第3話

「よし、書けた!」

 イレイサー事務所のデスクでツノダが大声で叫んだ。


「なんだよ、うるせえなあ。びっくりするだろうが」


 事務所にはイレイサーたちが珍しく大勢おり、それぞれが報告書を作成するため格闘していた。


「うるさいってなんだよ、ハルキ、お前のせいでこんなの書かなきゃいけなかったんだぞ」


「ん? 俺のせい? 何書いてんの、ツノダさん」


「お前、これはあれだよ、報告書だよ。苦情が来ててな、なんでお前をイレイサーにしたのかって言われてさあ、んで、お前、これを書いてたんだよ」


「ふーん」


「ふーん、て、お前。ふーん、て、お前な、これ、大変だったんだよ、書くの」


「ちょっと見せてみろよ」

 そう言ってハルキはツノダの書いた報告書をパラパラとめくり始める。


 ひとしきり読み終えたハルキは


「ツノダさん、これほんとに提出すんの?」


「ああ、まあ、まだ下書きだけどな」


「これ、ダメだよ」


「ん? なんで?」


「これ、あれだよね。あの事件、出しちゃダメなんじゃなかったっけ?」


「え? あ、そうだった?」


「だろ? んじゃあここに書いてあることほとんど出しちゃダメじゃん」


「いや、でもお前がなんでイレイサーになったのかって書こうと思ったらこの事件のこと、書くしかないじゃん」


「いや俺に言われても。んで、なんだよ、これ。ツノダさんが解決したみたいになってるじゃねえか」


「ん? そうだよ? あの事件、俺が解決したろ?」


「びっくりしたあ。あんたほんとにすごいな」


「お? ハルキさん、これ、なんの事件なんすか?」


「おわ、お前いつ戻ってきたんだよ。これは、えーと、お前と出会う前の事件だよ」


「えー、いいっすねえ。オレも読みたいっす!」


「あー、でもこれなあ、ツノダさんが解決もしてないのに自分が解決した、みたいにカッコよく書いてんだよ? 読みたいか? そんなの」


 そう言うとハルキはツノダに目配せする。

 ニッタにこのファイルを見せるわけにはいかない。

 ツノダはそれを見て慌てて 自分の書いたものを見直しながら


「うわー! マジだよ、どうしよう、ハルキ!」

 と言って頭を抱えている。


「んで? どうすんすか?」


「ど、どうしよう、書き直しかなぁ」


「それがいいと思うぜ。こんなん出したらまた国家情報保安局からクレーム来るからな」


「そっかあ、めんどいなあ」


「ねえねえハルキさん、なんの事件なんっすかって! 教えてくださいよお」


「うるせえなあ。あ、そうだ。お前あの短剣、鞘は出来たの?」


「あー! そうっすよ! ツノダさん、どうなってんすか!? 鞘!」


「あー、それもあったなあ。あれはあれで大変だったんだよ。あれ、お前、今、トクゾウさんのとこだよ」


「そうなんすか?」


「ああ、やっと許可が下りてな」


「ん? 許可? なんで許可なんているんすか、あれはセントレイスデイのプレゼントっすよ」

 それはもう遠い昔のような気がするが、まだ半年ほどしか経っていない出来事だった。


 そしてあの事件のことも追加で国家情報保安局から報告を求められている事を思い出すツノダだった。



 ※イレイサー:File04_Confidential Case:こちらは閲覧許可が下りていません。

 https://kakuyomu.jp/works/16817330652445068545



 次回更新

 2023/02/04 02:00

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