第20話 メイドとWIN-WINの関係
4限まで耐えるとお待ちかねのハーフタイムへと突入。お昼休みという至福の休憩時間で英気を養い、残りの授業を耐えたら天国への道が開かれん。
今日のハーフタイムは少し日常とはかけ離れた時間となりそうである。
いつもなら正吾と共に、学食にでも行き、美味しくもない学食を食べて、グダグダと過ごしている時間。
しかし、今日は生徒会長からお呼び出しをくらってしまった。
正吾には朝の話が効いており、すんなりと、「いてらぁ」と見送られてしまった。
話の内容は大体把握できている。
話というのは、おそらく専属メイドをやめるといった話だろう。
実際、今までは倒れたことがないのに、専属メイド宣言をしてから倒れたとあれば、生活を見直す必要がある。その中で1番最初に切るべき事項はそれだろう。
彼女が俺の専属メイドになるというのは、俺が彼女の秘密を知ったから。俺が秘密をバラさない約束で世話をしてもらっている。しかし、何度も言っているが、彼女の秘密をバラす気なんて毛頭ない。
だから、彼女がもう勘弁してくれというのならそれで良いとは思う。
逆に、掃除をしてくれたり、料理をしてくれたりして、感謝しかないので、やめると言われたら快く了承する。
4階にある生徒会室に出向くと、既に鍵は開いている状態だった。一応、礼儀としてノックをすると、「どうぞ」と扉越しから籠った声が聞こえてくる。
中に入ると、以前入った時と同じ生徒会室の光景が広がった。
三角形に並べられたデスクと、その奥にある高そうなデスク。そこには誰もおらず、ソファーの方に大平有希が座って、優雅にティーカップを口に付けていた。
ティーカップを飲む姿だけで芸術を感じてしまうほどに美しい。
「どうぞ、お掛けになってください」
「あ、はい」
彼女の対応がメイドの時とは全く違い、なんだか、ザ・生徒会長と言った大人の気品を感じてしまい、つい敬語で返事をして、正面に向かい合う形で腰を下ろした。
「紅茶ですが、飲みますか?」
「いただきます」
遠慮なく答えると、大平有希は立ち上がり、生徒会室の壁側にあるガラス張りの棚からティーカップを取り出すと、俺の前に並べてくれて、ソファーの前のセンターテーブルにあるティーポットより紅茶を淹れてくれる。
彼女の淹れてくれた紅茶を飲むと、砂糖を入れてもいないのに、どこか甘く、ほろ苦い紅茶が体内を流れる。
「美味しい」
「お口にあって良かったです」
同意を得れて嬉しそうな顔を見せる彼女は、この紅茶が好きなのだとわかった。しかし、別に彼女のご機嫌を取ろうとして出た感想ではなく、忖度なしの感想である。
「他の役員はいないのか?」
「来ませんよ。基本的に活動日以外は使われません。そもそも鍵を持っているのも私だけですので」
「なるほど」
秘密の話にもってこいの場所ってわけか。夏休み明けの日も、容赦なく連行されたのはここだったもんな。
「それで、話って?」
カチャリとティーカップをセンターテーブルに置いて、本題へ入ろうとする。
大体の内容は予想できているが、彼女の口から聞くこととする。
「はい」
彼女は歯切り良く返事をしてから内容を語ってくれる。
「昨日、考えたのですが、やはりあなたの言う通りですね。働き過ぎだと思いました。無理をして倒れてしまっては、生徒会にもメイド喫茶のバイトにも、あなたにも迷惑をかけてしまう。なので、あなたの意見を参考に考えたのですが──」
ゴクリと、生唾を飲んで次の予想していた言葉を待つ。
「メイド喫茶の仕事を減らそうと思いまして」
「はへ?」
自分が全く予想もしてなかった言葉が出てきて、生まれてこの方、1番の間抜けな声が出たのではないかと思うほど、阿呆な声が出た気がする。
「ちょ、ちょっと待て。俺の専属メイドをやめるんじゃないのか?」
「はい? どうしてです?」
「いや、だって、消去法で言えば、明らかにそれをやめるべきじゃない?」
「別にあなたの専属メイドなんて大した負荷ではありません。それよりも、生徒会やメイド喫茶のバイトの方が負荷が大きいです」
それに、と付け加えてくれる。
「以前よりメイド喫茶の店長から、働き過ぎだからシフトを抑えるようにも言われてしまいましたし」
「あー」
そのセリフを聞いて、どこか納得する。
働き過ぎて過労で倒れられても困るってことか。
そこで実際倒れたし、見直すならばバイトのシフトってわけね。
「しかし、それだと単純に給料が減ってしまいます。別に生活苦になるわけではありませんが、生活水準を下げるのは少し厳しいです」
「上げた生活水準を下げるのってのは厳しいよな」
現代ではスマホが普及されて、スマホなしじゃあり得ない世の中になっているが、これも社会全体の生活水準が上がったといえる。もし、昔みたいに唐突にスマホなしで生きろと言われたら、ほとんどの人達は無理だろう。
上がった生活水準を落とすと言うのは難しいものだ。
「そこで」
パンと可愛らしく手を叩いて、天使の微笑みを見してくる。
「ご主人様と食費の折半をしたいと思います♪」
「食費の……折半……?」
「はい♪」
彼女から聞いたことのない、ルンルンな声を聞いて少し戸惑いが走る。
「守神くんもコンビニのご飯ばかりだと食費が嵩むでしょう?」
「まぁ高くつくわな」
以前も大平に指摘されたことだが、単純計算でコンビニ飯だけでは食費だけで30000円はかかってしまう。もっと節約できるだろうけど、家事のできない俺では無理である。
「そこで、私と食費を折半していただければ、私はご主人様に料理をご馳走します。お互い食費は半分になって、あなたは食べるだけ。どうです?」
「WIN-WINだな……」
いや、冷静に考えれば、明らかにこちらが得をしている気がするので、少し怪しい気もするが。
「毎日料理って……。大丈夫なのか?」
「普段から自炊してますし、1人分も2人分もコストは全然変わりません。それで食費が半分になるならメイド喫茶でのバイトを減らしても、以前より貯金ができそうかもですね」
「しんどくない?」
「息をするよりも簡単なことですね」
どんだけ家事が得意なんだとツッコミそうになるが、実際彼女の家事を目の当たりにしているので、何も言い返せない。
「まぁ……。大平が良いなら良いんだが……。本当に良いのか?」
「良いんです。というか、逆にこちらからのお願いになってしまうのですが。守神くんは大丈夫なんですか?」
「俺も食費が半分になるならなんの文句もないな」
「決まりですね」
そう言って、賭けに勝ったギャンブラーのような笑みで、どこか気高いお嬢様のように優雅に紅茶を飲む。
「では、詳細は実際にやりながら決めましょう。この件は机上の空論よりも動きながらの方が決めやすそうですので」
「任せるよ」
「あ、先ほども言いましたが、今日はバイトですので……。申し訳ありませんが、明日からということでお願いします」
「お願いします」
こうして、専属メイドは続行となる。それどころか、専属メイド率が上がった気がするのだが……。彼女が良いのなら、良いのだろう。
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