第16話
呼吸が、鼓動が、荒く、浅く、早まる。
頭に浮かぶのは何気無い日々。特別な事をした訳では無いのに、特別な毎日だった。
あぁ…当たり前過ぎて気づかなかった。あの人と居る日々はただそれだけであんなにも色付いていたんだ。
「ちっくしょー!何で僕体育教師じゃないんだよ!!」
そうだったらもっと早くあの人の元へ行けるのに。
もつれそうな足はひたすら前へ踏み出していた。きっとこういう時にアドレナリンが出ているんだろう。全力で駆け続けているのに疲労感はまるでない。むしろこの鼓動の速さが今の自分をさらに高揚させる。
喉はカラカラで張り付いてる感覚で吐きそうになる。鼻はずっと冷たい空気を荒く吸い込んで痛みに変わってきた。手はかじかんで真っ赤になっている。身体はあちこち悲鳴を上げているのに脳がそれを認めない。
まだ行けるよな?なぁ?
僕の中の僕がそう言っている気がした。
それは純粋な想いか。それとも執念か。
どちらにせよ動き出した気持ちは止められない。自分にも。今はただあの人に会いたい。これは僕の心が決めたことだから。
はらはらと舞っているだけだった粉雪はいつの間にか牡丹雪へと姿を変えていた。
道には車も人も誰も居ない。歩道の街灯に照らされる僕が一人きり。世界はこんなにも静かだったのか。
白くて冷たい世界。それはあの人が居ない世界。
そんなのは嫌だから。
雪はまるで祝福の花吹雪のように夜空から絶え間なく降り注いでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます