎりを食べる気がする。


 通学路をほんの少しだけ逆走したところにあるコンビニでおにぎりを買って、食べながら学校へ向かう。


 食べ歩きは行儀が悪いのはわかっているが、お腹が空き過ぎて仕方ない。有希に見られたらきっと怒られるだろうから、サッと食べるんだが……。


「こんなんだっけ……」


 おいしい。コンビニのおにぎりはおいしい。それは間違いないが、味気ないというか。それは味がないという意味ではなく、味もシンプルでおいしいんだけど。なんというか。


 有希の料理がおいし過ぎてコンビニのおにぎりの味が薄まっている気がするな。それほどまでに俺の胃袋は有希に掴まされたということになるのだろう。


 料理上手な女性がモテるわけだ。いや、昨今のジェンダーレス思考から考えて、料理のできる男性もモテるということになる。


「やはり料理か……。くっ……」


 有希を振り向かすには料理しかないのだろうか……。


 若干の絶望を覚えながら、以前よりは早く、最近と比べると遅い登校時間。


 同じ制服の生徒達が見えだしたところでおにぎりを食べ終える。


 これで有希に会っても大丈夫だろう。


 口の中を完全になくして、同じ生徒達の流れにのり、共に正門を目指す。


「おはようございます」


 正門では、生徒会の人達、生徒指導の先生や、教頭先生が正門に立ち元気に挨拶をしてくれている。


「うわ。最悪」

「荷物検査とか時代にあってないよね」

「だよねー」


 前を歩いていた女子生徒2人が、正門前にいる人達を見てだるそうな声を出していた。


「てか、聞いた?」


「なにを?」


妖精女王ティターニアの噂」


妖精女王ティターニアww 相変わらず可哀想なあだ名ww それで? 噂って?」


「ほら、あの子、彼氏とか作らなさそうじゃん」


「あー。お堅いというか、なんというか。そんな感じはするよね」


「でも、この前の文化祭で男連れて歩いてたんだって」


「えー! うそー! まじ!?」


「まじ、まじ」


「どんな男なの?」


「なんかそこまでは把握されてなかったらしいんだよね。なんでも他校の生徒とか? なんとか?」


「おいー。そこら辺の情報は大事よー」


「ごみんごみん。で、結構イケメンだったとか? しかも、男と思わせないために偽装工作もしたとか噂流れてんの」


「なになに? 付き合ってるのがバレると危ないとか? 燃える恋的な?」


「かもねー。いやー、まさか妖精女王ティターニアに彼氏ねー」


『すみませーん。荷物検査しまーす』


 女子生徒2人の会話が盛り上がりを見していたところで、正門に到達し、生徒会の副会長である男子生徒が彼女達を呼び止めていた。


 良いところで会話を切られたのと、荷物検査とかいう時代錯誤な行為に、彼女達は副会長を睨んでいた。


 女子2人に睨まれて、副会長は後退っていたが、そこは生徒会のプライドなのか、頑張って荷物検査をしていた。


 生徒会も大変だな。


 しかしだ。


 なんだか変な噂が流れてしまっているみたいだな。


 そりゃ、今まで男の気配を感じさせなかった堅物生徒会長が、文化祭で男連れて歩いていたら、多少は話題に上がるだろう。


 完璧な変装……ね。


 あいつ、完璧に場酔いしてたな。


「晃くん」


 前を歩いていた女子生徒2人に次いで、俺が荷物検査をすることになった。検査してくるのは、運良く有希だったみたいで、コソッと名前を呼んでくる。


 キョロキョロと周りを見渡すと、正門にいる人達は全員荷物検査を執り行っている最中であった。


 これは彼女のルール的に誰もいない、ということになっているから名前呼びなのだろうか。


「今日は遅かったみたいですね」


 ジト目で見られてしまう。


「そう? 結構早起きだったけど?」


 あははと笑いながら答えると、「まったく」と呆れた声を出されたが微笑んでくれる。


「遅刻しなかっただけでも良しとします」

「どうも」

「あ、そうそう。今日、バイトが急に入ったので、晃くんのお家には行けないかもです。すみません」

「そうなんだ」


 それは残念だけど。


「バイト優先してくれ」


 当然の答えを返すと、彼女は申し訳なさそうに、「すみません」と再度謝ってから、鞄の中を見せるように言ってくる。


 素直に従い、鞄の中身を開けて彼女へ見せる。


「はい」


 良いですよ、の合図を受け取ると、ジッと俺の顔を見てくる。


「ん?」

「遅刻はしていないし、鞄の中身も大丈夫ですが」


 言いながら、俺の口元に手を伸ばしてくる。


 ドキッとしたが、彼女はなにかをつまんで、そのまま口元にそれをほうばる。


「食べ歩きはダメですよ?」

「……ッ」


 触られたところに手を持って行き、ドキドキを加速させてきやがる。


「明日はちゃんと朝ご飯用意しますね」

「は、はい」

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