第19話 全快のメイド様
大平有希が倒れた翌日。俺はいつも通りに登校し、いつも通りに教室に入ると、俺の後ろの席には大平有希がいつも通り座っていた。
今日も自分の手帳を見ているが、昨日と違うのはフリクションのペンで何かを書いては消して、何かを書いては消してを繰り返している様子だ。
無理をして登校したのではないかと少し不安だったが。
「相変わらずギリギリのご登校で、ご主人様というのは良いご身分ですね」
席に着くなり、開幕1番でそんな棘が飛んでくるので、体調は悪くなさそうだ。
「絶好調みたいだな」
席に座って、スクールバッグを机の横のフックにかける。
「お陰様で」
この会話から、彼女の体調は随分と良くなっているのが伺える。しかしながら、顔色を見ていないので、確認のため体調を伺おうと後ろを向いた時だ。
「昨日はありがとうございました」
目が合うより先に頭を下げてお礼を言われてしまう。予想外のアクション少し驚きを隠せなない。
「やめてくれ。変に目立っている」
学校でも美人生徒会長で目立つ存在の大平有希が、朝から教室で前の席の男子生徒に頭を下げていれば、そりゃ目立つわけで。全員が見たというわけではないが、クラスメイトの数人が視線だけで何ごとだろうと反応を示すの伺えた。
「お世話になった人にはキチンとお礼を言わなければなりませんので」
言いながら頭を上げる彼女へ問う。
「学校で馴れ馴れしく喋りかけるなって言ってなかった?」
「それとこれとは別問題です。と言うか、あの時にそう言ったのはあなたのにやけ顔が嫌だったからですよ」
俺、そんなににやけてたかなぁ……。確かにあの時は、クラスの可愛い系の女子が俺の椅子に座って間接ケツをしたからニヤけたかもしれないけどさぁ。
「そんなことよりも、昨日はお世話になりました。本当にありがとうございます」
改めてお礼を言われてしまい、なんだか気恥ずかしい。
「真面目だねぇ」
感心した声を出しながら周りを見渡すと、クラスメイト達の視線は既に自分達の会話へと戻っており、こちらに注目する人物はいなかった。
ただ1人だけを除いては。
「うぃ。晃。なんだ? なんだ? 昨日なにかしたのか?」
犬みたいにやってくるガタイの良いイケメンが、陽気に笑ってやってくる。どうやら
こちらの会話が聞こえていたようだな。
大平有希と目が合い、どうしようかとアイコンタクトを送りあい、俺が先に口を動かした。
「昨日、生徒会の仕事を手伝ったからお礼言ってくれたんだよ。な? 大平」
瞬時に出た嘘に対して、大平有希は目を丸くしたが、すぐに素の表情に戻る。
「はい。色々と手伝ってもらって」
「へぇ。そうなん」
正吾は俺に顔を近づけて耳打ちをしてくる。
「それって、
「そうだぞ。だからお前は今の席になったことを感謝して授業を受けろ」
「お、おおぅ。そうだな。それなら今の席の方がマシだ」
「あの。聞こえてますよ」
大平有希がジト目で正吾を睨みつけると、「おっと」と声を出す。
「いけねぇ。次の時間の復習をしないとな」
言いながら逃げるように自分の席へハウスする正吾を見ながら大平有希が言った。
「親友へも息を吐く様に嘘を吐くのですね。人間の心はおありですか?」
「正直に言って良かったの?『俺は昨日大平の看病をしたんだぜ』って」
言うと、彼女は数秒考えてみせる。
「今だけは、あなたに人間の心がなくて助かりました」
「だろ? てか、俺、人間の心あるから。下町心あるから」
「自分で言ってたら信憑性にかけますよ。と言うかなんですか。下町心って」
「人情と言えば下町じゃない?」
「知りませんけど」
呆れた声を漏らしながら、中身のない話題を改めるような雰囲気でこちらを見てくる。
「ん?」
「あ、いえ」
あまりに会話が面白くないので怒っているのかと思ったが、そうでもないみたいだ。
「少しお話しがありますので、昼休みに生徒会室に来ていただけませんか?」
「告白の場所の定番は体育館裏だろ?」
「モテないのに告白の定番の場所を知ってるなんて怖い人ですね」
「おい待てごら。誰がモテないって?」
「モテるのですか?」
「ちくしょう……。なにも言い返せない」
反論できずにいると、大平有希は小さく笑って見せた。
「それで? 告白じゃないなら何の話?」
「例の件についてあなたと話しがしたいと思いまして」
例の件。その表現が、専属メイドの件だということをなんとなく察した。
「教室で喋るには目立ちます。私達のマンションで喋るのも良いのですが、あいにくと今日はバイトがありますので。すみませんが、昼休みによろしいでしょうか? もちろん、今日ではなくても良いのですが」
最後につけ加えたセリフで、急ぎではないというはわかるが、その話題を今日だしたのだから、今日、聞いてほしいのだろう。
「わかった」
俺は部活も委員会にも所属していない身だ。昼休みは基本的に暇をしているので、首を縦に振った。
「ありがとうございます。ではお昼休みにお待ちしておりますね」
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