第13話



憂鬱だ。知らずのうちに足で貧乏ゆすりをしていたらしい。今日は診察の日で、あの日以来久しぶりに貴一さんと診察室で向かい合った。

 「何か楽しいことでもあったんですか?」

 そんな僕の気持ちをどう勘違いしたのか貴一さんが尋ねた。

 楽しいことって?僕は呆気にとられた。

 あんたに捨てられたのに。あんたがそれを言うのかよ。怒りにも似た感情が僕の中に渦巻く。

 そうだよ僕は今楽しいんだ。

 僕だけを好きでいてくれる、僕だけを見てくれる人に出会えたんだ。あんたとは違う。

 「ええ 最近いい事あったんです」

 皮肉のように言い放つ。気がつけばいいのに。

 どうだ あんたが捨てた僕は今幸せだ。

 そうか。満足気に頷く貴一さん。

「…幸せそうで良かった」

 聞き逃してしまいそうなくらい掠れた声で呟く。

 え?今なんて……?

 「薬はいつもと変わりません。お大事に」

 僕は診察室を後にする。

 なんであんな寂しそうな顔してんだよ、あんたが…。

 何故だか無性にイラつく。鼻を思い切りかんだティッシュをゴミ箱に豪速球のつもりで投げつける。

 見事に外れたティッシュを僕はそそくさと片付けに走る。

 じーっとそれを見つめている少年に気づいた僕はバツが悪くなる。

 こほん!と咳払いをし足早にその場を立ち去る。

 何なんだよ、あーもー!

 悪いのは僕じゃないはずだ。

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