第14話 ツンツン生徒会長様

「晃ぉ。席変わってくれよぉ」

「ばかやろう。小便の途中で喋りかけるな。俺は右曲がりなんだから、初球が大事なんだよ。最初の集中を切らすとシュート回転してこぼれるんだよ」

「男子トイレでこぼしてる奴の原因って晃みたいな奴なんだな」


 席替えから数日。


 授業の合間の10分休憩に正吾と連れションをしていると、唐突に彼が泣き言を語り始めようとするのを少しの間だけ待ってもらう。


 用を足し終えて、洗面所で手を洗って軽く髪型をチェックする。うん。乱れていないみたい。


「んで? 今の席に不服か?」


 せっかく正吾が振ってくれた話題に入ると、彼も隣で手を洗い髪型をチェックしていた。


「そりゃ不服だぜぇ。だってよぉ? 1番前だぜ、1番前」

「そりゃ不服だわな」


 あの仕組まれた席替えのカルマは、俺や大平有希にはなんの影響もなく、正吾にとばっちりがいったらしい。


 いや、授業中は基本的に寝ている正吾のカルマともいえるかもな。因果応報というか、寝ているなら起きて授業を聞けと神様からの伝達とも捉えることができる。


「でも、お前。さっきの授業も寝てたくない?」


 ど真ん中の1番前だから、こいつが授業中なにをしているかは丸見えであった。


「ま、俺ってばガタイが良いからな。後ろの席の人達に考慮して体を伏せているってわけよ」

「バカのくせに、上手い言い訳言いやがる」

「あで」


 軽く肩をパンチしてからお互い笑い合って一緒にトイレを出た。


 その時、喋ったこともない女子生徒が俺、というよりは正吾を見てえらく興奮していたな。


 どっちが攻め、どっちが受けとか聞こえた気がするが……。とりあえず、彼女も正吾の見た目だけに囚われた犠牲者と言って過言ではないだろう。


 本当に顔だけは良いもんな。


「だから席変わってくれよ。晃」


 こういう内容のない会話というか、正吾も冗談100%で、とりあえず今の席が本当に嫌なだけの愚痴というか。普段なら、「無理に決まってるだろ」で流す内容の会話に対して、今日は本気で頷いた。


「良いぜ。猫芝先生に許可取ってこいよ」

「まじ?」

「ああ。ただ、これだけは言うが、今後お前の後ろの席は生徒会長となるぞ」

妖精女王ティターニア……」


 正吾は若干顔を青ざめた。


「今更席替えの結果を変えたらクラスメイトにわりぃな。そりゃ公平じゃあない」


 意見を180度変えた正吾。それもそうだろう。


 厳しい生徒会長の目の前で寝るなんて愚者のすることだ。叩き起こされてその後の説教が目に見えている。


 教室に入り、大吾と分かれ自分の席を目指すと、俺の席にクラスメイトのミディアムヘアの女子が座り、後ろの席の大平有希と会話しているのが視界に入った。


 別に、そのことが嫌で正吾との席替えを受け入れようと思ったわけではない。今も、別に後ろから、やいやいとなにか言われているわけでもないが、あなたを監視するって言われて真後ろに監視者がいるってのは、どこか身構えてしまう。


「あ、ごめんね守神くん。すぐにどくよ」


 自分の席に戻って行くと、クラスメイトの白川琥珀しらかわこはくさんが大平有希の席の上に置いたノート回収して席を立つ。


「なんかごめんな、邪魔したみたいで」

「いやいや。私が勝手に守神くんの席に座っちゃってたから。あ、大平さんありがとう」


 彼女は大平有希へ軽く会釈をすると、「いえいえ」と余所行きの完璧な笑顔で軽く返事をしていた。


 白川さんは手を振って自分の席へと戻って行き、先程まで白川さんが座っていた俺の席へ着席する。


 白川さんがどいた椅子からは、どきたてほやほやの尻のぬるい熱を感じる。


「クラスメイトの女子が座った後の椅子にすぐに座ってにやけるの。やめていただきません? 気持ち悪いですよ」

「にやけてねぇわ」


 先程までの完璧な笑顔は消えており、どこかこちらを引いたような顔をされてしまう。


 というか顔に出ていたのか。油断ならないな。てか、女子との関節ケツを堪能するとにやけるだろ。普通。


「それにしても妖精──」


 話題を変えようとして、つい彼女が嫌がっているあだ名を本人の前で言いそうになり、なんとか止めた。


「生徒会長様は人気者ですなぁ」

「人気者って……。別に、今のも白川さんに勉強を教えただけですが?」

「それを人気者って言うんじゃないの? 人気だから勉強を聞きにくるんだろ」

「ただ生徒会長がクラスにいるから利用しているだけでしょ」

「ひねくれてるなぁ」

「あなたには言われたくありません」


 それからと、若干睨みながら言われてしまう。


「学校であまり馴れ馴れしく喋りかけないでください。あなたと仲が良いと思われるではありませんか。この席もあくまであなたを監視するために仕組んだので勘違いしないようにお願いします」

「へいへい」


 彼女からツンツンした棘のある言葉を受け取り、これ以上会話をすると本気で怒られそうなので前を向いた。


 その日の放課後。


ミニスカメイドが俺の部屋にやって来て、俺はなんともいえない矛盾を感じるのであった。

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