第12話 本契約成立

 萌え萌えキュンのオムライスを秒で平らげたら、大平有希がキッチンで、サッと皿洗いをしてくれて、俺の座っている正面に正座した。


「では、本題なのですが」


 時刻は14:14。大平有希がやって来て約2時間が経過しようとしていた。そもそも、話しがあって来たのを、俺の汚部屋掃除や、料理を振舞うことで遠回りになってしまったみたいだ。ようやくと本題に入ることができた。


「その前に、始業式の時、近衛くんに私のこと喋ってないですよね?」

「あの時も言ったが、喋ってねぇよ」


 改めて疑ってくるが、こちらにやましいことなど一切ないので、即答で答える。


 学校の廊下では疑っていた彼女も、再三のこちらの回答に不服ながらも納得している様子を見せた。


「すみません。今度こそ本題なのですが」

「ああ」

「専属メイドってなにをすれば良いのでしょう?」


 彼女の質問にこちらも首を傾げてしまう。


「四六時中、守神くんの面倒をみろ。と言われれば交渉するのですが……」

「いや、学校もあるだろうし、あんたはバイトもあるだろうに。そんな無茶振りはしない」

「そうですよね。だったら、どこまでの範囲で動けば良いのかと思いまして」

「どこまでの範囲、ねぇ」


 なんとも真面目な人だ。流石は生徒会長と言える。


「適当で良いんじゃない?」

「それじゃ、私との契約が適当と言われているみたいで不服ですし、『もともと適当な契約だったし、お前の秘密を適当に喋るわ』と言われる可能性もあります。ですので、キチンと決めてその契約通り動くことにします。その方があなたもより契約を守るでしょうし」


 真面目というか、生真面目というか。


 お堅い生徒会長相手に適当なことを言ってしまったと若干の後悔をしてしまう。


「だったら、まぁ、大平の手の空いてる時に、今日みたいなことをしてくれれば良いよ」

「それというのは、家事ってことですか?」

「ああ。俺は見ての通り家事スキルは皆無だ」

「そうですね。皆無ですね」

「だから、生徒会が暇な時、バイトが休みの日、手が空いた時にでも言ってくれればそれで良いよ。というか、それくらいが良い」


 俺からの専属のメイドっていう提案。毎日こんな美少女が俺の家に来て家事をしてくれるなんて夢のようだが、流石にそれは彼女に気を使う。手が空いた時に来てくれる方がこちらも気を使わなくて済む。それに家は隣同士だし、移動時間はほとんどないから、本当にそれくらいが良い。


「わかりました。では、私の手が空いた時ということで大丈夫ですね?」

「問題ない」

「では、契約は成立です。もし、私の秘密を喋った場合……」

「あんたが俺にピリオドを打てることを、今日1日面倒を見てくれてわかったよ。そんなバカな真似はしない」

「どうですかね。あなた、バカですし」

「ほっとけ」


 とりあえず決まった専属メイドとしての範囲に彼女も納得の様子で立ちあがる。


「では、私はこれで失礼します」

「ああ」


 俺も立ち上がり玄関まで見送ることにする。


 ガチャリと俺の部屋を開けて出て行く大平有希の背中に声をかけた。


「今日はありがとうな」


 部屋の片付けに昼食を作ってくれたことの礼を言うのは至極当然だと思う。


「いえ。契約ですので」


 まぁ、大平有希も別に好き好んで俺の世話をしたわけではなく、あくまでも秘密をバラさない契約のもとでやったことなので、その雪のように冷たい反応も当然と頷ける。


「それでもありがとよ。俺はコンビニの店員にも礼を言うタイプなんだ」

「そうですか。では、失礼します」


 ミニスカメイドは淡泊に言い残して俺の部屋から出て行った。


 振り返り、廊下から開いたドアの先の部屋を見る。


 朝起きた時とは段違いに片付いた部屋は本当に自分の部屋かと疑うレベルで綺麗になっている。


 部屋に戻ると、朝まではゴミが大量に置かれていたコタツテーブルの上のスマホがダンスを踊っているのに気が付く。


 画面に、『近衛正吾』と表記しながら踊るスマホを手に取り、通話のボタンを押した。


「うぃ」

『おいい。晃。飯行かねぇのか?』

「あ……」


 すっかり忘れてた。


「わりぃ正吾。もう昼飯食っちまって」

『ええ! そりゃねぇぜ。こういう日は一緒なのが恒例だろうに!』

「すまん! 今度ハンバーガー奢るから!」

『うん。じゃあ、許す』


 大手チェーン店のマックスドリームバーガーで手を打てる簡単な友人で助かる。


『ちなみになにを食ったんだ?』

「オムライス」

『え? 晃がそんなオシャンティーなもの食うなんて……。もしかして彼女とか?』

「んなわけあるか」

『んなわけあるかもだろぉ。んだよ水くせぇ。彼女できたなら教えろよぉ』

「違うっての」


 出来たのは専属メイドだなんて言えるはずもなし。


「とにかく今日は悪かったよ」


 電話を切ろうとしたところで、『そういえばよぉ』と話題を振って来る。


『芳樹からLOIN来たか?』

「芳樹? ああ、来てたな。そういえばまだ内容見てなかったけど。お前のところにも来てたのか?」

『来てたぜ。多分同じ内容だと思うが、ウチの学校の文化祭来たいから呼んでくれってさ』

「へぇ。甲子園のスター様が俺らみたいな庶民の学校にねぇ」

『あいつが月になっても、すっぽんになっても、俺らの関係は変わらねぇよ』

「はは。だな」


 乾いた笑いが出て、正吾の言葉を肯定する。


『それでよぉ。文化祭っていつか知ってるか?』

「あー。俺も詳しい日程は知らないなぁ」


 まだ文化祭の詳しい日は発表されていない。


「大平にでも聞くか」

『大平? そういえば今日も大平と喋ってたよな?』


 しまったな。さっきまで生徒会長と絡んでいたから、ついつい彼女の名前を呼んでしまった。


『もしかしてオムライス一緒に食べたのって大平か?』


 普段バカのくせして、こういう時は勘の鋭い奴だな。


「んなわけねぇだろ。生徒会長が同じクラスにいるんだし、聞けば良いってだけだ」

『なぁる』


 自分でも神回避が出来たと自負できる会話に自己満足感を得る。


「ほんじゃあ、また明日な正吾」

『んあぁ。またぁ』


 そう言って電話を切って、ベッドに座る。


「あんまり大平の名前を呼ばない方が良いな。ポロっと出ちまうかもしれない」


 さっきの会話を反省し、俺はそのままベッドに横になり、スマホをいじって時間を潰した。

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