第4話

 六月半ばの土曜日。亜美花と千代は、爽と合流して町はずれの市民プールを後にした。今日は水泳の地区大会があったのだ。

 朝方に降っていた雨はやみ、歩道には水たまりが出来ていた。水面に昼下がりの澄んだ青空が映り、清々しい気持ちになる。

 そんな中、亜美花は興奮も冷めやらぬまま口を開いた。

「爽くん、断トツの一位だったね!」

「とても素晴らしかったですわ!」

 かばんの中からこっそり顔を出したハッピーも、目をキラキラと輝かせている。

「へへへっ、まあな!」

 爽は照れくさそうに笑った。

 彼はもともと、全国区でも名前が知られているほどの実力者らしい。それがますます記録を伸ばしているのだから大したものだ。その泳ぎはすさまじい迫力で、亜美花たちの応援にも自然と力が入っていた。

「本当にすごかったですよ。速くて力強くて―――あれ?」

 千代が言いかけて立ち止まる。彼女の視線の先には、近所の野外ホールがあった。ステージ上では、色違いのカラフルな衣装を着た人たちが、黒ずくめの人を相手に大立ち回りを繰り広げている。客席は親子連れで溢れており、とてもにぎわっていた。

「ヒーローショーじゃん! かっけー!」

「こんな所でもやってるんですね」

 三人が何気なくステージを見ていると、突然会場に女の悲鳴が響き渡った。

「ひったくりよ、誰か捕まえて!」

 その声に視線を巡らせる。女物のかばんを小脇に抱えた黒いジャージ姿の男が、亜美花たちのいる出入口のほうに向かって走ってきていた。ふいに三人の神妙な視線が重なる。

「邪魔だ、どけ!」

「きゃぁぁぁっ!」

 亜美花と千代は悲鳴をあげて端によけると、その場にかがみ、持っていた傘を男の足元に差し出した。男は傘に足を引っかけて勢いよく地面に倒れこむ。すかさず爽が男にのしかかり、その腕をひねり上げた。

 途端に会場から拍手が沸き上がる。それはヒーローショーではなく、まぎれもなく三人に向けられたものだ。何だか気恥ずかしい。三人はそわそわとした様子で、ぎこちなく笑った。

「捕まえてくれてありがとうございます! お怪我はないですか!?」

 被害に遭った三十代くらいの女性が、心配そうな表情を浮かべてやってくる。そのかたわらには、彼女の子どもと思われる少年もいた。

「いえ、大丈夫ですよ」

 千代は男が落としたかばんを拾い、ほこりを払ってから女性に差し出す。

「どうぞ、ちゃんと中身があるか確認してみてください」

「あっ、はい!」

 女性はかばんを受け取って中身を確認する。どうやらすべて無事だったようだ。彼女は「大丈夫でした」と言って、ホッと肩を撫で下ろした。

「あの、本当にありがとうございました。何とお礼を申し上げればいいのか……」

「当然のことをしたまでなんで、気にしないで下さい!」

 爽が答えたとき、遅れて警備員がやってきた。

「それじゃ、俺たちはこれで」

 三人は男を警備員に引き渡し、野外ホールを立ち去ろうと足を踏み出す。

「待ってください!」

 しかし、十メートルほど歩いたところで、すぐに呼び止められた。

 三人は何だろうと振り返る。そこには先ほどの少年がいた。

 小学校三年生くらいだろうか。亜美花の肩に届くくらいの身長に、白く細い手足。くりっとした大きい瞳に、やわらかい栗毛を持つ、どこか可愛らしい雰囲気の少年だ。

 何か言いたげな様子の少年を見て、爽は首を傾げる。

「どうした?」

「あの、ぼく柊光希っていいます! さっきの泥棒を捕まえてるところ、すごくかっこよかったです! それで聞きたいんですけど……。その、お兄さんたちは、どうしてそんなに強いんですか!? どうしたらそんなに強くなれるんですか!?」

 光希と名乗った少年は、三人に羨望のまなざしを向け、教えてくださいと身を乗り出す。

 三人は面食らった様子で、どうしたものかと顔を見合わせた。

「光希くんは、どうして強くなりたいの?」

 亜美花が腰をかがめて聞くと、光希はしょんぼりとした顔になる。

「ぼく背が小さくて弱いから、クラスの男の子にからかわれるんです。それで、いつも女の子がかばってくれていて……。だから、もっと男の子らしくなりたいんです!」

 その切実な表情を見て、亜美花の胸に同情が広がる。

 よく見れば、彼の小さな両手には、キャラメルの箱がにぎられていた。ヒーローの小さいフィギュアがおまけについている、子どもに大人気のキャラメルだ。きっと、かっこいいヒーローに憧れているのだろう。

 彼の話を聞いて、爽は腕を組んでうーんと唸る。

「光希の思う強さってなんだ?」

「えっと、お兄さんたちみたいに悪い人を倒せるとか……」

「確かにそれも強さかもしれないな。でも、助けられているから弱いってことはないんだぞ」

 爽の言葉の意味がわからなかったようで、光希はきょとんとした顔になる。

 見かねた様子で千代が口を開いた。

「助けてって言えることも強さのひとつなんだよ。さっきの光希くんのお母さんみたいにね」

「光希、なにしてるの!」

 そうこうしているうちに、野外ホールの出入り口から先ほどの女性が声を上げた。

 光希は、母と亜美花たちの間でおろおろと視線を彷徨わせる。どうも、爽たちの言葉に納得がいっていないようだ。

「ま、それでも強くなりたいなら、いっぱい食って、いっぱい遊んで、いっぱい寝な!」

 爽はニッと笑うと、光希の頭をぽんとやさしく撫でる。

 遠くに消えていく三人の背中を、光希は物足りなそうに見つめていた。


 翌週。テスト週間で早引きだった三人は、気分を変えて勉強しようと近所の図書館に向かっていた。

「あっ、俺スペルミスあったかも!」

「そう言われると、私も漢字の書き間違いがあるような気がしてきた……」

「うーん、テスト本番は緊張するからね。仕方ないよ」

 初日の結果は悲喜こもごも。あれやこれやと話しながら歩いていると、三人は電気屋のショーウィンドウに置かれているテレビの前で、通行人たちが足を止めているのを発見した。

「何かあったのかな?」

 人混みに近づいて様子をうかがう。テレビの中では、アナウンサーが緊迫した声で原稿を読み上げていた。

「速報です。ひだまり町にあるキャラメル工場で事件が発生しました。現在この工場では、原因不明の局地的な地震が発生しているとのことです」

「これって……」

 亜美花がニュースの内容に胸騒ぎを感じていると、三人のペンダントが警告音を鳴らした。

「間違いない、あいつの仕業だ!」

「工場へ急ぐのですわ!」

 険しい表情のハッピーが、亜美花のかばんから飛び出してくる。

 三人は全速力でキャラメル工場に向かった。

 町の中心部から徒歩で十分ほどの距離にある平屋建ての工場は、長く愛されている老舗だ。

 三人が駆け付けると、大勢の人が工場の外で不安そうに立っていた。工場の職員と思われる人以外に、十数人の子どもがいる。

「あの、何があったんですか!」

 亜美花は、近くにいた工場の作業服姿の男に声をかける。彼は困惑した表情で口を開いた。

「それが、先ほど館内に不審な放送が流れまして。工場から出ていけ、さもなくば人質が危ないぞ、と。それから地震が起こり、みんな急いで逃げて来たところなんです」

 男が説明し終えたとき、子どものひとりが叫んだ。

「先生、光希くんがいません!」

「えっ、柊くんがっ!?」

 先生と呼ばれた若い女性の顔が青ざめる。どうやら、彼らは小学校の社会科見学でここを訪れていたようだ。

「光希って、まさか……!」

 その名前を聞いて、亜美花たちの脳裏に先日の少年の顔がよぎった。

 強くなりたいと願う不安そうな瞳を思い出し、激しい使命感にかられる。

「早く助けに行こう!」

 亜美花より早く、爽が口を開いた。しかし、彼の言葉に千代は表情を曇らせる。

「待ってください。人質に取られてるんだから、工場内に入ったら危険じゃ……」

「恐らく大丈夫ですわ」

 ハッピーが確信めいた様子で言う。

「あいつの力は念動力。周囲のものを操って攻撃してきますわ。とても便利に見えますけど、限界はあると思いますの。その証拠に、あまり重いものを浮かしていることはないでしょう。工場を揺らしている間、大した攻撃はできないんじゃなくて?」

 これまでの記憶が、ハッピーの仮説を裏付ける。

 しかし、もし見立てがはずれていたら光希の命は危ない。それと同時に、このまま放っておいて助かるという保証もないだろう。イチかバチかだ。

 亜美花はのどに張りつくような唾を飲み込むと、強くこぶしをにぎった。

「行こう!」

 三人は無我夢中で走り出した。

 引き止める人々の声を無視して工場内に飛び込む。

 ニュースで聞いた通り、工場内は小刻みに揺れていた。しかし、移動できないほどのものではない。

 三人は意を決して足を踏みだした。

「光希、どこだーっ!」

「返事をして!」

 館内を走りながら呼びかける。しかし、地響きが聞こえるばかりで光希からの返事はない。

 人質の彼を保護すれば、おばけを遠慮なく捕まえることができる。そのため、おばけは彼の場所が割れないように助けを呼べないようにしているのかもしれない。脅されている可能性だってある。

 嫌な考えばかりが浮かび、亜美花の鼓動は苦しいほどに加速していく。

「きゃあっ!」

 ふくらむ不安に気を取られていたせいか、亜美花は建物の破片につまずき、床に倒れ込んでしまった。前を走っていた千代が、驚いた様子で振り返る。

「大丈夫!?」

「私は平気。それより、早く光希くんを探さないと!」

 建物の軋む音が増え、あたりに緊張感が走る。

「どうしよう、このままじゃ!」

「せめて場所がわかれば良いのですけど……」

 千代とハッピーが、不安そうに顔を歪める。

 気持ちが焦るばかりで、いいアイデアが思いつかない。

「くそっ!」

 爽は吐き捨てるように嘆くと、ぎゅっと目をつむり、天井を振り仰いだ。

「光希、絶対に俺たちが助けてみせる! だから、思いっきり叫べ―――っ!」

 苦し紛れに上げた大声が、工場内に反響する。

 誰もがもうダメだと思った、次の瞬間―――

「助けて―――――っ!!」

 工場の奥から、割れんばかりの声が響いた。それは光希の一世一代のSOSだった。

「あちらですわ!」

 ハッピーが身を乗り出して指をさす。

 それを合図に、千代が低い姿勢からスタートダッシュを決めた。彼女は瞬く間に廊下を駆け抜け、建物の奥へ消えていく。亜美花たちも急いであとを追った。

「光希くんに近寄るな!」

 千代の声が聞こえ、工場奥にあるだだっ広い倉庫と思われる場所に行くと、千代が光希をかばうように腕を広げて前に立っていた。その向かいにはおばけがいる。

「ふたりとも、大丈夫!?」

 亜美花たちが、二人のそばに駆け寄る。

 光希を人質に取っている間に、キャラメルを盗む予定だったのだろう。おばけの背後にある段ボール箱には、中をあさった形跡があった。

「くっ、こんなに早く見つかるとは!」

 おばけは悔しそうに顔をしかめると、キャラメルを段ボールごと持ち、外に続く窓に向かって飛んでいく。

「待て!」

 亜美花と爽が追いかける。おばけは山積みになっている段ボールをピッと指さした。

 段ボール箱が倒れてなだれを起こし、足止めをくらってしまう。その隙に、おばけは窓から逃げ出した。

「こらぁぁーっ!」

「もったいないことすんじゃねえ!」

 亜美花と爽は怒り声をあげ、床に散らばるキャラメルを飛びこえて外に出る。その間に、工場の揺れは収まり始めていた。

「ハッピー!」

「お呼びになって?」

「わっ!」

 千代に呼ばれて、光希の前にハッピーがやってくる。

 光希は驚きの声を上げて、背をのけ反らせた。まだ小学生だからなのか、ハッピーのことはしっかり見えているらしい。

「光希くんをお願い。玄関まで案内してあげて!」

 そう言い残して千代も二人に続く。窓から外に出ると、そこは工場の裏手になっていた。

 L字型の建物沿いに雑然とドラム缶が置かれたコンクリートの空間の奥には、焼却炉や搬入口などが見える。

「みんなを怖い目にあわせるなんて、絶対に許さないんだから!」

「しつこい奴らめ!」

 亜美花が叫ぶと、斜め向かいに浮いているおばけは目を吊り上げた。

「変身!」

 ペンダントをにぎった三人の声が重なる。突風が過ぎ去り、それぞれの衣装に身を包んだ三人が姿を現した。

 その様子を見て光希は目を見開いた。不安に満ちていた瞳が、驚きと興奮に塗り替えられていく。

「ほら、光希! 行きますわよ!」

 脱出しようとしない光希にしびれを切らした様子で、ハッピーがシャツの袖を引っ張る。しかし、彼は動かない。どうやら、ハッピーの声が耳に入っていないようだ。

「ヒーローって、本当にいるんだ」

 手にしていたキャラメルの箱を、ぎゅっとにぎりしめる。

 キラキラとした瞳が見つめる先では、三人が真剣な顔でロッドを構えていた。

 じりじりと後退していくおばけを見て、亜美花が叫ぶ。

「イエロー!」

「任せて!」

 走り出した千代が瞬く間におばけの背後を取り、ロッドの先端をおばけに向ける。

「マジカルリボン!」

「うぎゃっ!」

 ロッドの先から光の帯が伸びて、おばけの手を容赦なく叩いた。おばけが手放したキャラメルの箱が、地面に落ちていく。

「危ない!」

 駆け出した爽が落下地点に滑り込み、差し出した両腕でキャラメルの箱を受け止める。

 おばけがキャラメルに気を取られている間に、亜美花は近くに駆け寄り、L字にしたロッドを構えた。

「マジカルショット!」

「ぐあっ!」

 鋭い光線がおばけの腕に命中し、苦悶の声を上げて地面に落下する。

「やった!」

「ぐぬぬっ、まだまだ……!」

 おばけが力を入れて体を震わせると、工場の端に固めて置いてあった十個ほどのドラム缶が倒れ、暴走車よろしく猛スピードで三人に襲いかかった。

「きゃあっ!」

「うわっ、危ねぇ!」

 あまりの速さに、三人は手も足も出ない。必死に避けているうちに、一人また一人と変身が解けてしまった。

「へっ、素直にお菓子を渡していれば良かったんだ。自分たちの行動を恨むんだな!」

 おばけは、いきいきとした顔で手を振り上げる。

 無抵抗の三人目がけて、ドラム缶が突進したそのときだった。

「マジカルリボン!」

 強いかけ声とともに、三人の背後から光の帯が伸びて来る。

 力強く横一文字を描いたそれは、鞭のようにしなりドラム缶を見事に跳ね返していく。

 三人の前に舞い降りた小さな人影は、オレンジの衣装を身にまとった光希だった。

「光希くん!」

「ガキが変身した!?」

 彼の出で立ちを見て、おばけが顔を引きつらせる。

 ベレー帽に、背中側だけマントのように長いケープ、コックタイに七分丈のズボン。パステルオレンジで統一された衣装に、短い茶色のブーツを履いている。オレンジのコックタイの結び目には、同色の宝石が光り輝いていた。

 光希は金色のロッドの先をおばけに向ける。柄にはめこまれた、オレンジのボタンがぎらりと輝いた。

「ぼくは弱虫だ。でも、お前みたいないじわるな奴にだけは、絶対に負けない!」

「このガキ! 生意気なこと言いやがって!」

「光希くん、危ない!」

 おばけが光希に飛びかかり、亜美花は身を乗り出す。

 光希は身を屈めておばけの下をすり抜けた。そして、おばけが投げつける小石をひょいひょいと避けていく。

 あまりにもすばしっこい光希の動きに、おばけは苛立ちを見せ始めた。

「くそっ、すばしっこい奴め!」

 おばけは上空に後退し、胸の前で構えた手に力をこめる。すると、停止していたドラム缶が再び動き出し、光希に襲いかかった。

「これで終わりだ!」

「うわぁぁぁっ!」

 光希は頭を抱えて屈み込んだかに見えた。しかし次の瞬間、ドラム缶がふわりと浮き上がり、後方上空にいるおばけ目がけて飛んでいった。光希がドラム缶の下にマジカルリボンを滑り込ませて、くんっと引っ張り上げたのだ。

「いったぁぁぁっ!」

 頭にドラム缶が命中して、おばけは地面にくらりと落ちていく。その隙を見逃さず、光希はおばけに飛びかかった。全体重で、おばけを押しつぶす形になる。

「捕まえた!」

「ぐっ、離せ! この野郎!」

 おばけは辛うじて押さえつけられていなかった短い手で、光希の腕を思いきりつねる。

「いたっ!」

 痛みで光希の力が弱まる。その一瞬の隙を見て、おばけは光希の腕の中から逃げ出した。

「この借りは必ず返してやる! 覚えてろよ!」

 おばけは光希をにらみつけて、工場から飛び去っていく。

 光希が変身してから約四分。戦いの終わりとともに、彼の変身は溶けてしまった。


「光希ごめんな。俺、助けるって言ったのに……」

 みんなで横に並んで玄関に向かいながら、爽はしょんぼりとした表情を浮かべる。

 しかし、隣にいる光希は笑顔で「ううん」と首を横に振った。

「お兄さんたちは助けてくれたよ」

 不思議そうな顔をする爽に、光希は笑みを深める。

「ところで、あのおばけが噂のお菓子泥棒なんでしょ? ぼくも一緒に捕まえるよ!」

「仲間になってくれるの!?」

 亜美花が驚いて聞くと、光希は迷わずうなずいた。

「ぼくじゃ頼りないかもしれないけど、みんなが困ってるのは放っておけないんだ」

 その見違えるような凛々しい言葉に、亜美花はじんと胸が温かくなる。

 何だか我が子の成長によろこぶ母親のような気分だ。

「み、光希~っ!」

「うわぁっ!」

 爽は彼の立派な言葉に感激したらしい。その目に大粒の涙を浮かべて、光希を掲げるように高く抱き上げた。

「なんていいやつなんだ! お前は男の中の男だ!」

「わ、わかったから下ろしてよ! ぼく、もう子どもじゃないもん!」

 顔を真っ赤にした光希が、恥ずかしくて耐えられないといった様子で足をバタバタ動かす。

「ごめんごめん! うれしくて、つい!」

 爽が光希を床に下ろすと、千代は呆れた声で言った。

「まったくもう。先輩はデリカシーがなさすぎですよ」

 手厳しい言葉に、爽は頭をかいて苦笑いをこぼす。

 そんな彼らの様子を見守っていたハッピーは、満足そうに微笑んだ。

「これで四人目ですわね。メルトレンジャーへようこそ、光希! いえメルトオレンジ! これからよろしくお願いしますわ」

「うん!」

 光希が元気よく返事をしたところで、ちょうど工場の玄関に辿り着いた。

「柊くん、よかった! 無事だったのね!」

 玄関を出ると、先生が心配そうな顔で光希に駆け寄った。クラスメイトであろう子どもたちも一緒だ。

 みんなが彼の無事を確認すると、いかにも強気そうな顔の少年たちが、光希を取り囲んだ。

「おい光希! お前の声、ここまで聞こえたぞ!」

「あんな大きな声出せたんだな! 見直したぜ!」

「一人でよくがんばったな!」

 恐らく、あれが光希をからかっていたクラスメイトたちなのだろう。

 尊敬のまなざしを向ける彼らの中心で、光希は弾けるような笑顔を見せた。

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