合言葉はラッキートレイン

藤泉都理

合言葉はラッキートレイン




「ねえ教えてくれない?」

「だめです」

「なんで?」

「あなたが思い出さないと意味がないです」

「そんな融通のないこと言わないで教えてよ。長年の相棒じゃない。よっ。最高のAIロボット」

「だめです」

「カチコチ山」

「私の名前をご存じですか?」

「知っている」

「そうですか?この頃、変な名前しか呼ばないのでてっきりお忘れになったのかと思っていました」

「変な名前を言わせるあなたが悪い」

「それは失礼。もう少しで時間切れですよ」

「知っている。はあ。もう今日は諦める」

「今日も諦める。でしょう?」

「はいはい。すみませんねえ。だめだめな相棒で」

「いいのではありませんか?居心地のいい星ですから。無理に出て行くことはありませんよ」

「だから忘れちゃったんだってば」

「失礼。メンテナンスの時間ですので」


 AIロボットは相棒の女性に頭を下げてのち、近くの木に近づくと背を当てて目を瞑った。

 木にメンテナンスを任せる中、じんわりとする心地よい温度と共に、元気いっぱいの少女の声が部品いっぱいに広がる。






『『私たちの合言葉はラッキートレイン』』


 宇宙のあちこちをいっぱい旅をするの。

 少女の願いの為に、己を改造して、宇宙電車へと変身できるようにした。

 その際に必要なのが、合言葉。

 己の名前であり、少女が好んで口にしていた言葉。

 その少女が女性になる前に宇宙に飛び出て、二十年。

 少女は女性になった。

 時は流れたのだ。

 夢が変わってもおかしくはない。

 あちらこちら飛び回るよりも求めたのだ。

 定住地を。


(別に嘘をつかなくてもいいのに)


 合言葉を忘れた。

 なんて言わなくても。

 夢が変わったと言ってくれればそれで別に構わない。

 ええ、がっかりなんかしませんよ。

 私はあなたの相棒のAIロボット。

 あなたを補助するのが私の仕事。

 ここを終の棲家にしたいと言うのならば、住み心地のいいように補助するのみ。




『ねえ、ずうっと。ずうううっと。私がおばあさんになっても、ラッキートレインと宇宙を旅するの!』




 この言葉だけで十分ではないか。




















「あ。思い出した。そうだそうだ。ラッキートレインじゃん!よし。早速準備が終わり次第出発しよう!」

「………その前にあなたのメンテナンスをしましょうか」

「やだなあ。私も毎日メンテナンスしてるじゃん」

「見逃しているのかもしれません。ほら。病院に行きますよ」

「ラッキートレインラッキートレインラッキートレイン!」

「大声で連呼するんじゃありません。それに私と同時に言わないと変身しませんよ」

「ド忘れだってば。人間にはよくあるんだって!」

「知っています。ですが念の為に「やだ!」「私はずっとあなたの旅をしたいので健康で居てもらわないと困るのです」

「………泣き落とし小僧」

「泣いていません。まったく。そんな変な名前を言いまくるから忘れるんですよ」

「ごめんなさい」

「病院には?」

「行きますよー。もう」




 後日、何の問題もないとの診断結果が届いた時の相棒の顔も忘れないだろうと。

 AIロボットも女性も思ったのであった。




「じゃあー出発しよう!」

「はい。では」

「「ラッキートレイン」」











(2023.1.18)


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合言葉はラッキートレイン 藤泉都理 @fujitori

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