第2話
彼と協力し捜査を進めて数日後、その事件は起こりました。
彼の二つ下の後輩で、孤児院出身者の若者が、その年に卒院する子どもたちを、自分がしている仕事の手伝いをさせるためにやって来ました。
表向きはどこかの建設会社の下請けという事でしたが、実情は裏組織と繋がりがあり、盗みや怪しげな薬なども扱うヤバい、いや、危ない組織でした。
彼は卒院する子どもたちを止めましたが、子どもたちからすると先輩卒院生で、誘ってくれた先輩について行こうとするものも少なくありませんでした。
孤児院出身者がまともな職に着く事は、実際にはなかなか難しい事も事実です。
帝国では、他国との戦争はここ数十年行われていないはずなのに、多くの孤児が生まれています。
魔導科学の発展により技術の進歩は凄まじく、魔導列車や魔導車なども開発され、機械化が進み、大量生産も行われ生活は豊かになったはずなのに、です。
富は持つものに集中し、持たざるものは工場から排出される汚水が流れる場所での生活を余儀なくされ、スラムが出来、犯罪も増え治安が悪くなる一方です。
持つものは毎晩、優雅なドレスに見を包み、社交パーティや晩餐会を行っています。
街中では、最近一般に販売が開始された魔導車が走り始め、魔導ラジオといった物も売り出され始めました。
ああ、また話が。
その日、仕事を斡旋するという若者が教会にあった『あるモノ』を盗み出してしまいました。
それが我々の探していた遺物、『聖石』だったと言うことを知ったのは随分後になってからでした。
当時は石箱が盗まれた、という事になっていました。
その若者は教会の裏側に手を出してしまっていたのです。
当然、私と彼はその若者を追いました。勿論、教会側も血まなこになって若者を探しました。
翌日、その若者と何故か教会の司祭の遺体が教会で発見されました。
勿論、石箱も。
国家情報保安局も調査に乗り出しましたが教会側の圧力もあり、詳しい調査はできなかったのだと聞いています。
教会側は隠していましたが、おそらくこの殺害された司祭がカタデリー信仰の遺物を隠し持っていたのでしょう。
この事件の後、彼は憔悴しきっていました。
当然でしょう、世話になった教会、司祭が殺され、その司祭がカタデリー信仰の手先で、さらに卒院予定の孤児院の子どもの一人も記憶を失うほどのショックを受けていましたから。
その子どもは彼が孤児院に預けていたのだそうですし。
まあ、事件はこのような幕切れでしたが、私はこうして彼と出会ったのです。
そして、彼との出会いとこの事件で決意しました。
イレイサーはこれまでバディ単位でしか動いてこなかったですし、指令も直接バディに届くんです。
これではそれぞれが何をやっているのか、どう動くべきなのかわからないのではないか。
イレイサーをまとめる役割が、そしてイレイサーを補助する役割が必要ではないか、と。
こうして私は国家情報保安局と掛け合い、二年後、プロデューサーとなったのです。
彼をイレイサーとしてスカウトしたのは私がプロデューサーになった時です。
彼は相変わらず荷を運ぶ仕事をしていましたが、変わっていた事が一つだけありました。
あの記憶をなくした少年を助手につけていました。
こうして彼と少年をスカウトし、彼らはイレイサーとなったのです。
どうです?
面白いでしょう?
次回更新
2023/02/03 02:00
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