第38話 親友は有名人
「晃くんと正吾くんのクラスはなにをするんだい?」
先程渡したパンフレットを見ながら芳樹が聞いてくる。その問いには正吾が答えた。
「おう。俺達はメイド喫茶だぜ」
「へぇ。メイド喫茶か。僕は行ったことないから興味あるな」
「おかえり。ご主人」
「え? 正吾くんがメイド?」
「だぜ」
「ちげぇだろうが」
正吾の頭を軽く小突いてツッコミを入れておく。
「お前みたいなメイドがいてたまるかっ!」
「おい晃。俺の顔面偏差値は高いぞ」
「顔が綺麗でもお前みたいなバカなメイドは許されねぇ」
「なんでぃ! ドジっ子メイドって存在するだろうが」
「お前はドジじゃなくてバカなの! 超えられない壁があるのっ!」
「のおおおおおお! 俺はドジじゃないのか!?」
本気で凹んだ様子の正吾を見て、芳樹はいつも通りみたいな安心した表情で俺に聞いてくる。
「メイド喫茶は女子生徒がしてるんだよね?」
「ああ。男子はキッチンだよ」
「なるほど。それは理に適っているポジションだね」
爽やかな声を出して納得する芳樹は、パンフレットを眺めながら俺達に提案してくる。
「だったら晃くんと正吾くんのクラスに行っても良いかな? 2人のクラスは絶対回りたかったし、それに次にどこに行くか座って考えられるから」
「段取り的にはそれがベストかもな」
「よしきた。俺のハイパーメイドを見せてやるぜ」
「お前は客だぞ」
♢
「おかえりなさいませ♪ ご主人様」
クラスメイトの白川琥珀がこれでもかというくらいに似合っているメイド服姿で俺達を出迎えてくれる。
「って、なんだ。守神くんと近衛くんか。おかえりー」
クラスメイトだとわかった途端、まるで妹が兄を出迎えるフランクな感じに変わる。これはこれで良きだと思う。
「ん? あれ? お友達?」
「どうも。初めまして、2人の中学の時の友達の岸原です」
彼女は芳樹の顔を見て、「岸原……?」と声を漏らした。
「あ、どもども。クラスメイトの白川です」
なんだか保護者が出会って挨拶するみたいなノリをメイド喫茶でやられてしまい、雰囲気が台無しになってしまう。
「白川。設定忘れてるぞ」
注意してやると、「おっとっと」と切り替えて教室内へ案内してくれる。
「それではご主人様方。お席にご案内いたします」
ちゃんと台本通りのメイドを演じると、白川は机を4つ引っ付けてそこにテーブルクロスを引いた簡易の4人席へと案内してくれる。
他のご主人様、お嬢様達の姿も結構見られて、意外と早い段階から繁盛している様子だ。
「あのぉ」
俺の隣に正吾。俺の正面に芳樹が座る形で席に着席すると、白川が芳樹へ話しかけた。流石はコミュ力が高いだけあって、初対面でも余裕で喋りかけれるのだな。
「岸原って……。もしかして、甲子園に出てた岸原芳樹くんですか?」
「あ、はい。そうですよ」
「やっぱり」
白川は手を合わせて、まるで男性アイドルでも見たかのような乙女の表情をした。
「甲子園見ました。めっちゃ打ってましたよね」
「見てくれたんですね。野球お好きなんですか?」
「はい。部活も野球部のマネジャーやってるんです」
「それくらい好きなんですね。嬉しいです。野球好きの方に声をかけてもらえるなんて」
「えへへ。あ、そうだ。サインいただけませんか?」
「もちろん。僕なんかので良ければ」
そう言って白川はメイド服のポケットをまさぐる。しかし、ペンらしきものは見つからないみたいで、少し絶望の顔をしてみせた。
「んあ? この席白川のじゃない?」
そう言って正吾は自分の座っている席を指差すと、彼女は机の中を拝借して、「ほんとだ」と希望の見える顔をしてみせる。そこからペンと数学のノート取り出して芳樹へ渡した。
「お願いします」
「はい」
芳樹は手慣れた様子で、サラサラっとサインを描いて白川へ渡した。
「うわぁ。大事にします」
白川は勉強が得意ではないのに数学のノート大事そうに抱えて、幸せそうに立ち去ろうとしていた。
「ちょっと! 注文取ってから行けよ!」
俺の声に、「そだそだ」と我に返った白川は俺達の注文を取る。注文と言っても、オムライスとコーヒーしかないので、それを3人分注文すると、彼女は今度こそ幸せそうにキッチンの方へと引っ込んだ。
「しかし、随分と手慣れたもんだな」
「あはは。意外と僕みたいな奴でもファンは付いてくれるからね」
「高校野球って人気だもんな。特に芳樹みたいな爽やか系は人気凄いだろ」
「正吾くんに言われたら嫌味にしか聞こえないよ」
「ふっ。顔だけは負けないぜ」
「ほんと、それな」
あはは。なんて、いつもの3人のノリで会話を繰り広げる。
楽しい会話。いつもの会話。のはずなんだけど、どこか引っ掛かりがあるというか、なんというか……。
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