第2話 ダービージョッキーに俺はなる!
「おい聞いたかよ今年のアブソルートの種付け料?」
「ああ、2億円だっけ?凄いよな」
美穂トレセン場で調教師同士が世間話をしていた。
2歳にして10頭全ての馬が勝ち上がり競馬大国で各馬が大活躍と、圧倒的な競争能力を見せつけた昨年の結果から今まででは考えられないような種付け料が設定されていた。
「しかも繁殖牝馬に選んでもらうには他にも条件があるんだろ?」
「ああ、繁殖牝馬は現役時代にG1を複数勝つか、繁殖で子供が結果を出してる牝馬じゃないとだめらしいな」
「2億円も出させて選ぶ立場とはとんでもないな」
「まあそれだけの結果を出してるからな…この前はヴァンガードに皐月賞まで勝たれちまったからな、マジでヤバいぞ日本競馬は…」
「日本だけじゃないだろ…」
「ああ…」
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2043年3月某日
「ダービージャッキーにおれはなる!」
今年の新人ジャッキーの1人がデビュー前に意気込みをテレビのインタビューで聞かれた時に人気漫画の名言をもじって回答した。
そして今はインタビュアーのお姉さんが一人の若手ジョッキーにインタビューをおこなっている最中だ。
「威勢がいいね、祐翠ゆうすいくん、じゃあ祐翠くんもお父さんのようにいつかはダービー勝つのが目標かな?」
「いつか?いつかじゃなくてダービーは今年勝つよ!」
彼の周りに集まっていたインタビュアー一同に一斉に笑いに包まれた
威勢のいい一言を言った彼の名は福山祐翠(ふくやまゆうすい)。
叔父の天才と言われた福山洋一で、父の祐一もダービーを3勝した偉大なジャッキーだ。
そんな明るい場の雰囲気を壊すように無骨で嫌味なインタビュアーの質問が飛んだ。
「でも祐翠くん、G1に乗るには31勝以上しないと乗れないんだよ?ダービーまでにそんなに勝てるかな?」
「勝つさ!デビューの日に31勝つよ!」
「祐翠くん、レースは一日12Rだから全部勝っても31は勝てないわよ?」
「え?そうなの?」
インタビュアー一同ふたたび爆笑!!!
偉大な祖父と父の子だけでなく、ビッグマウスと愛くるしい彼のキャラクターが受けて祐翠はお茶の間の人気者になった。
そしてデビュー前はビッグマウスにも映る発言が多かった祐翠だが結果も残していく。
流石にデビュー初日に31勝とはいかないまでも、ダービーを前の週の段階で30勝、1年目でのダービー騎乗の条件まで残り1勝のところに来ていた。
しかも騎乗できた場合には自身の騎乗で青葉賞を勝利してダービーでも有力馬の1頭とされている馬での参戦を予定していた。
しかしこの週の祐翠は人気馬に数頭騎乗するも勝利することができないまま日曜日の最終レースを迎えてしまった。
そしてこの日の最終レース前の祐翠。
「ここで勝たないとダービー乗れないのか…」
最終レースの祐翠の乗り馬の人気は16頭立ての11番人気。
単勝万馬券の不人気馬で、勝利することはかなり難しい馬でのレースを残すのみだった。
難しい表情を浮かべていた祐翠に1人の調教師が声をかけた。
「おい祐翠!まさか諦めてないよな?」
「親父!」
声をかけた調教師は祐翠の実の父で、調教師の福山祐一(ふくやまゆういち)だった。
「今年ダービー勝つんだろ?そんな奴がこんなところで負けてらんないだろ?」
「親父…ああ、そうだな!俺、勝ってくるよ!」
息子の表情が変わると祐一は我が子の成長を喜んだ。
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12R最終コーナー。
普段は出遅れ癖のある馬を綺麗にスタートさせ、追い込み一辺倒だった同馬をまさかの先行作戦を取っていた。
「絶好のポジションだ、いけ祐翠!」
祐翠のムチに反応した同馬は3番手から力強く抜け出し先頭でゴールを駆け抜けた。
祐翠「うおっしゃーーー!」
通常は淡々とレースが消化されることも多い最終レースに似つかわないガッツポーズを繰り出す祐翠に観客たちも拍手を送っていた。
翌週はいよいよダービーウィークだーーー!
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