第31話 フカヒレ入り肉まん!?
街や店に提灯の灯りが灯り始める。鳥や魚の提灯が紐で吊されていて、夜空に浮かんでいるみたいに見えた。
通りを歩く人たちも、みんな提灯を手にしている。絵が描かれているものもあれば、色がついているものもあった。子どもも大人も、みんな楽しそうだった。
私たちも提灯を一つ買って、荷車につけている。けれど、肉まんにもあんまんにも、人はあまり興味を示してくれない。
「お、おかしいわね……この前までは、調子よく売れていたのに。なんでなの!?」
売れたのは、三つほど。その後はさっぱりだった。
「お嬢様、あれのせいじゃないでしょうか?」
明々がそう言って指さしたのは、斜め向かいにある大きな酒楼だ。
三階建ての立派な建物で、『仙睡楼』という看板が掲げられていた。表には提灯がいくつも飾られて一際、明るく通りを照らしている。
大勢のお客さんが、ひっきりなしに出入りしていて、賑わっていた。その入り口の横では、お祭りだからか屋台が出ていて、「仙睡楼名物の高級フカヒレ肉まん、いかがですか~!」と若い店の女性が呼びかけを行っている。その隣には琵琶を演奏している人もいた。
「フカヒレ……肉まんですって!?」
私たちの肉まんやあんまんには目もくれず、通りすがる人たちは続々とフカヒレ肉まんのほうに吸い込まれていく。いつもはお店で出している高級フカヒレ肉まんが、安く買えるというのだから行列もできるはずだわ。
「わ、私だって……私だって……」
高級フカヒレ肉まんが食べたいっ!
フラフラと行列の方に歩いて行こうとする私を、明々が「お嬢様!」と引っ張り戻した。
「なに、買いに行こうとしているんです!」
「だって、フカヒレよ!? フカヒレと言えば、あの滅多に食べられない珍味じゃないの! どんな味なのか、気になるじゃない!」
「だからってダメです! あんな高級な肉まん、うちには買う余裕なんてないんですから。それに、あれは商売敵ですよ!」
「うっ……そ、それも……そうね……所詮、ただのフカヒレよ……ただの高級で……おいしそうな……っ!」
私は手でこぼれそうになるよだれを拭う。
店の中から、男の店員がいくつもの蒸籠を積んだお盆を運んできた。
「蒸したてフカフカの、鮑入り肉まん! 限定三十個!!」
女性が呼びかけると、人たちがわっと詰めかけて買い求める。三十個の鮑入り肉まんは飛ぶように売れてしまったようだった。
「あ、鮑入り……ま、負けたわ……完敗よ……っ!」
私はその場にしゃがみ込む。
フカヒレや鮑入りの肉まんに勝てるわけないじゃない!
勝てるのは、トリュフか、フォアグラ入りの肉まんくらいよ! でもそんなものは、こちらの世界では簡単に手に入らない。そんなお金ももちろんない。
「お嬢様……ここは場所を変えた方が……」
「そうね……フカヒレや鮑入りの肉まんがない場所に行きましょう……」
私と明々は「はぁ~」と、気落ちしてため息を吐いた後、荷車を押してその場を離れた。
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