第24話 誰の手作り弁当?

「お待ち、晃」


 白川琥珀と相席してもらい、やり取りをしていると、こちらの存在に気が付いた正吾が、トレイに料理を乗せてやって来る。


 俺の向かいに座っている白川琥珀を見て、「うぃ、白川」と挨拶をすると、それに対し

て、「やっほ、近衛くん」と彼女も軽く手を上げて応答した。


「席なくてな。白川が相席してくれたんだよ」


 相席しているのだから、なんとなく事の流れはわかりそうだが、一応、説明しておく。


「サンキュな。白川」

「いやいやー。これはWIN-WINの関係だから大丈夫だよ」

「WIN-WIN?」


 正吾は首を傾げると、「まぁ良いか」と気にせずに俺の隣に座ろうとする。


「ちょっと待った」

「んだよ」


 この座り位置で、正吾が俺の隣に来るのは、わからないでもない。だが、俺はそれを阻止させてもらう。


「さっきから俺とお前は色々と言われてんだ。とどめに横に座られたら、もう言い訳できないかもしれない」

「なんの話?」

「俺の尊厳の話だ」

「はぁ?」


 なにもわかってない正吾。こいつの発言も大概含まれるのだが、気にしていない様子である。


「白川、ごめんだけど、こいつと隣でも良い?」

「え? うん。わたしは良いけど」


 白川はあっさり了承してくれた。別に男が隣に来ようが何だろうが気にしないタイプらしい。


「おい晃。なに水臭いこと言ってんだよ。俺とお前は一心同体だろう」

「男臭いこと言ってんじゃねぇよ。気色悪い」

「酷くない!?」


 正吾はイケてる瞳をウルっとさせて、トボトボと白川の横に座った。こいつはわかっていないだろうが、白川は可愛い女子だ。その隣にナチュラルに座れることをありがたく思え。なんて言うと、変な空気になりなそうなので口には出さないでおこう。


 正吾が来たので、俺は大平からもらった弁当の、青い包みを机の上に広げた。


「そういえば、守神くんはお弁当なんだね」


 予想外な声を出す白川へ、正吾が反応を示した。


「晃が弁当なんて初めてだけどな」

「へぇ。そうなんだ。普段は学食?」

「おう。だから晃が自分で弁当作って持って来るなんて初めて見た」


 正吾の発言に、彼女は首を捻った。


「なんで本人が作った限定になるの? 普通はお母さんとかじゃないの?」

「そりゃ……。ああー……」


 口を滑らせて、しまった、と言わんばかりに泣きそうな顔をしてこっちを見てくる。そんな正吾へ笑って言ってやる。


「別に隠してるってわけじゃないから言っても良いんだぞ?」

「すまん! 晃!」

「別に良いって。マジで隠してないから」


 こっちの内輪ネタに白川は首を捻っていた首を更に捻っている様子なので、すぐに答えを言ってやる。


「まぁ。自慢だが1人暮らしをしててな」

「え!? そうなの!? 高校生で!?」


 白川は目を見開いて、酷く驚いた顔をしていた。そりゃ、高校生で1人暮らしをしているなんて相当珍しいと思う。周りの友人でもいないのが当たり前だろう。


「すごいね。なんだか大人みたい」


 感心する声で、「へぇ」とか「ほぉ」なんて漏らしている。


「白川。あんまり言いふらすんじゃねぇぜ」

「お前が言うかね」


 イケメンの、指を立てて口元に持っていくには絵になるが、口を滑らせた張本人が言っても説得力はない。


「わかった。わたし達だけの秘密だね」


 白川琥珀は存外ノリが良いらしく、秘密結社を設立した女幹部みたいな感じで言ってのける。


「この秘密は墓場まで持っていくよ。アーメン」


 ノリが良いというか、もしかしたら正吾に近い、バカなのかもしれない。


「でも近衛くん。それって本当に守神くんが作ったお弁当なのかな?」


 ギクっと内心で動揺してしまう。顔には出していないので、正吾はこちらには反応を示さず、白川琥珀へと視線を向けた。


「どういう意味だ?」

「だって、今まで学食だったんでしょ? それが今日突然にお弁当ってことはさ」


 ニタァっと可愛い顔を歪ませて、含みのある笑みで楽しそうに言ってくる。


「彼女のお手製だったりして」

「なにいいいいいい!?」


 正吾が周りの様子なんてフル無視して机を、ドンっと叩いて立ち上がる。騒がしい学食だが、そんな喧騒も突き抜ける驚愕の声に、何事かと周りの連中も反応を示したが、すぐに、ザワザワとした学食へと移りゆく。


「守神くん! 彼氏だが彼女だがが嫉妬をしているよ!」

「煽ってんじゃねぇよ!」


 白川は楽しそうに煽ってくるが、正吾は頭を抱えて、あたふたしている。


「祝福しなきゃ! 晃の彼女出来た記念で! ええっと、こういう時のお祝いは……。ウェディングドレスっていくらするんだ!?」

「落ち着いて近衛くん。話が飛躍しすぎて訳がわからないよ」

「あ、そ、そうか。まずはウェディングケーキ入刀しないとな」

「この人、なんでこんなに焦ってるの?」


 勝手に動揺している正吾を無視して、俺は弁当を開いた。


「なんで守神くんは目の前でガタイの良いお兄さんが動揺しているのに、冷静なの?」

「バカだからじゃないか?」

「あー。なるほど」


 そこで納得する白川も、クラスメイトなのでこいつのバカさ加減は承知済みらしい。


「なぁ晃? 挨拶の時はネクタイか蝶ネクタイ。どっちが良いかな?」

「タンクトップで良いんじゃない?」


 こいつは誰になんの挨拶か知らんが、適当に答えておくのがベストだろう。


「お、おう。タンクトップなら3着はあるから安心だな」 


 偉くリアルな数だな。


「というか、正吾。白川も。俺に彼女なんていないから。この弁当は俺の、まぁ手作りってところだ」


 正吾はなんか知らんが焦っているので放置でも良かったが、白川はなんだか怪しんでいる様子なので説明しておく。


 大平との契約上、そう言うしかないので、とりあえずは俺が作ったことにしておいた。


「守神くんの、手作りねぇ」


 こちらのお弁当の中身を見て、含みのある言葉を放ってくる白川。なにか言いたいことがあったみたいだが、先に正吾が口を開いた。


「んだよ。焦ったぜ。晃に彼女ができたと思って、壮大なパーティを開くために、貯金を全て下ろす算段をしてしまったぜ」


 正吾の方はすんなりと信じてくれたみたいだ。こいつは詐欺師とかに気をつけないといけないな。


 やたらと大袈裟な正吾の発言に、白川はこちらへのツッコミはやめて、微笑ましい表情で正吾を見ていた。


「やっぱり2人って仲良いんだね」

「おうよ。もはや家族を超えし存在だからな」

「きもいが……。まぁ、そんなところだろうな」

「へぇ」


 白川は俺と正吾を見比べると、羨ましそうな顔をした。


「うん。良いよね。そういう関係って。羨ましい」

「白川にはいないのか? 俺と晃みたいな関係の親友は」


 恥ずかしげもなく問う正吾の質問に、白川は寂しそうに答えた。


「友達って呼べる人はいるかもだけど、2人みたいな関係っていないかな」


 だから、うん。と白川は改めて言ってくる。


「とっても羨ましい」


 昼休みに、クラスメイトから羨ましがられて、なんだか照れ臭いが、とりあえず、大平の弁当の話題から逸らすことには成功した。

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