Kちゃんちの洗面台でリカちゃんを洗うと髪が伸びた話。

竹神チエ

誰もが経験してそうなインパクトに欠ける不思議な体験談

 カクコン8に参加してる長編が無事完結したので、次は短編に応募しようと思った。複数応募するとアマギフがもらえるキャンペーンもやっている。なおさら参加したくなるというもの。目指せ、五作。いや、無難に二作に留めておくか。エントリーするだけでいいのなら、何も新作でなくともよい。その辺の過去作をぶち込んで……、などいろいろ考えるだけ考えていた、ここ数日。


 とりあえず何かひとつ書こうと、長い長い前書きみたいなものを書いていたのである。が、なんかああなってこうなって、どうしてだか二作に分裂していたので、片方を削除した。そしてびっくり玉手箱。今日見たら、せっかくこの前書いたしょうもない話がないのである。エピソードはありません、になっているのである。


 保存したつもりだったのだが、保存してないほうの分裂したやつを削除したのか、そもそもどちらもエピソードありません状態だったのか、なんなのか、この説明も意味不明なのだが、とにかく、せっかく書いたやつがないやんけ。


 やる気がなくなった。いったんサイトを閉じた。とはいえ、せっかく書いた小説が消えたことを思えば、しょうもない殴り書きが消えたくらいダメージなんてあってないに等しいではないか。猫エッセイを書こうと思ったけど、五つのテーマにかすりもしないんだよ、みたいな文句を書き連ねていただけであるからして。それもせいぜい千文字くらいだった気がする。


 というわけで元気出してまた書き始めたんである、このしょうもない話を。もうね、無理やりでもなんか二作応募したいのである。アマギフ抽選のために。あばよくばファイブエントリーしたいのである。あと十日しかないけれども。でもやれる。なんでもいいから書いて出せばいい。わたしはカクヨムアニバーサリーでT子さんシリーズで乗り切った女である。今更恥じることはない。


 かくして、すぐ書けそうな令和の私小説を書こうと思い立ったわけなのだが、令和の時代にふさわしい私小説とは一体?? 『5つの募集テーマに基づいた、令和の時代にふさわしい、ネット発の「私小説」をお待ちしています』と言われても。私小説なので、ふんわり実話ベースで虚偽も混ざっていてもいいのかもしれない、よくないのかもしれない。わからん。


 とりあえず、かろうじてテーマにかすってそうな昔話をしようと思う。何とか記憶を探って見つけ出した『誰にも信じてもらえない不思議な話』なのである。誰にもってハードル高いな。誰かは信じるやろう。


 〇エピソードその1

 ユリゲラーが流行していた頃。祖父と祖母がテレビを見てスプーン曲げを自分たちでもやってみたらしい。祖父のスプーンは曲がらなかったが、祖母は曲げた。くやしがった祖父がインチキを主張し、夫婦げんかになったという。


 〇エピソードその2

 予知夢を何度か見たことがある。


 デジャブと違うのは、その場面に遭遇すると「あ、夢で見たことがある!」と思う点である。脳のなんちゃらとか記憶の仕組みとか、そういった分析は置いとくとして、「あ、夢で見たことがある!」と思ったことが何度かあるというわたしの体験談だ。


 英語の授業で英単語を習っている場面、とかそういう非常にスケールに小さい夢だが、ハリー〇ッターの不死鳥の騎士団を出版前に夢で読んだ、なんてことがあった。あとはカクヨムも登録する前に夢で見ているとか。


 この場合は、夢の中のわたしはカクヨムをやっているのが当然の状態で、あれ読もう、これ書こう、とか夕飯作りながら考えてるのだが、ふと現在のわたしの思考に戻り、「ネットで小説??」と疑問に持つのである。


 予知夢は目覚めたらもう覚えていない。デジャブと同じでその場面にならないと思い出さないのだ。ということは脳の仕組みがどうのこうの……というのは不思議エピソードを書いているので考えてはダメです。


 〇エピソードその3

 小学生の頃、ハムスターを飼っていた。それが分裂して二匹になった話。


 最初はジャンガリアンハムスターで、そのあともジャンガリアンハムスターで、なんかイエローなんとかっていうのも飼ったことがあるはずだ。一匹じゃなく、何回かホームセンターで買って、歴代で数匹飼育したと記憶している。正確に何回かはよく覚えていないが、三匹は最低でも飼った気がする。一匹いなくなったら次を、という形なので、同時に二匹飼ったことはない。ここが重要である。


 さて。改めてハムスターの種類を調べてみたら、イエローなんとかもジャンガリアンハムスターの一種みたいなのだが、記憶にあるイエローなんちゃらは、もっと違う名前だった気がするのだ。けれど他にハムスターの種類一覧にぴんとくるものがないので、ジャンガリアンの変わり種だったのかもしれない。


 とにかく、いわゆる「とっとこハム太〇」でイメージするゴールデンハムスターの白と明るい茶色のハムスターではなくて、灰色のジャンガリアンと、全身イエローのなんちゃらを飼っていたことがあるのだ。


 まあ何を飼っていたのかはいいとして、分裂したのはジャンガリアンである。


 当時、飼育はブルーチップでもらった透明なプラスチックのやけにカラフルなアスレチックアドベンチャーみたいな飼育ケースに住まわせていたのだが、これがまた組み立て式のつなぎ目が緩くて、たびたびハムスターが脱走した。


 だったらもっとちゃんとした飼育ケースを用意したらいいものを、頑なにこのアスレチックアドベンチャーみたいなもので飼い続けていた。このアスレチックアドベンチャーには、周囲をぐるっと回るトンネルがついていて、脱走箇所は主にここのトンネル部分が外れて逃げ出していたのである。


 何度かは早期発見で脱走ハムスターを捕獲していたが、捕獲できないこともあった。そうしてまた次を飼うという、令和の時代感でいうと無責任なハムスター殺しみたいな飼い方だったのだが、まあとりあえず命を預かるとはの愛護の精神は置いとくとして。


 ある時だ。父が脱走ハムスターを押し入れの隅で捕獲したのである。また逃げ出したのか、とアスレチックアドベンチャーに戻そうとしたところ、アドベンチャーの設備に崩壊はなく、ハムスターは中にちゃんといた。


 じゃあ、このハムスターは一体……?

 そしてひらめく。前に逃げたハムを今捕獲したんだな、と。


 脱走ハムは長らく自由を謳歌していたようだ。そうしてアスレチックアドベンチャーに脱走ハムを戻して、嬉しいことにハムスターが二匹になった、と喜んだ翌日である。アドベンチャー内にハムスターは一匹しかいないのである。ワン・ジャンガリアンなのだ。もちろん、アドベンチャーに、ここから脱走したらしき欠損部分もない。突如、消えたのである。これはもうハムの生霊を捕まえて本体と同化したとしか思えないのであった。


 〇エピソードその4

 遊んでいたリカちゃん人形の髪が伸びた話。


 みんな大好きあのリカちゃんであるが、わたしのリカちゃんは従姉のおさがりであった。けれども他にもリカちゃんの妹やら弟やら、ジェニファーだかなんだか茶髪の人形も新たに自分用に買ってもらい、大所帯でそれなりに持っていていたのだが、やっぱりお気に入りは、おさがりのリカちゃんだった。


 そしてみんなもリカちゃんを持っていた。当時、たぶん小学校低学年頃だったと思うのだが、Kちゃんという子の家に遊びに行くときリカちゃんを持って行っていた。けれども、そろそろ人形遊びにも卒業し始めるというか、普通の遊びはしなくなる頃で、そこでしていたのは、単純な人形遊びではなかった。単純な人形遊びがどういうのかよくかわらないけれども。


 ともかく。リカちゃんの洗髪をして遊んでいたのである。たぶんトイレの外についている小さな手洗い場所だと思うのだが、その小さな洗面台で素っ裸にしたリカちゃんを石鹸で洗って遊んでいたのだ。そしてある時、気づいてしまったのである。


「髪が伸びてない?」


 小学生低学年頃である。それなりに理論立てて物を考えるのである。


「濡れたからじゃない?」


 さもありなん。その日はたぶんそれで終わったと思う。が、髪が乾き、それでも髪が伸びている状態だと気づくと、いよいよ話は盛り上がってくる。リカちゃん人形は洗うと髪が伸びる! わたしはそう結論付けた。だから自分ちの洗面台にて石鹸をつけて洗ったのだ。だがしかしリカちゃんの髪はちっとも伸びないのである。


 再びKちゃんちで洗髪すると、やっぱり伸びる。


 この頃、わたしのリカちゃんはボブカットからショートになりつつある髪の長さだった。つまりハサミで切っちゃってたわけだ。


 けれども、Kちゃんは三姉妹の真ん中であり、そのリカちゃんはお姉さんのおさがりだったのだが、下にまだ妹がいたため、髪は切ってなかったと思う。


 それでも彼女のリカちゃんも「髪が伸びたよー」ときゃっきゃっ遊んでいたので、どっかしらが伸びていたのだろう。あんまり覚えていないけれど、たぶん前髪あたりだった気がする。わたしのリカちゃんは前髪の横、切り刻まれたサイドのあたりが細い束になって伸びていて、伸び率だとKちゃんのリカちゃんよりも顕著であった。


 わたしは思う。ちょっとショートカットにしすぎてしまったリカちゃんも、Kちゃんちの石鹸で洗うと髪が伸びるから、もっと洗うとロングになるかもしれない、と。


 わたしはKちゃんちに通いつめ、洗面台で洗髪する日々をしばらく送っていたように思う。幼心の記憶なので数回で飽きてたのかもしれないが、当時はマジで伸びると信じていた。


 その頃、結論付けたのは、「Kちゃんちのトイレ横にある、あの洗面台であの石鹸をつけて水で洗うとリカちゃんの髪は伸びる」というものだ。少女二人が実験を繰り返し、論理的に考えて決定づけたものであった。


 そうして月日は過ぎていき、中学生の頃。


「リカちゃんの髪、伸びてたよね?」


 何がきっかけか、Kちゃんとそんな思い出話になった。Kちゃんのお姉さんは「引っ張ったから植え付けてある片方が抜けて伸びたのでは(つまりもう片方は短くなっていた)」と当時言っていたそうだが、しかしわたしたちはやっぱり「あの洗面台で洗うと伸びたよね」と信じてしまう。そもそもリカちゃんの髪の植毛状況はよく知らないわけだし。水で洗っていたのだから、ナイロンが伸びたとかでもないのだ。


 Kちゃんはホラー嫌いで、ホラー話をすると怒り出すくらいだったが、このエピソードは怖がることなく、わたしも怖い話として認識してなかった。でもその話を耳にした周りの友人たちはいったものだ。それ、めっちゃホラーやん。



 ◇◇


 さてさて。思いつく我が半生の不思議話はこんな感じである。

 皆さんはいかがでしょうか。不思議体験、この程度なら、結構あるのでは?

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Kちゃんちの洗面台でリカちゃんを洗うと髪が伸びた話。 竹神チエ @chokorabonbon

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