1-3.1 それぞれの思惑 side.セバス

 勇者召喚が行われる二年前、密かに計画が始まっていた。


「セバス、上手くやるのだぞ?」


 王様が魔法陣の中にいる執事服姿の男にそう呟く。


「スラム育ちの私を拾って頂きありがとうございました。この命に変えてでも、無事に成し遂げてきます」


「…ああ、頼んだぞ」


 控えていた魔術師達の手によって魔法陣が光り、転移魔術が行使された。数分した後、眩い光が徐々に弱まる。魔法陣にはセバスの遺体が残されていた。


 この日、セバスは異世界で死んだ。


 セバスが転移した先は地球。魔術を使い上手く立ち回り、スマホ向け乙女ゲーム【ノルケットの恋模様】を作った。これは、地球の人間に異世界の常識を受け入れてもらうためのもの。それと、偽の情報を信じさせるためのものだった。


 万能な神も、万能な魔術もこの世に存在しない。


 エントロピーは常に一定なのだ。命は気軽に移動できない。


『セバスは異世界で死んだ』


 これが意味するところは、セバスはもう異世界へ戻れないということ。転移魔術は一方通行だった。【ノル恋】では異世界で死んでも、魔王を倒しても地球に戻れることになっている。知らず知らずのうちにプレイヤー達は偽りの情報を植えつけられていた。


 死の恐怖がなければ、人間はどんな無茶でもできる。


 集団洗脳を終えると、白木遥を含む生徒達は異世界へ転移した。

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