第23話 相席学食
「こおぉお」
ダースなベイダーさんの呼吸音のように、俺の名前を呼んできやがる。
だがその実、目の前には全身黒のマスク男ではなく、ガタイの良いイケメンが現れた。
「飯行こうぜ」
耐えた、という表現がしっくりくる授業も折り返しの昼休みになった。
いつも通り正吾が誘ってくれるが、彼は俺の席の後ろの銀髪美少女をチラリと見て、「おっと」と声を漏らした。
「今日も生徒会の手伝いあるのか?」
その手伝いというのは、ながれで発した、存在しない生徒会の手伝いのことだろう。
騙そうとした嘘ではないにしろ、気を使ってくれる正吾に多少の罪悪感を抱きつつ、答えようとすると、先に大平有希が答えた。
「今日は大丈夫ですよ。ですので守神くんとイチャイチャしてください」
「おい。言い方」
その気持ち悪い言い方に、「良かったぜ」と正吾が反応した。
「昨日は1人で寂しかったからな。危うく寂しくて死ぬところだったぜ。今日は昨日の分も晃とイチャイチャさせてもらう」
曇りのない晴れた表情で、さわやかに言うもんだから大平がこちらに耳打ちをしてくる。
「あの……。冗談で言ったつもりなのですが……。本気で?」
「バカ言うな。冗談に決まっているだろ」
「そうですかぁ」
ニヤニヤと言ってくる大平有希の顔は間違いなくこちらを煽っている様子である。
「ま、私はあなたがそっちでも関係ありませんので。どうぞ、恋人との時間をお過ごしください」
「おい、話聞けや」
「ごゆっくりぃ」
なにか壮大な勘違いをしたままに教室を出ていく大平有希。その手に持たれたピンクの包みを見て、ふと思う。
あれって、俺と中身が同じ弁当なんだよな。
そう思うと、なんだかむず痒い気持ちにもなる。
「晃。
ガシッと肩を組んで、まぁ大きな声で言うもんだから、クラスの女子から黄色い声が飛んで来た。
「おい。離れろよ」
「もう、離さねぇよ」
ここぞとばかりにイケボで放つと、更に黄色い声援がわいた。
クラスの女子達も、かけ算だの、カプだの、なんだのと俺にはわからない用語を発して盛り上がりを見せていた。
大平有希だけではなく、クラスメイト達にも壮大な勘違いをされてしまったようだ。
♢
クラスメイト1人1人に弁明するのも面倒なので、近衛×守神のカプはそのまま昼休みの学食へとやって来た。
いつも混んでいる学食だが、今日は特別混雑している様子だ。たまに、こういう日がある。いつもの学食組に加えて、気分で今日は学食にしようとする学生がいる。どうやら今日は気分屋組が多く被ったみたいだな。
こう言う時は席を確保するのがセオリー。来慣れた学食なので、大体どこの席が空いているかは把握している。
「正吾。買って来いよ。今日は俺が席を確保するから」
「んぁ? 珍しいな。いつもは晃が行くのに」
いつもの流れは、俺が席を見つけ、そこに正吾を座らせている流れ。それは正吾が席に座った方が、ガタイが良いので目立つからである。
「今日は弁当だからな」
言いながら俺は先程から手に持っていた青い包みを見せた。
「それ弁当だったんだな」
「逆になんだと思ってたんだよ」
「レアな、なにかしら」
「んだそれ」
正吾の答えに、笑いながらこちらの言葉を続ける。
「だから、今日は俺が席を確保しとくから、正吾は飯買ってこいよ」
「オッケー」
そう言って分かれ、正吾は食券の方へ、俺はいつもの穴場の席へと足を向ける。
ガヤガヤと色々な人が行き交う学食内は、まるで休日のショッピングモールのフードコートみたいな混雑である。
時折、肩がぶつかりそうになるのでカニ歩きになったり、ジグザグに歩いたりして、穴場の席へ目指すが。
「そりゃ、こんだけ混んでたら埋まってるか」
既に穴場の席は埋まっていた。というか、俺が勝手に穴場って呼んでるだけで、他の生徒も知ってるから穴場とは言えないだろうよ。
さて、どうするか。
腕を組んで悩む。
最悪は、学食を出て、中庭なり、グラウンドなり、どこでも食べれないことはない。学校側も極力は学食内で食べて欲しいということだが、席がない場合は、食器だけ返せば外で食べても良いと言っている。
外はまだまだ暑い気候。これが冬なら辛いが、今の時期なら外で食べるのも苦ではないだろう。
今日に限っては仕方ないだろうと、意向を決めて、正吾に伝えようと食券の方へ歩みを始めた。
「守神くん」
歩いて数歩したところ、女子生徒が俺の名前を呼んでくるのがわかった。
誰に呼ばれたのか、視線を右往左往していると、ミディアムヘアの可愛い顔した女の子が、軽く手を上げて、「こっち、こっち」と手招きしていた。
「白川」
クラスメイトの
「どうした?」
聞くと、周りを警戒するように小さく言ってくる。
「いや、その、4人席が空いてたから座ったんだけど、わたし学食って今日初めて来てね。こんなに混雑してるって知らなくてさ」
「あー」
彼女の、コソコソと周りを気にしながら喋る口調からなんとなく察した。
「周りの視線が痛いと?」
「そう! そうなんだよぉ」
正解を言い当てると、ふわっとテンションが上がったような声が出ながらも、テンションは下り坂を転がる石ころみたいに下がり、泣きそうになりながら机に突っ伏す。
「『なんでこんな混雑してるのに1人で座ってやがるぅ』みたいな白い視線を感じて……。これもお弁当を忘れたわたしへの試練かなぁ、と嘆いていたところ」
まぁ確かに、そう言った白い目もあるだろうが、白川琥珀も結構可愛いで有名な人だ。男子共の憧れの視線もそこに混じっていたことだろう。
彼女は野球部のマネージャーをしている。陰で男子が、「俺の股間もマネジメントしてくんねぇかなぁ」とか下ネタ爆発な発言をしていた。発言はともかくとして、人気な女の子には間違いないのだろう。
突っ伏したまま、視線を向けて来るもんだから、上目遣いで見られてしまう。大平有希とはタイプの違う可愛い系の女子の上目遣いは男心をくすぐるものがあった。
「そこで、クラスメイトの守神くんが通ったから声かけさせてもらったんだよ。席探してたでしょ?」
「ああ。中々見つからなくてな」
答えると、白川は体を起こして提案を出してくる。
「だったら相席してよ。わたしは白い目で見られないし、守神くんは席が確保できる。良い案でしょ?」
「それはありがたい提案なんだけど」
チラッと食券の方を見ると、正吾はまだ並んでいるのが伺えた。あいつガタイが良いから見つけやすいったらありゃしない。
「けど?」
こちらの曖昧な返事に小動物みたいに首を傾げる。
「正吾もいるけど大丈夫?」
「正吾……?」
更に首を傾げる白川を見て、男子の下の名前なんてそうそう把握していないと納得し、名字呼びに変えようとしたところで、「ああ」と声を漏らした。
「正吾って、もしかして近衛くん?」
「そうそう」
「もちろん。大丈夫だよ。守神くんと言えば近衛くん。近衛くんと言えば守神くんだし」
どうやら白川琥珀にも俺達はカプ認定されていたようだ。
まぁ四六時中学校で一緒にいれば勘違いされても仕方ないというか……。
「勘違いしないでください。別にあの人とはそういう関係ではないので」
瞬時に浮かんだ、どこかの銀髪美少女のモノマネをしてみせると、「ぷっ」と白川は吹き出した。
「あはは。大丈夫、誰も本気でそうは思ってないから、ぷくく」
「その笑いは、今の俺のセリフが気持ち悪いということで受け止めれば良い?」
「うん。ぷっ。気持ちは良くなかったかな。ぷふ」
うん。俺にこのキャラは向いていないらしい。このキャラは甘んじて大平にあげることにしよう。ありがたく思いたまえ、
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