3.
帰りの車の中で英斗は若干の苛立ちを感じていた。紅葉を友達だと言い放った新の言葉に腹を立てている。このことを紅葉に言うべきか、言わないでおくべきか・・・悩みどころだった。紅葉のことは傷つけたくない。しかし、黙ったままでいるのも残酷な気がする。ああだこうだ悩みながら運転しているといつの間にか家に到着していた。
「あっ!おかえり、お兄ちゃん」
紅葉が笑顔で英斗を迎える。その顔を見ると気持が締め付けられる思いだった。
「・・・紅葉、一つ面白い心理学を教えてやろうか?」
「面白い心理学?なになに?気になる~!」
何も知らない紅葉が興味津々に聞いてくる。英斗は胸が刺さるような感覚を覚えながら話した。
「内容は、キスをしない男の心理だ」
「・・・え?」
英斗の言葉に紅葉が言葉を詰まらす。
「えっと・・・、やっぱり聞くのやめておくね」
紅葉はそう言って踵を返す。その背中に英斗が言葉を発した。
「男が付き合っている彼女にキスをしないのは本命の彼女がいたり、本当に好きな女性がいる場合はキスをしないという心理がある。男が真面目な人であればあるほどそれは起こりやすい」
その言葉に、紅葉が足を止めた。英斗の言葉に体が小刻みに震えだす。
「でも、優しいのは本当だもん!いい人だもん!!だから、私は新さんを信じるもん・・・」
最後の方は涙声になっていた。英斗が言う。
「・・・悪い、話す内容じゃなかったな」
そう言って、紅葉を後ろから優しく抱き締めた。
「・・・あのね」
紅葉はそう言って、今日のカフェで千秋に聞いた話を始めた。
ケーキと紅茶で紅葉と千秋は楽しくおしゃべりしていた。そこへ、ふいに千秋が言った。
「・・・あのさ、あの時の合コンをセッティングしてくれた雄一(ゆういち)に会ったんだけど・・・。雄一が新さんに『彼女とはどこまでいったんだ?』って聞いたんだって。そしたら、まだ何もしていないよっていう返事が返ってきたもんだから、どうして?って、聞いたら、新さん、『可愛いけど妹のような感じもあるからね。それに、そういう事するのは気持ちの整理がきちんとついてからかな?』って言ってたんだって。でも、元彼女とかはいないから誰の事だろうって思ったみたいよ」
「それって・・・つまり・・・」
「本命がいるかもってことよね・・・」
「・・・新さんが、そんなことを言っていたの?」
「言っていたわけじゃないけど、そうとしか考えられないわよね」
千秋の言葉に紅葉が動揺する。でも、それならキスをしないのも何となく辻褄が合う。
でも・・・。
「私は新さんを信じるよ」
カフェでの話が終わり、しばらくの間沈黙が流れた。その沈黙を紅葉が破る。
「私は新さんを信じる・・・。キスしないのももしかしたら他の理由かもしれないし・・・」
その言葉に英斗は自分が余計な事を言ったことを後悔した。抱き締めていた腕を解く。
「まあ、もしフラれたらその時は『バーカ、バーカ』って笑い飛ばしてやるよ」
「お・・・お兄ちゃん?!」
「冗談だよ。・・・今日はゆっくり休め。冷えるから暖かくして寝ろよ。なんならお兄ちゃんが寒くならないように添い寝してやろうか?」
「なっ・・・、何言ってるの?!」
そう言って紅葉が顔を赤らめる。
「冗談だが?」
英斗が意地悪そうな顔をする。その顔に悔しさを感じながら紅葉が顔を真っ赤にしたまま反抗した。
「分かってるもん!」
部屋に戻ると、千秋からラインがきていた。
『今度、新さんのバイト先に行ってみようよ!ちょっと、気になることがあるんだ』
紅葉は悩んだ。新からバイト先には来ないでほしいといわれている。でも、千秋からの「気になること」が何なのかも気になる。悩んだ末、意を決して新のバイト先に行くことを伝えた。
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