第27話 お返しの腕輪

 帰る時、恩玲さんは山の入り口まで私を送ってくれた。腕に抱えているのは、お菓子の入っている箱だ。

 帰り際に、宇音先生にぶっきらぼうな態度で渡された。前掛けのお礼のつもりみたい。それを思い出して、私はフフッと笑う。

 山の入り口まで来ると、小川にかかる橋が見えてくる。

 その前で、私たちは足を止めた。


「じゃあ、恩玲さん……少し早いけれど、よい新年を」

 私は挨拶をして、橋を渡ろうとした。

「待って……」


 急に手首をつかまれて、私は振り返る。

 恩玲さんは懐から取り出した腕輪を、私の手にすっとはめてくれた。

 綺麗な翡翠の腕輪――。


 驚いて恩玲さんの顔を見ると、「他に……あげられるようなものがなくて」と恩玲さんがぎこちなく笑みを作る。

「こんな高価そうな腕輪……も、もらえないわ!」

 私は咄嗟に言って、腕輪をはずそうとした。

 匂い袋のお礼にはあまりにももったいない。けれど、「いいんだ」と恩玲さんに止められる。


「私が持っていても仕方ないものだから……梨花さんに使ってもらうほうがいい」

「で、でも……本当に……いいの?」

 とても、簡単に誰かにあげるような代物には見えない。誰か大切な人のものだったんじゃないの?


「うん……もし、いらなければ……売ってくれてもいいし」

「とんでもない! たとえどんなに貧乏になっても、これだけは絶対に絶対に売らないわ!!」

 私は腕にはまった腕輪をギュッと握って、大きく首を横に振った。恩玲さんはクスッと笑い、ゆっくりと手を離す。


「梨花さんも、よいお年を……」

 そう言うと、橋の手前で一歩下がる。

「ありがとう。また、すぐに来るからっ!」

 私は約束して、お菓子の箱を抱えながら橋を急ぎ足で渡る。

 屋敷に戻る私を、恩玲さんは橋のそばでずっと見送っていてくれた。

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