第55話 焼け跡

 恩玲さんが馬車で連れていかれてから、三日ほど経った日。

 私は明々や恵順と一緒に、燃えてしまった屋敷にもう一度戻ってきた。


 明々から話を聞いた。屋敷に火を放ったのは、周家のどら息子だったみたい。私に対する嫌がらせだったのね。周家のどら息子は、瑞俊さんに捕らえられて、さすがに裁きを受けることになったみたいだった。知県も、今回ばかりは息子を庇うことができなかったのね。


 幸いうちの家族が無事だったから良かったものの、許すことはできない。

 私は燃えてしまった屋敷の前で、しばらく佇んでいた。


 この家は私の本当の家ではない。この梨花さんの家だった。きっと、両親との思い出もたくさんあったはずだ。それは明々や、恵順も同じ。オンボロの屋敷だったけれど、大切なものはたくさんあったはずなのに。


「ごめんね、恵順……」

 私は隣に立っている恵順に、ポツリと言って、落ちて射る焦げた木の破片を拾い上げる。

「なんで、姉さんが謝るの……」

 だって、私のせいじゃない。私が周家のどら息子を甘く見ていたせいだわ。あの人がこんな卑怯な嫌がらせに出るなんて、考えもしていなかった。でも、周家のどら息子にとっては、私に面目を潰されて復讐の機会を伺っていたのね。


「あの人……姉さんを助けてくれた……僕に本を貸してくれていたのは、あの人だったんだ」

 恵順の言葉に、私は顔を上げた。

「ええ、そう。恩玲さん……あなたのことを話したら、自分はもうほとんど読んでしまったからって、貸してくれたの」

「じゃあ、お礼を言わないと」

「ええ、そうね……」

 私は頷いて、屋敷の裏手の山を見上げた。


 

 恵順や明々は、燃えてしまった屋敷の片付けをやるようだった。燃え残っているものがあるかもしれないと話していたから。思い出の品がないか、探しているのね。

 その間、私は禁山に通じる橋のそばに行く。

 

 せめて、もう一度だけ――。

 

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