合い言葉はラッキートレイン

帆尊歩

第1話  合い言葉はラッキートレイン


娘の砂羽は童話にはまっている。

妻の美智が、小さい頃から字を読ませようと画策しているからだ。

だったら初めは、絵本の方が良いんじゃないのと思うが、あろうことか宮沢賢治ときた。

難しくないのかと思うが、上質な物を読ませたいらしい。

幸いなことに、子供用に平仮名を多用した物があるので、読めると言えば読めるんだけれど。

「ねえパパ、これどんなお話」と言って持って来たのは銀河鉄道だ。

どうもこの響きに心を打たれたようだ。

最も僕にとって銀河鉄道というのは、スリーナインなんだけれど。

「砂羽はどんなお話だと思う?」

「お空を行く電車でいろんな星を巡り、悪人をやっつけるお話」

「うん、ちょっと違うんだな。銀河鉄道は本当はラッキートレインっていって、乗るのは選りすぐりの戦士たち。でスパイたちが乗り込まないように、合い言葉がある」

「何、合い言葉って」

「その言葉を言わないと乗れないの。だから乗り込むときは偉い人から、(合い言葉は?)と聞かれる、そこで(ラッキートレイン)て言わないと乗れないんだ」

「凄いね」どこがと、自分で言っておいて突っ込みそうになる。

「ラッキートレインは、大砲やミサイルをたくさん積んでいて、悪の組織に支配された星々を滅ぼして行くんだ」砂羽は何だか目を輝かせている。

滅ぼしたらまずいか。

僕はでまかせの話が子供に受け入れられている事に満足だが、妻の美智は離れたところから凄い目でにらんでいる。

でも引っ込みが付かない。

「歴戦の勇士」えーと名前が出てこないぞ。

まあいいや。

「歴戦の勇士の誰?」

「えーと、ジョバン、そうジョバン」

「ジョバン、かっこいいね」

「そうだろう、ジョバン。戦友のカンパが悪の組織にさらわれて、それを助けにラッキートレインに乗るんだ。ジョバンがラッキートレインの横に来るとカオルン指令がジョバンを呼び止める。

(戦士ジョバンです。ただ今から、戦士カンパの救出に向かいます)と言って敬礼をする。するとカオルン指令が言う。(合い言葉は?)」

「ラッキートレイン」砂羽が大声で言う。

「確認した乗り込め」僕は美智の方を見る。

もう諦めたのかあきれ顔である。

「そしてラッキートレインは、銀河ステーション分室を発進する。

ところが途中攻撃を受けて、進めなくなる。

ラッキートレインは宇宙空間を漂流するんだけれど、ダイガクシという博士のいる星に漂着、博士に修理をしてもらい、再び出発しようとするけれど、再び謎の攻撃を受ける。

もう少しで無限エネルギーエンジンをやらそうになったとき、ダイガクシーの宇宙船がラッキートレインの盾になる。

「(ダイガクシー)とジョバンが叫ぶが早いかダイガクシーの宇宙船が火を噴く。(私の事は気にするなー、カンパを救い出せ)その声を聞いてジョバンとカオルンは(ダイガクシー)と大声でも叫ぶが、ダイガクシーの船はそのまま宇宙の底へと落ちて行く」

「ダイガクシーは死んじゃったの」

「さーどうだろう。でも涙こらえてジョバンとカオルンは先に進む。ところが燃料が切れて、ラッキートレインは停泊地サザンクロスに足止めされる。

サザンクロスには鳥捕りという鳥を捕まえて、そこから油を取り、売るという悪党がいた。

ジョバンとカオルンは、そいつを倒して油をラッキートレインに注入する。

さあやっと悪の親玉ザネリンと対面、でもザネリンの撃った銃の弾がカオルンの胸を貫く。

「あたしの事は良いからカンパを」

「カオルン、カオルン。俺はカオルンの事を」

「良いの分かっていた。あたしもジョバンのことを」

「カオルン」叫んだジョバン。

ジョバンはカオルンの思いを胸に立ち上がる。

もうジョバンは泣いていなかった。

構えた銃はザネリンのこめかみを貫いた。

「オーー。ザネリンの叫び声。そしてザネリンの体が溶け出す。そしてその上にはカンパの姿が、

(カンパ、どうして)

(ジョバンすまない。俺は悪魔に心を奪われたんだ。でもジョバンのおかげで最後の時、正義の戦士に戻れた。ありがとう)

(カンパ)

(おれは何をしていたんだ)涙が止まらないジョバン、カオルンをお姫様抱っこをして立ち上がる」

「お姫様抱っこって何」と砂羽が言う。

「ちょっと黙っていなさい。後で説明して上げるから」

「えー」

「抱き上げたカオルンの頬にジョバンの涙がこぼれた。するとカオルンは目を覚ます。

(カオルン)

(ありがとう、あたしの名前を呼んでくれていたので帰って来ることが出来た。)」

「パパ、いつ呼んでいたの」

「砂羽、今良いところだから、黙っていてね」

「えー」

「そして、ジョバンとカオルンは銀河ステーション分室に戻ると、ダイガクシー、鳥飼、そしてカンパと散っていった者の事をいつまでも胸に止めて、幸せに暮らしました。

めでたしめでたし」

「パパ、ジョバンとカオルンは結婚したの」

「そうだよ」砂羽は盛大に手を叩いた。


「違った、話にするなー」

と言って美智が、もの凄い顔で、僕にクッションを投げてけてきた。

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合い言葉はラッキートレイン 帆尊歩 @hosonayumu

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