第33話 隣の家の幼馴染が起こしに来てくれるに義類するレア体験
揺れる体。
大森林の深いところ。木と木の間で結んだハンモックに乗って、俺は眠っている。ゆりかごみたいに、ゆっくりと揺れるハンモックの中は、照らす太陽の陽の温かさと、森林の香り、それでいて、小鳥のさえずりが聞こえてきて、極上のリラクゼーションである。
あれ? 俺、なんでこんなところにいるのだろう。
「晃、くん……」
聞こえてくる聞き慣れた声。可愛く耳に心地良い女性の声が聞こえるが、今は声だけしか聞こえてこない。
「晃くん……」
聞こえる。はっきりと聞こえてくる。
もしかしたら、天の声なのではないだろうか。女神の声だとしたらピッタリの声色である。女神の声はこの声であって欲しいとも思える。
「晃くん」
ハッと目が覚める。
目が覚めた時に最初に見た女性。その人を見て、ポツリと声が漏れた。
「女神じゃなくて、妖精か……」
「はい?」
銀髪の妖精は心底呆れた顔をして、「起きてくだ、さい!」と言って、布団ははがしてくる。
「朝ごはんできてますよ」
「あへぇ?」
いきなり部屋に現れた銀髪の妖精が朝食を作ってくれているシュチュエーションは、誰がどう考えても夢の中だと認識できる。
なので俺はそのまま2度寝の快楽へと身を委ねることにした。
「ちょっと! 起きてください!」
声も可愛い美人の妖精は、俺の体を引っ張って無理やりに起こして来る。
「あへぇ? 夢なのに実態がある……? こんな非現実的な美人、夢にきまってるのひ……」
「ちょ……」
妖精はどこか照れた様子だったが、すぐに切り替えてくる。
「なに寝ぼけているのですか? 今日からテストなのですから、しっかり頭を覚醒させて、くだ、さい」
パンパンと頬を優しく叩かれて、その衝撃で少し脳が覚醒する。
銀髪の妖精を見つめて、「ユ、キ?」と名前を呼ぶと、呆れたため息を吐かれてしまう。
「なんでカタコトなんです? できそこないのロボットみたいですよ」
意識は段々と夢の中から現実に戻って行った。目の前の銀髪美少女は妖精ではなく、俺の専属メイドの大平有希。それはわかる。
「あれ……。え? なんで有希が? あれ? チャイムは?」
これがわからない。どうしてチャイムも鳴らさずに部屋の中にいるのかが疑問だったが、再度呆れた様子で有希はポケットからネコのキーホルダー付きの鍵を取り出した。
「お忘れですか? 晃くんが鍵を渡してくれたのですよ」
「あ、そっか……」
そのキーホルダーに見覚えはないが、鍵を渡したのは俺だ。チャイムを鳴らして待たせるのも悪いという言い訳のもと、わざわざ玄関まで行くのが面倒だからと渡したものだ。
「しっかりしてください。もう」
「あはは。ごめん、ごめん」
はぁと再三のため息を吐くと、手を上げてだるそうに言ってくる。
「最近は早起きだと思いましたが……。これが毎日続くとなると苦労が絶えませんね」
「明日も起こしてくれるの?」
「当然です。私はあなたの専属メイドなんですから」
はっきりと起こしてくれる宣言をしてくれる。彼女としては嫌だろうが。こちらとしてはこれほど役得なことはない。
隣の家の幼馴染が毎朝起こしてくれるとかいう非現実体験を、リアル男子高校生で体験できるとは。まぁ、幼馴染じゃなくて妖精だけど。妖精も比喩表現だけどね。
それでも、隣の家の妖精が毎朝起こしてくれるなんて、前世の俺、どんだけ徳積んだよ。まじでありがとう。
本当にあるかどうかもわからない前世の俺に壮大な感謝をしつつ、俺はベッドから起き上がり、有希の手作り朝食を頂くことにした。
「あれ? そういえば今日テスト?」
「そうですよ。今日から1週間テストです」
「げへぇ……」
隣の家の妖精が起こしてくれるのは良いが、テストと聞いて学校に行きたくなくなった。
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