第6話 タルバ家の会議

 一方シローが寝室へ去った後、居間ではタルバ家の面々が集まり、シローについて話し合いをしていた。


 「ところでシローはとても子供とは思えない受け答えをしていたが、あの敬語にしても…、あの年頃の子供であんなにしっかりしているなんて、不思議な子じゃな」


 タルバの祖父ベンが呟く。

 プティも同じことを思っていたらしく、


 「そうなの。あの歳であれだけのしつけや教養を身につけてる様子からして、もしかするとどこかの貴族の家の子供なんじゃないかって気がするの」


 「どうかな、シローが着ていた服は貴族が着るようなものじゃなかったし…、貴族か商家かに奉公してた子って方が近いと思うんだけど」


 タルバもシローの生い立ちを推定してみる。


 シローの見た目と中身のギャップを生み出す原因。

 まさか子供の身体に30才のおっさんが憑依しているなんて思いもよらないだろう。


 タルバは彷徨う思考に終止符を打ち、皆に伝える。


 「とりあえず、人探しの情報は地区長のところへ伝わるだろうから、明日シローをダンさんのところへ連れて行って事情を説明してくるよ。合わせてうちでシローの面倒をみることも伝えて、シローがいつまでここにいることになるかわからないけど、少しでも早くアルカナ馴染めるようにしてあげようと思う」


 「そうね、それがいいわ。あの子を学校に行かせることだって前向きに考えてみたら。あの子のことは隠さずにアルカナのみんなと仲良く暮らしていけるようにしてあげましょう」


 タルバの母ハンナが、プティの淹れたお茶を飲みながらシローの生活方針を指し示す。


 「あの子は心配りのできる利発な子供だから、きっとアルカナの皆も受け入れてくれるだろうよ。ただそのうち記憶が戻るかもしれないし、ある日突然シローの身内が引き取りに来るかもしれない。そうなってもあの子がアルカナでの生活を誇れるように世話しようじゃないか」


 ベンはシローをアルカナの子供として育てていくよう皆に伝える。

 シローの未来に何が起こっても、シローがアルカナで過ごした月日がシローにとって幸せな時間であってほしい。そう願っているようだ。


 「なんだか突然子供ができちゃったような感じだけど、これも何かの縁だと捉えて、シローのことを僕たちの本当の子供だと思って育てていこうと思う。それでいいかな?」


 まだ結婚して1年足らずのタルバとプティ。

 そこに突然現れた推定年齢5才くらいの少年。まだ幼児といってもいいくらいの背格好。

 自分たちが受け入れた時にシローが流した涙を思い返し、タルバもプティもシローに同情以上の気持ちを持ち始めていた。


 タルバの問いかけに全員一致したところで、この夜は解散する運びとなった。




 俺はタルバさん達に用意してもらった寝室へ入るや、抑えていた喜びを静かに全開させる。

 声を殺して両手を突き上げその場でくるくる3回転し、満面の笑顔でなぜかへんてこな阿波踊りのような踊りを始める。

 

 (やった、やった、魔法だ、魔法だ、最高だ!…)


 ひとしきり静かに踊った後、さっそく魔力の放出練習にとりかかった。

 

 えーと、まずは下腹部に意識を集中して…と、そこにあるポカポカとする温かいものを…


 うーん、何かあるようなないような…、うーん…、おっ、何か動いたような!

 あっ、これは違う奴だ。

 トイレトイレ


 危ないところだった。魔力じゃなく危うく違うものを尻から放出するところだった。


 トイレから寝室に戻り、

 気を取り直して…と、

 再度集中しているとおへその下あたりが温かくなってきた。


 おー、きたきた! きっとこれが魔力なんだな。


 続けてさらに集中していると、おへその下の温かいのが身体全体に広がっていき、頭の先から足の指先までポカポカと火照ってきた。


 だんだん暑くなってきたので、体中のポカポカをおへその下へ戻すイメージをしてみる。

 すると予想通り、火照った身体が冷えていく。


 もう一度ポカポカを身体全体に広げてみる。そしてもう一度おへその下へポカポカを送り返す。そしてもう一度広げ、もう一度戻し、もう一度…、もう一度…


 自分の身体に魔力があったことが嬉しく、その魔力を認識し続けたいあまり、俺は魔力の移動を延々と繰り返す。

 時には掌だけに送ったり、時には膝だけに送ったりと身体のあらゆる部位に送ったり、送る量を増減させたりもする。


 ふと気づくと、外が明るくなり始めている。


 いけない、オールしてしまった…。少しでも寝なきゃタルバさんの手伝いを満足にできないかもしれない。

 名残惜しさを感じながらベットに横たわる。


 隙間なく布かれた木の天井版。

 見知らぬ場所での目覚め。

 幼児化した俺。

 恐怖心と闘い歩いた草原。

 タルバさん達との出会い。

 これからの生活。

 魔法の存在。


 とても整理しきれない。

 初体験の連続。

 だけど今となっては、そのすべてを嬉しさと喜びが包み込んでくれている。

 もう今日になるけど、自然と気力がみなぎっている。


 徐に目を瞑ったまま魔力の移動を始める。

 

 この魔力の温もりが心地いい。

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