1-4 そして猫は丸く収まる
数日後、異世界に来て初めての実践訓練が始まった。
近くの森でモンスターを倒すだけの簡単なものだからと、戦闘のできない私も無理矢理参加することになったのだけど。
「えっ、どこにもモンスターなんて…きゃあっ!」
弱いモンスターを見つけたから戦ってみなよと五十嵐さんに言われて、向かった先で突き飛ばされた。膝がちょっと擦りむけた。
「うふふ、あなたはここで退場よ。地球に戻って普通の暮らしでも送りなさい」
「待ってっ!」
五十嵐さんの背中が遠くなる。追いかけようと立ち上がると、自分の体が動かないことに気がついた。
これ、《影縫い》だ…
訓練の時に見た【影使い】のユニークスキル。相手を一定時間動けなくする効果。
ここに来る前、田村さんに「頑張ってね」って送り出されたけど、一緒についてきてはもらえなかった。気がつけば五十嵐さんは見えなくなっていた。
そっか私、みんなに捨てられたんだ…
●
「それで、ダンボールに入って誰かに拾われるのを待っていたんです! この中、結構快適なんですよ?」
「ほう…って、それで俺が納得すると思ったか?」
ジャンさんに怒られて怖くなり、ついつい召喚していた大きなダンボールの中に身を隠す。
「異世界への転移ってのは片道切符で禁止されてんだぞ! 吐くならもう少し信じやすい嘘を吐け」
「ほえ?」
長話になってしまったことを怒っていたのかと思ったら、思わぬ所を怒っていた。
片道切符って、なにそれ?
詳しく聞くと異世界への転移は禁術扱い。使ったら最後、二度と元の世界には戻れないらしい。王様に召喚されたと言っても、ジャンさんは信じてくれない。
「まあいい、もう暗いから泊まっていけ。その前に風呂だな。お前、汗臭いぞ?」
ジャンさんは軽々と私を持ち上げると鼻を摘みながら風呂場へ投げた。気がつかなかったけど、たしかに汗臭い。森で一晩明かしたからなあ。ありがたくお風呂に入り、スッキリして上がると元の部屋に戻った。
すると、ジャンさんが私の入っていたダンボールにすっぽりと収まっていた。モフモフで大柄なジャンさんが猫背で丸く収まっている姿がなんとも言えない。私に気がつくと、ジャンさんが顔を赤くしていく。
「あっ、いやこれは違っ!」
「猫って狭いところ好きでしたね」
「お前がずっと入っていたから、そのっ…座り心地が気になっただけだ…」
動揺する姿がかわいい。こんな姿を見られるなら、ダンボールが召喚できてよかった。
「爪とぎもどうですにゃ? ごろごろ~」
「これは一時の迷いだ! だからやめろおおお!」
捨てJK、乙女ゲー世界で拾われました 〜クラス転移で無用と捨てられたJKが《ダンボール召喚》で猫獣人を丸く収めるまで〜 ほわりと @howarito_5628
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます