第08話 汗と涙の血症を拭いながら

ASHITA NO OWARI

 今日は午前中に「終活」関連の用事が無かった。

否、1分後に電話が鳴るかも知れないから

彼は居心地の良い職場を離職することを決めたのだ。

 夏生の義母は入院先の大病院で

栄養が行き届いた給食が届くことを心待ちにしていると言う。

 栄養失調が原因で彼女はネフローゼ症候群に罹患した。

身体の異常を訴えても、義父に入院することを制止されたと聞く。

「儂が退院する迄、持ちこたえて欲しい」と。


 ネフローゼ症候群は腎臓の病気で、血液中のカリウム値が高くなり

水分が留められなくなる。全身のむくみが主症状。

 アルブミン値も関与。予測変換に気になる項目。

「カリウム血症」「アルブミン血症」両者共に血液に関する障りがある。

夏生の妻はそう言う知人が居るのか、

義母(妻にとっては実母)が人工透析になることを危惧していた。

正に、今、この時が「終活」真っ只中と言った流れである。

救急車で運ばれるまで鮮明だった意識も、

今はせん妄に侵され意識朦朧。急に認知症が進行して行く。


 夏生の妻は、最近になってようやく自分の母親と

なんでも話せるようになった、と喜んでいた。

 余命はそんなに長くはないだろう。

看護師は「大丈夫!」と太鼓判を押してくれるが

「覚悟しておいて下さい」と声掛けするような

医療従事者の方が稀有だろう。やがてその時が来るのだとしても。


 ふいにノートパソコンの右下を見たら

AM11:38と、緩慢な数字が飛び込んで来た。

未だ正午にもなっていなかったのか。

天気は晴れ、午後からの用事は外して貰うように言ってあるから

夏生が出来ることはたかが知れているが

最重要事項が舞い込んで来たら、AMPM言ってる場合じゃ無く

彼もTAXIに乗り込む気概だ。例え出先で持病の発作が出ようとも。

家族が一丸となって、明日の終わりを模索しようとし始めていた。

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