第23話 VS白銀の狐狼①
✳︎
サミーは剣を持ち、巨大オオカミへ駆け斬りつけようとする。狙いは前脚、まずはその機動力を削ごうというのが目的だ。
しかし巨大オオカミは並外れたパワーを持ったライングの攻撃ですら切り傷しか負わせられない。そして今まで力ではなく技術で戦ってきたサミーではその皮膚に傷をつけることはできなかった。
巨大オオカミは攻撃の隙を逃さず、近づいて来た獲物に前脚の爪を使い攻撃をする。
━━ガキンッ!
攻撃は盾に受け止められた。甲高い金属音が洞窟内に響き渡る。
攻撃は何とか受け止めたが巨大オオカミの力には敵わずそのままジリジリと身体ごと押されてしまう。
サミーは剣で受け止めた爪を押すように勢いよく突きつけた。
突きつけられた爪は一瞬だけ跳ね上がり、盾を滑るとサミーの顔を掠めながら地面に突き刺さった。
巨大オオカミが爪を抜いている隙にサミーは一度距離取り息を整える。
「すぅ……はぁ……」
いくらなんでも皮膚が硬すぎる。まるで壁に向かって剣を振るってるようだ。
たが、僕の役目は時間を稼ぐこと。この程度で諦めてたまるか。まずはコイツの弱点を見つけるんだ!
ピシッ………
幸いにもヤツはその巨体故にこの洞窟内で素早く移動できない、そこに付け入る隙があるはずだ。
「ハアァッ!!」
サミーは自身を鼓舞するように大きな声を上げ、巨大オオカミの背後へ回り込むように駆けていく。
そして後ろ脚に向かって斬りかかり、そしてすぐさま後退し、巨大オオカミの攻撃が届かない間合いまで下がった。
『ヒットアンドアウェイ』、隙が無いならその隙を出させる。それがサミーの考えた作戦だった。
「まだまだ行くぞ!」
一つ、また一つと攻撃をしては逃げる。巨大オオカミに対してダメージは与えられないが相手を翻弄することができていた。
しかし巨大オオカミもやられてばかりではない。サミーが攻撃を僅かな隙間に前脚で攻撃をしようとする。が。
「甘い!」
力の無い攻撃は盾で防がれてしまい、再び距離を取られてしまう。
攻撃しては離れ、攻撃されては盾で受け止める。ジリジリとした膠着状態が続いていたのだった。
「グルルル……」
さて、巨大オオカミは目の前にいる相手が"厄介なヤツ"と認識していた。力は大したことないが、その守りと観察眼は自身の守護する
ピシッ……
一方サミーも焦っていた。決め手に欠ける、そして一度でもまともに攻撃を食らえば致命傷になり得ると。
(僕の役割は時間稼ぎだ。ここで逃げるのも一つの手だけど……)
「グルルルル……」
獲物に向けて喉を鳴らす音。
どうやら巨大オオカミはサミーを逃す気は無いようだ。
(絶対に生き延びてやる……!)
そうして再び攻撃しようと巨大オオカミの側面に回り込もうとした時。
「グワァッ!!」
移動先を予測した巨大オオカミの前脚がサミーへ襲い掛かったのだ。
何度も同じ手を使った相手の動きを予測できるようになっていたのだ。
サミーはすかさず手に持った盾で受け止めようとしたが……
━━━━バリーンッ!!
「えっ……」
先の魔物の集団、トカゲ魔物、そして凄まじい力を持った巨大オオカミの攻撃。
短期間に激しい攻撃を受け止め続けたサミーの盾は既に限界を迎えていた。
そして、冒険者試験の後から使い続けた盾はこの時を持って砕け散ってしまった。
「……ッ!」
━━━ガァンッ!!
盾が砕け、巨大オオカミの攻撃をモロに喰らったサミーは洞窟の壁に向かって激突してしまう。
壁には大きなひび割れが生まれ、サミーの頭からはタラタラと血が流れ落ちていた。
全身の激痛、覚束ない意識、サミーの心身は限界に近かった。
「………………」
やはりダメだった、だけど当たり前か。こんな強大な魔物に対して一人で立ち向かうなんて無理な話だったんだ。
最強の肉体なんて無い、伝説の武器も無い。あるのはちょっと鍛えた身体と銀貨数枚で買った少し高価な剣と盾ぐらいだ。
「………………」
でも、頑張ったよな。いきなりこんな異世界に転生しても必死に鍛えて、大切な仲間と色々な冒険をして、最後はこんな強い魔物と思いっきり戦う事ができたんだから。
もう思い残す事は━━
『サミー! 絶対に生き残ってくれよ! お前に教えて欲しいこと沢山残ってるんだから!』
『サミー、貴方はとても強いわ、だからまた会えると信じているわ』
『…………頑張って』
思い浮かんだのは走馬灯ではなく大切な親友達の言葉だった。
そうだよな、まだやることは沢山あるんだ。ここで死んでる場合じゃないんだ。
巨大オオカミの攻撃に壁に激突した衝撃、普通なら致命傷だが、サミーはそれでも立ち上がった。
倒すべき相手を見据え、臨戦態勢を取る。
その時、白い毛に染みる赤い色が見えた。
「あ……!」
右前脚の腋の下、それは先程ライングを助けようと必死になって突き刺した部位、そこから血がポタポタと流れ落ちていた。
小さな、とても小さな傷。しかし、それが巨大オオカミの唯一の弱点を見つけた瞬間だった。
「グルルル……」
巨大オオカミは驚いていた、まさか目の前の敵がまだ立ち上がるのかと。
しかし巨大オオカミは喜んでいた、こんなに心躍る戦いは百年振りだと。
力も無い、神の加護も無い。ただただ普通の人間が自身に傷を付けた、そして自身の一撃を喰らってもなお立ち上がる。そんな勇敢な人間がまだ居たとはと。
しかしここで倒す、全力を持って倒すことこそが敵への最大の敬意だから。
脇の痛みに耐えながらも、この心躍る一戦に巨大オオカミは既に色褪せた銀色の獣毛を逆立てた。
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