第57話 お墓参り

 屋敷の燃え跡に戻ってきた私と、荷物を背負っている宇音先生を見て、恵順も明々も驚いた顔をしていた。

「姉さん……どこに行っていたの。それにその子は……?」

「ああ、私の肉まんのお師匠、宇音先生よ! それに、小芳を助けてくれたのも、この宇音先生なのよ」


 私はふてくされたようにそっぽを向いている宇音先生の頭に、ポンッと手を載せる。宇音先生は「誰が肉まんの師匠だ」と、その手を払い除けてきた。

 恵順は明々と顔を見合わせて、しげしげと宇音先生を見ている。


「えっと……で? どう言うこと?」

「これから、この宇音先生と一緒に、みんなで都に行こうと思うの」

 私がにこやかに言うと、恵順も明々も「ええええ~~っ!?」と、驚きの声を上げていた。

「都にって、お嬢様……本気でおっしゃっているんですか? お屋敷はどうするんです」

「燃えてしまったし……このままでは住めないでしょう? それに、恵順が勉強をするのなら、都に行く方がいいじゃない? それに、都ならあの人の紹介状があるから、塾にも入れるわ!」

「それは……そうかもしれないけど……」

 恵順は真剣な表情で悩んでいる。これは、恵順にとっても悪くない話のはずよ。


「だけど、都に行ったって、住むところもないんだ。お金だってないのに」

「ここにいたって、住むところはもうないじゃない。お金のことは大丈夫」

 私は「任せてちょうだい!」と、胸を張る。まだ、瑞俊さんにもらったお金も残っている。この資金があれば、当面の旅費と生活費はなんとかなるわ。それに、途中でも饅頭を売って、路銀を稼ぐつもりだもの。


「宇音先生がいるから、心配ないわよ」

「勝手なことを言うな!」

 宇音先生は私の手から逃げながら、ムッとしたように言う。

「お嬢様、ですが、あまりにも急すぎやしませんか? 都に行っても、頼れる親族もいないんですよ?」

「…………でも……悪くないかもな。その考え、僕も賛成するよ」

「恵順なら、そう言ってくれると思ってた!」

 私は弟に飛びついて、ギューッと抱きつく。「わっ、姉さん、やめてくれよ!」と、恵順は恥ずかしそうに顔を赤くしていた。

「お嬢様や若君がそうおっしゃるなら、私も反対しませんよ。もちろん、どこまでもお供しますとも!」 

「そうと決まれば、早く戻って準備をしましょう! でも、その前に……お墓参りもしなきゃね」

「どうして、墓参り?」

「だって、しばらく戻れないかもしれないじゃない……」

 私が言うと、恵順は「ああ、そうか」と納得したように呟いていた。


 

 杜家の墓地は、村の外れにある。

 そこに出かけていった私たちは、半円形のお墓の前に膝をついて、線香を供えてお参りをする。

 

 杜家のご両親、屋敷を守れなくてごめんなさい。

 でも、家族のみんなは私が必ず守るから。安心してください。

 恵順も立派な官吏になれるように、支えていくわ。


 それと、梨花さん。

 もう少しだけ、あなたのこの体――借りるわね。

 

 私はお祈りをすませて、立ち上がる。

 恵順も、明々もそれぞれご先祖や両親への報告が終わったみたいだった。


「行きましょうか」

「うん……」

 

 墓の入り口のそばで待っていた宇音先生が、「まったく……」と呟く。

「知らないからな……後悔しても」

「しないわよ。宇音先生が恩玲さんを助けたいように、私も絶対、あの人を助けたい。いいえ、助けてみせるわ……」

 梅の木にはつぼみがついていて、もう春が近いことを知らせていた。

 

 都では、満開の梅の花が見られるかもね。

 私は微笑んで、歩き出した。






 

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