第22話 決意、決断
✳︎
音が止み巨大オオカミの方を見る。
「嘘……」
シオンが信じられない眼差しで目の前を見つめる。
オオカミの音の攻撃は二人の魔法を打ち消してしまった。
そして余裕綽々とでも言うように四本の脚で祠の前に立ち、僕達をその巨体で見下ろしていた。
「グッ…………サミー、どうする?」
「サミー……」
ライングの肩から血がドクドクと溢れていた。巨大オオカミの攻撃は掠るだけでも致命傷になっていたのだ。
シオンとケーアはまだ余裕はあるがあのオオカミの雄叫びの前では魔法は通じない。
「………………」
手があるとすれば僕とライングが巨大オオカミの注意を逸らし続け、あの雄叫びをさせないようにする。そうすれば二人の魔法を撃ち込めるかもしれない。
だが、ライングは怪我をしており好調の時ほどの力が出せない。
あの巨大オオカミ相手に治療する余裕も無いし、仮に治療ができたとしてもその間、僕一人だけであの巨大オオカミから三人守るのは不可能だ。
シオンかケーアが前衛に加わればライングを安全に治療できると思うが……ダメだ、どちらかを犠牲にしてしまう。
どうやって戦おうとしても誰かが犠牲になってしまう。
(どうすればいいんだよ…………!)
『貴方のお父さんはね、冒険者だったの。とても強くて、そして優しくて、みんなに慕われてたの。だけどある日ね、仲間の一人を庇って亡くなっちゃたの』
(え…………?)
何故か今、あの時のお母さんの言葉が頭に過ぎる。顔の知らない父親の最後。
その言葉がまるで天啓のように浮かんだ。
『自分の心にだけは絶対に嘘をつかないでね。それってとても苦しくて、悲しいことだから』
『自分の心にだけは嘘をつかない』、今自分がしたいことは。
「みんな……逃げてくれ」
「え?」
「ここは僕が囮になるからみんな逃げろ!!」
今自分がしたいこと。それはもちろん『仲間達を守りたい』
「サミー……、お前死ぬつもりか!」
「このままじゃ、どのみち全滅だ。そうなるぐらいなら僕が時間を稼ぐ!」
確かに僕は弱い、だけど三人が逃げる時間ぐらいは稼げる。
「貴方も一緒に逃げるのよ。わざわざ犠牲になる必要は無いわ」
二人は必死になって止めてくれている、やっぱり優しいな。
才能のある二人、とても強い二人、僕はそれを見てズルいと思った。同じ力が欲しいと思った。二人が称賛されてるのを見て何度も嫉妬した『羨ましい』って。
でも、僕は二人のことが大好きなんだ。二人を助けられるならこれぐらいどうって事ない、このパーティーの盾は僕なんだ。
「大丈夫。時間を稼げたら僕もすぐに逃げるからさ」
「なら私も……!」
「ダメだ、シオン。犠牲を増やしてはいけない」
「……ッ!」
それに元々この依頼が終わったら
「…………ライング、シオン、ここはサミーに任せよう」
どうやらケーアは察してくれたようだ。まあここまま言い争いをする時間は無いんだ。ケーアにとっても素早く動きたいんだろう。二人を早く逃げるように急かしている。
「サミー! 絶対に生き残ってくれよ! お前に教えて欲しいこと沢山残ってるんだから!」
「サミー、貴方はとても強い人間よ。だからまた会えると信じているわ」
「…………頑張って」
「……おう! 絶対にまた会おうな!」
精一杯の笑顔で三人を送り出す。僕、ちゃんと笑ってるよな?
三人は広間から出ようとするが、逃げようとする三人に向かってオオカミが駆け抜けた。
「……待て!!」
剣と盾を構えオオカミの進路上に立ち塞がる。
オオカミは脚を止めて、邪魔をした僕を不機嫌そうに見下ろした。
「お前の相手は僕だ!」
手を震わせながら剣をオオカミに向ける。
(ふふッ、もしコイツを倒せたら三人はびっくりしてくれるかなぁ)
死が近いというのについつい笑ってしまった。
僕はコイツには絶対に勝てないだろう。でもこのまま殺されるのはゴメンだ、必ず一矢報いてやる。
「ワオォーン!!」
オオカミも高らかに吠え前脚を地面に思いっきり叩き付けた。
どうやらコイツも準備万端のようだ。
「さぁ……、かかってこい!」
こうして僕の最後の戦いが幕を開けたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます