第47話 メイドの膝枕
「そういえば占い師さんが、相性を上げるには膝枕が良いと言っていましたね」
チョコレートを、あーんして少しだけ沈黙が流れた後に、有希がそんなことを言い出した。
「俺との相性上げたいの?」
そんなことを言われて嬉しく思い、反射的に声に出してしまった。
「べ、別にそういわけではありませんけど……」
ですが、と言い訳するように言い放ってくる。
「60%という中途半端なのが嫌なのです。0か100が良いので」
白黒はっきりさせたい完璧主義者タイプなのは薄々気が付いていたが、ここでもそれを発揮するとは思わなんだ。
「で、ですから? ですからですね、その、相性を100%にするため? 膝枕を? してあげます?」
「なんで疑問形?」
「う、うるさいですよ、そこ」
顔を赤くして、唇を震わせながら言うもんだから、若干声にビブラートがかかっていた。
提案したくせに、恥ずかしくなっているパターンだ。
しかし、もう言った以上は後には引けない性格が災いし、彼女はその場で正座をする。
そして、膝元を軽く叩く。
「さ、早く来てください」
「い、良いのか……?」
「か、勘違いはしないでくださいね。ただ、60%というのが気に食わないだけです」
あんなもんはおもちゃだし、気にする必要性は全くないと思うが、好きな人が膝枕をしてくれるというまたもないチャンスを、いらぬ言葉で不意にしたくない。俺は素直に彼女の膝元へ頭を乗せた。
「あ……」
頭を乗せた瞬間、彼女から声が漏れた。
こちらとしては、漏らす言葉もないくらいの快感であった。
自分が今まで使っていた枕はなんだったのだと思うくらいに頭にフィットした膝。ロングスカートの布越しだが、やんわりと彼女の体温を感じることができる。その温もりが安心という安らぎを俺へ与えてくれる。
深海をどこまでも沈んでいくかのような心地良さ。無重力の体現。それでいて、彼女の良い匂いが鼻を通り、リラックス効果をもたらしてくれる。
サッ……。サッ……。
頭を撫でられてしまう。
有希の手が頭を撫でる度に、彼女の少し冷たい手から波動のようなものを感じ、脳が幸せホルモンを分泌させる。
もう、ずっとこのままが良い。ずっと……。このまま……。
♢
「あれ……?」
意識が飛んでしまってふと目を開けると、目の前には銀髪のメイドさんがいた。
「おはようございます」
「おはよう……って……」
俺は飛び起きるうようにして体を起こした。
覚えている。俺がどういう状況で意識が飛んだのかを覚えており、窓の外を見た。
「暗い……」
おはようございますなんて言うから、もう朝なのかと思ったら、外は暗かった。
「俺、どれくらい寝てた?」
「そうですね。10分くらいですかね」
「10分!?」
たった10分? たったの?
なのにこの数時間も寝たかのような脳の爽快感はなんだ?
「ふふ。気持ち良さそうに寝ていましたよ。それはそれは子供のように。寝顔も可愛かったです」
寝顔を見られてしまった。
でも、その恥ずかしさを代償にしてまでも、彼女の膝枕は強力であった。それくらいの価値がある。
「これで私と晃くんの相性も中途半端ではなくなりました、かね?」
俺としては相性とかもうどうでも良いくらいに心地良かった。
「まだ、そんなに上がってないんじゃない?」
だからこそ、そんな否定的なことを言ってのける。
「そう、ですか。あはは。そうですよねぇ」
若干落胆の様子を見せる彼女へ、「だからさ」とお願いしてみる。
「これからも相性上げるために、また膝枕してもらって良いか?」
恥ずかしいセリフ。でも、なんとか声に出して問うと、彼女は視線を逸らして。
「べ、別に良いですけどね……」
と答えてくれた。
そして最後に恥ずかしそうに言ってくる。
「で、でも、勘違いだけはしないでください。こ、これは、あくまでも私が中途半端な数字が嫌いなだけですので。晃くんを膝枕したいわけではありませんのでぇ!」
「わかってる、わかってる」
最後の最後まで釘をさしてくる彼女だが、俺としてはまた膝枕をしてくれるだけで、とても嬉しかった。
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