4.
ある晴れた土曜日。紅葉と千秋は新のバイト先の近くまで来ていた。近くまで来たものの、店に入る勇気はなかったので、遠巻きに店の様子を伺っている。遠くから見たら怪しい二人に見えるだろう。その二人に気付いた店の人が二人に近づいた。
「うちの店に何か用かしら?」
綺麗な女性だった。いかにも大人の女性という感じで大人の色気が漂っている。
「ご、ごめんなさい!そのっ、決して怪しい者ではなくて、えっと、そのっ・・・」
慌てふためきながら説明する紅葉の様子を女性はじっと見つめていた。
「あなた、クリスマスイブの夜に新くんと一緒にいたお友達?」
「・・・え?」
突然の女性の言葉に紅葉と千秋が呆気にとられる。
「あの・・・私は・・・」
紅葉が恋人と言っていいのか分からずにしどろもどろになっていると、千秋がすかさず言葉を放つ。
「この子は紅葉と言って新さんの恋人ですが?どうして、お友達と言ったのですか?クリスマスイブに男女が一緒にいるとすれば普通は彼女だと言いませんか?」
千秋の言葉に女性は説明した。
「新くんが言っていたのよ。私、あの日に新くんとそこの彼女を見かけて新くんに彼女?って聞いたら、友達ですって言ってたから、てっきり友達だと思ったのよ」
女性の言葉に唖然とする。紅葉のことを友達だと説明していた理由が分からなかった。いや、考えられるとすればバイト先に本命がいるということかもしれない。
「新さん、付き合っている方がいるんですか?」
恐る恐る紅葉が女性に聞く。しかし、女性から返ってきた言葉は、
「新くんに彼女がいるなんて話は聞いたことないわ。知っているのは、好きな人がいるらしいということくらいよ。ところで、紅葉ちゃんだっけ?あなた、確かえ―――――」
そこまで言いかけたとき、背後で男の声がした。
「鈴乃さん!紅葉ちゃん!」
声の主は新だった。息を切らしてこちらに走って来る。
「紅葉ちゃん、なんでここに?バイト先には来ちゃダメだって・・・」
その時だった。千秋が新を睨みつけるように言う。
「紅葉が友達ってどういうこと?」
その言葉に新の表情が一瞬凍る。新は鈴乃の顔を見た。鈴乃はジェスチャーで「ごめん」のポーズをしている。
「えっと、それは・・・その・・・」
新がどう説明するべきか悩んでいる。紅葉はその様子に強い衝撃を受けた。
そして一言・・・。
「・・・帰ります」
そう言って、踵を返した。千秋が紅葉に寄り添うように去っていく。新はその様子をただ茫然と見ていた。
「・・・追いかけなくていいの?」
鈴乃の言葉に新は何も言わない。
「今日はもう上がりなさい」
鈴乃はそれだけ言って、店に戻った。
新はしばらくその場から動けずに、ただ空を見上げていた。
紅葉は帰り道、一言も喋らなかった。余程ショックだったのだろう・・・。千秋もなんと声を掛けて良いか分からず黙っている。いつもは駅でサヨナラするが、紅葉が心配だったので家まで送り届けることにした。家の前に着いてチャイムを鳴らすと英斗が出てくる。モニターで紅葉の様子がおかしいことに気付き、出てきたのだ。
「紅葉!大丈夫か?!」
千秋が今日のことを説明する。英斗は話を聞いて千秋にお礼を言った。そして、紅葉を部屋に連れて行きベッドに横たわらせると、涙が溜まっている瞳をそっと拭う。
「・・・ねえ、お兄ちゃん。私は新さんにとって恋人ではなくて妹だったのかな?友達だったのかな?恋人だと思い込んでいたのは私だけだったのかな・・・?」
そう言いながら、取り留めもなく涙がどんどん溢れてくる。英斗が紅葉の頭を優しく撫でた。
「・・・今日はもう休め。寝るまで傍にいてやるから」
英斗の撫でられている掌に何処か安心したのか、紅葉は深い眠りに落ちていった・・・。
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