第45話 文化祭終了後の共同萌え萌えキュンなオムライス
文化祭が終了を告げた。
祭りの終了を告げる、あのなんとも言えない喪失感。ド派手な打ち上げ花火が消えていく儚さにも似ている気がするし、長く光続けたが落ちてしまった線香花火の寂しさにも似ている気がする。
準備期間から今日まで、長く楽しかった分、終わりは呆気なかったと感じてしまう。
ただ、今年は総評的に良かったと思える文化祭であった。
久しぶりに会えた親友。
過去を聞いてくれた専属メイド。
そして、俺はその専属メイドを好きだと気がつかされた。
その専属メイドとも、ほんの少しのちっぽけな時間程度だけど文化祭を回ることができた。
短くも濃かった文化祭。
なんとなく感謝の気持ちを込めながら片付けを開始した。
♢
「いつまでその格好なんだ?」
家に帰ると、文化祭の後だろうが有希が家までやって来てくれる。
生徒会の仕事ばかりで疲れているだろうから、今日くらいは良いのではないかと言ったのだが、「契約ですので」の一点張りで、今日も今日とて手料理を振る舞ってくれた。
前までなら気にもならなかった言葉だが、その言葉が今では少しだけ寂しい。
そんな有希の格好は、ロングスカートのメイド服に、ツインテールの文化祭スタイル。いつもの格好と違うので、キッチンに立つ彼女へついついそんな質問を飛ばしてしまった。
「私は文化祭を楽しめなかったので。せめて格好でもと思いまして」
「後夜祭的な?」
「そうそう。それです。ウチは後夜祭がありませんからね」
我が校も昔は後夜祭をしていたみたいだが、今では近隣住民に迷惑がかかるからという理由でなくなってしまったらしい。もしかしたら、誰かがやらかしてしまったのだろう。先代のやらかしは後世まで続くから、本当に迷惑行為はやめていただきたい。その代は楽しいかもしれないが、後の代が辛い思いをしてしまうからな。
「まぁ、書面を集めればできなくもないですが」
「え? そうなの? 近隣住民が反対してるんだろ?」
淡白に言ってくる彼女はフライパンから皿に料理を移しながら説明する。
「別に近隣住民もそこまで反対はしていないみたいですよ。以前は非常識な時間まで未成年である生徒が学校にいるのが問題として上げられました。その際ですね、後夜祭をどうするか生徒達にアンケートを取ったら、やらなくて良いって案が多かったみたいですね」
「へぇ……」
「それで、無くなった次の世代の人達が、やりたいと先生に訴えたのですが、説明するのが面倒な学校側は、近隣住民のせいにして、やるなら書面で許可を取って来い、としたらしいです。それが面倒なので、後夜祭をやらなくなったと」
流石は生徒会長。学校の裏部分も把握なさっている。
「ま、俺的にはやらなくても良いいかな」
「なんでです?」
聞きながら、コタツテーブルに並べられる料理。ふわっと、とろとろオムライスが運ばれてきた。
「え、いや、まぁ、なんとなく?」
そりゃ、後夜祭があったら生徒会は借り出されて、有希との時間が減る。なんて、恋人でもないのに言えない。
「祭りは好きだとおっしゃっていたではありませんか」
「うっ……」
以前のセリフを覚えてらっしゃるとは、流石は学年1位の生徒会長様である。
「わ、わぁ。今日はオムライスかぁ」
誤魔化し方がわからず、下手くそなセリフを放ってしまう。
だが、彼女はこちらの下手な演技にはツッコミをせず、ジト目でこちらを見てくる。
「ウチのクラスのどこかの買い出しの人が、調子に乗って卵をバンバン買ってきたらしいので持って帰って来ました」
「へぇ。どこのイケメン?」
「聞いた話なのですが、守神晃っていう名前らしいですよ」
「うわぁ。読み方変えたら、しゅじんこう、じゃん。恵まれた名前ぇ」
「ぷっ。本当ですね」
いきなり吹き出した有希。どうやら彼女のツボに入ったらしい。
「晃くんが……。主人公……。ぷくく」
「な、なんだよ。主人公っぽいだろうが」
「ま、まぁ……。ぷっ。あはは。で、ですね。くくぷ!」
そんなにツボることなのかわからないが、珍しく腹を抱えて笑っている。それはそれで失礼だと思うのだが……。
「いつまでも笑ってないで食べるぞ」
俺はスプーンを持ってオムライスを食べようとすると、「待ってください」と制止されてしまう。
何事かと首を捻っていると、有希はコタツテーブルに置いていたケチャップを手に持った。
「今日も特別に、専属メイドが絵を描いてあげます」
「おお」
そういえば、初めて料理を作ってくれた時も絵を描いてくれたな。
「どうします? 今回もメイドのお任せにいたしますか?」
「そうだな……。うん、今回もお任せでいい?」
前回はゲーム機だったので、今回は単純になんだろうという好奇心から、以前と同じおまかせを注文する。
「かしこまりました♪」
すっかりメイドモードの有希は、鼻歌混じりでケチャップでオムライスに絵を描いていく。今回は前回とは違い、一筆書きで簡単に書き終えた。
「できましたね」
ふぃと満足気に額の汗を拭う有希は、やりきった感を出していた。
「これは……」
オムライスに書かれたのは、♡マーク。綺麗な赤色の線に黄色のハートが出来上がっていた。前回とはえらく違い、シンプルな王道スタイルできたもんだ。
「あ……」
何かに気がついた有希は、あわあわと焦り出した。
「こ、これは違いますよ? か、勘違いしないでくださいね。べ、別に晃くんに向けてのとかじゃなくて、最近メイド喫茶で、♡の要望が多いからであってですね……」
「そうなんだ」
メイド喫茶のオムライスといえば、♡とか、大好きとか、そういうのが多いイメージなので、特に何も思わない。というか、これで勘違いするほど、俺も童貞を拗らせてはいない。
「むぅ。それはそれで……」
どこか拗ねた表情の彼女へ首を傾げると、「なんでもないです」とちょっと怒ったような口調であった。
「とにかく! 今からおまじないしますよ!」
「あ、おまじないね……」
「覚えていますか?」
「なんとなく」
あの時は全力でやったけど、意識し出した相手とあれをするのはちょっと恥ずかしいというか、照れるというか。嬉しいし、やりたいけど、やっぱりドキドキするというか。
「いきますよぉ。おいしくなぁれ、おいしくなぁれ。萌え萌えキュン♡」
「キュン……」
手でハートを作って以前と同じようにやるが、有希はどこか納得いっていない様子であった。
「どうしたのですか? 今日は調子悪いですね」
「いや、まぁ……なんだ。ちょっと……」
「調子の悪いご主人様には、こうです」
言って無理矢理に俺の手を取り、強引にハートの欠片を作らされる。
もう半分を有希が作って、俺と有希の♡が完成する。
「いきますよぉ。おいしくなぁれ。おいしくなぁれ。萌え萌えキュン」
「キュン…………」
さっきよりも恥ずかしさマシマシで声がやたらと小さくなる。
「むむ。今日のご主人様は調子が悪いですね」
「流石にこれは恥ずかしいだろう」
「あ……」
気がついていなかったのか、有希は声を漏らすと、すぐに慌てて手を引っ込める。
「店でも客とこんなことしてんの?」
「し、してません! こんなことするのは晃くんだけです!」
弁明するように声を若干荒げて放たれる言葉がすごく嬉しかった。
この行為は俺だけなんだ。俺だけの特別なんだ。と優越感が芽生える。
「あ、い、いや。その……」
自分の発言が恥ずかしいことに気がついた有希は、言葉を詰まらせて、ひたすらにあたふたしていた。先ほどまでと逆転の状況に、俺は、俺と有希の、♡であえた萌え萌えキュンのオムライスを食べ始める。
「うまっ……」
なんだか今日のオムライスはものすごくおいしく感じた。
片想いの人と一緒に唱えるおまじないは効果絶大らしい。
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