第3話 追撃さる

 ドドーン!


 ドドーン!


 水柱が右舷に高く上がった。


「クソ。見つかったか!」

 ユモシェンコ船長は悔しがるがこのまま走るしかする事は無い。

「近くに敵がいる筈だ!探し出せ!」

 ユモシェンコ船長は伝声管に向かって鳴る。了解の声はすれど敵発見の報告はなかった。月夜になり条件は敵も同じ筈であるが…。何か魔法でも使っているのか?それにしても敵の位置が分からなければ手の打ちようがなかった。例え分かったとしてもなす術はない。


 ドドーン!

 ドドーン!

 今度は近く落ちて水中で爆発したのかゴクンと衝撃により船体が持ち上げられる。船内からは悲鳴が起きる。

「各部、異常を知らせ!」

 ユモシェンコ船長は指示を飛ばす。


 私は寝ていたが、船が持ち上げられたショックで目が覚める。眠い目を擦って起きて周りを確認する。大人達が騒いでいる以外は特に異常はない。いつの間にか月が出ていた事位しか変化を感じられなかった。


 ヒュー、ヒユー……。


 ドドーン!

 ドドーン!


 水柱が高く上がる。これで私は状況を掴んだ。敵に撃たれていると。後の方から飛んで来ている様子だったのでボートデッキの船尾方向に行く事にする。毛布は邪魔なので折り畳んで丸めて紐で括ってトランクに結んでおく。私はトコトコ歩いて行く。

「お?」

 ボートデッキの最後部に髭もじゃの船員が見張りに立っていた。髭もじゃの船員は私に気がついて短い声を出した。

「後ろから撃たれていると思う」

「何でそんな事が判る?」

 髭もじゃの船員は私を問い詰める。

「ん。砲弾の音で判る」

「そうかよ」

「双眼鏡貸して」

 半ば投げやりになっていた髭もじゃの船員は私に双眼鏡を貸してくれた。

「スパシーボ」

 私は双眼鏡をあてて索敵する。その時、ピカッと二つ光った。

「飛んで来る」

「なぬっ⁉」

 まもなく風切り音を発して砲弾が飛んで来た。


 ドドーン!

 ドドーン!

 水柱が高く上がる。さっきより近くなっている。

「どっちの方角だ!」

「あっち」

 私が指差す方角に髭もじゃの船員は目を凝らす。

「ドープロ川の河口付近に潜んでいるのか?」

「たぶんその手前」

「崖の物陰に隠れて砲撃してるんだ!」

「たぶん」

「ボートデッキからブリッジ!敵は4時の方向!崖の陰に隠れて砲撃している模様‼」

 髭もじゃの船員は伝声管に向かって怒鳴る。この報告でユモシェンコ船長は合点がいった。

「進路337。斜行するように面舵4度で進め!」

 船は真っ直ぐに陸に進まず、だんだん幅寄せするような動き方をする。水柱は段々遠くなってゆく。

「よし、いいぞ!敵の死角に入るのだ」


「艦長!このままでは照準できません!」

 砲術長は艦長に報告した。ユレリナ船の動きは常に把握していた。しかし、崖のせいで目標を見失う恐れがあった。

「仕方ない。では我々も動き出すか」

 艦長は命令を出す。

「両舷前進微速!」

 停止していたルデシア駆逐艦はゆっくりと動き出した。



 一旦砲撃が止んだのでフェリーボートの乗員は安堵する。しかし、反撃する手段も無く速力は既に全速力だ。だがまもなく緩んだ空気は一変する。


「諦めたのか?」

 髭もじゃの船員は私に言う。

「そんなヤワな連中じゃないと思うよ」

「何でそんな事が判る?」

「養父だった人、サユース海軍の元大佐。彼がそう言ってた」

「そ、そうかい…」

 髭もじゃの船員は絶句する。するとまもなく遠くでピカッと二つ光り、砲弾が飛んで来て船の前の方に高く水柱が上がった。安堵感はいっぺんに吹き飛んだ。

「ね、言ったでしょ?」

「そ、そうだな…」


「進路を維持しろ!絶対に敵に横っ腹を見せるな!」

 ユモシェンコ船長は操舵手にハッパをかける。横っ腹を見せれば集中砲火を浴びせてトドメに魚雷を撃って来る筈だ。


「敵艦、追って来た」

 双眼鏡を覗いていた私は髭もじゃの船員に言う。月夜で明るくなっており波しぶきがはっきりと見えた。かなりスピードを出している様だ。

「ブリッジ!敵が追って来たぞ!」

 髭もじゃの船員はヤケクソに怒鳴って報告する。距離はまだ一万五千位は離れている様だがそれも時間の問題だろう。その証拠に水柱がだんだん近づいて来た。


 ヒュルルル……。


 ドドーン!

 ドドーン!

 水柱がフェリーボートの両脇に立ち昇る。砲弾が水中で爆発して船が衝撃でゴクンと持ち上げられた。私と髭もじゃの船員はそのせいでびしょ濡れになる。

「これはヤバい。ふぇーくしょん!」

 私は決断する。

「ちょっと、身体、支えてて」

「お、おう…?」

 私は両足を踏ん張り全身に力を籠める。そして両手を高く空に向かって突き上げた。


                                つづく

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