第36話 ロングの有希メイドも見てみたい

 文化祭当日の朝。


 天候にも恵まれた高校生活2度目の文化祭。11月の見事な秋晴れといった様子で、気温も結構温かい。


 学校行事としてもメイン所に属するだろう文化祭という学校行事。それは最早お祭りの一種と捉えていいだろうこの日の学校は、独特のなんともいえない浮ついた雰囲気に包まれていた。


 みんなのテンションは見ているだけで高いと思われる。特に女子なんて準備の期間から見た目にはしゃいでいるのがわかっていたし、女子に好かれようと必死にテンションを上げる男子達。その空間を微笑ましいものを愛でるかのように見守る教師達の存在もあった。


 端的にいうと、全員テンションが高い。


「じゃじゃじゃーん! みんなぁ! 刮目してぇ!」


 白川琥珀の声に教室にいた人達、全員が彼女の方を向いた瞬間。


 うおおおおお。


 そんな異様に高いテンションで行われる2年F組のメイド喫茶ファッションショー。


 半数の女子達が可愛いメイド服に変身を遂げている。有希のメイド服とは違い、伝統的なメイドっぽさがあるロングスカートのメイド服。アニメやゲームでもよく見るメイド服の王道といったところだろう。だが、こんな恰好を普段するわけではないので、女子達もノリノリで着こなしている。特に男子は、今日までお預けをくらっていたのもあり、テンションが上がり過ぎて夜中のテンションみたいな叫び声をだして歓喜に満ちている。


 男子達の歓喜を悪くないといった感じで受け取る女子。普段ならあまり目にしない光景だが、これも文化祭独特の雰囲気がなせる技ということか。


「あれ? 着ないの?」


 隣に立っていた有希は普通の制服姿だったので、自然とそんな質問をしてみた。


「私は自称秘密兵器ですからね。ここぞというところで参上するのですよ」


 流石は文化祭。生徒会長様も変なテンションになってわけわかんないこと言っておられる。


 こちらの目が点になっているのに気が付いて、彼女は慌てて訂正してくる。


「冗談ですよ?」

「わかってるよ」

「ほら、これ。見てください。私は見回りなんです」


 言いながら。『生徒会』と書かれた腕章を見せつけてくる。


「わーった。わーったから」


 笑いながら言って、これ以上この話を続けるのはこちらが面倒になりそうなので、少し気になる質問をしてみる。


「メイド的にはあのメイド服はどうなの?」

「そうですね。私も着ましたが、そりゃもちろん素人が作ったので機能性とかにすぐれてはいません。ですが、普通にレベルの高いメイド服だと思います。私のお店はミニスカですので、ロングを着れるのは新鮮ですね」

「ほへぇ。案外まじな回答するんだな」

「メイドとしては当然です」


 専属メイドのメイド服査定をしてもらったところで、再度メイド服を見て呟いてみる。


「ミニスカも良いが、ロングの姿も見てみたいかも」


 願望が丸出しで出てしまうと、「残念」と軽く舌を出されてしまう。


「もしかしたら生徒会が忙しくて着れないかもですね」

「そりゃ残念だ」


 ロングの有希メイドも見てみたかったが、普段、ミニスカの有希メイドを見ているからな。これ以上の願望は良くないだろう。それだけでもありがたいことなんだから。


「そ、そんなに見たかったですか?」


 聞かれて、そんなに見たかった、というのも変態っぽいし、いや全然、と答えると、じゃあなんでその話題を出した? と変な空気になりそうだ。


「見たかった、かなぁ」


 考えた結果、自分に素直な答えを言うのが正解だと思いながら、相手の様子を探るような答え方をする。


「ふ、ふぅん。そうですかぁ」


 ありゃ? 案外気分を害していないような返答である。こちらとしては、変態と罵られるのを覚悟していたが。これも文化祭マジックなのだろうか。


「おおい晃」


 有希と雑談をしていると、さっき男子達に混じって一緒に叫んでいたから若干喉が枯れている様子の正吾が俺を呼んでくる。


「そろそろ芳樹の迎えに行こうぜ」

「んぁ?」


 時間を見ると9時50分になっていた。俺達内部の連中はいつも通りの登校で、そこから最終準備をする。外部から来る人は10時からなので、もう正門には何人か文化祭へ招待があったお客さんが正門前にいることだろう。その中に、俺達が招待した岸原芳樹もいるはずだ。あいつは真面目だから約束の10分前には来ているだろう。


「だな」


 正吾の言葉に頷いて、俺と正吾は教室を後にする。


「守神くん。近衛くん。暴れちゃだめですよー!」

「でぇじょーぶ!」

「生徒会には迷惑かけねーよ」


 正吾と俺が簡単に返事をして、正門へ向かった。

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