第21話 狐狼激震
✳︎
薄暗い直線の道を僕達はゆっくりと歩いている。
洞窟には魔物が存在しないようで、特に危なげなく奥地に辿り着いた。
「……広いな」
洞窟の奥地は広間のようになっている。辺りには寝具に使っていたであろう枯れ草や、大きな魔物の足跡のような生活の跡があり、かつては魔物の住処だったのであろうことが見受けられた。
「あそこを見て」
そう言ってシオンが指差したのは広間の奥、天井に空いた一つの穴から太陽の光が降り注ぐ場所だった。
「あそこに何かあるね」
「なんだこれは?」
近づいてよく見てみる。
「……祠?」
それは石で作られた小さな祠だった。
所々劣化しているが、今でもその形は保っており降り注ぐ太陽の光をその身に受けていた。
「ここに窪みがあるな」
祠の手前の台座があり、そこの中心に渡された石と同じぐらいの大きさの窪みができていた。
「ここに石を置けば良いんだろうね。ライング」
石を持っているのはライングだ。先程の説明の時に渡しておいたのだ。
「…………」
ライングは懐から水色の石を取り出し、僕の前に差し出した。
「え?」
「サミー、この石はお前が置いてくれ」
「どうしたんだ? ライングが置けば良いじゃないか」
ライングは水色の瞳を輝かせて笑った。
「この依頼はお前が持ってきたんだ。だからサミーにやって欲しいんだ」
「……まあ、良いけど」
ライングの意図はわからないが、まあ大丈夫だろう。
石を受け取り、祠の前まで歩いていく。
「…………」
そしてその上にある台座の窪みに石を置いた。
「……え?」
瞬間、水色の石がまばゆく輝いたように見えた、が。石からは特に何も起こらなかった。
輝いて見えたのもどうやら目の錯覚だったのだろう。
さて、こうして依頼は完了。あとは報告して報酬を貰うだけだ。
「それじゃあ戻ろうか」
ライングの号令で僕達は引き返そうと出口から出ようとした時。
━━ドグォォン!!
洞窟の広間に大きな衝撃音が響くと同時にパラパラと小さな石が降ってきた。
そして。
「オォーン!」
甲高い遠吠えが広間に響き渡った。
そこに居たのは白く美しい獣毛、鋭い爪、獰猛な眼、5メートルを超える巨大な四つ足の体躯、美しくも気高い孤高の魔物。巨大オオカミが天井の穴から漏れる光に照らされていた。
巨大オオカミは僕達を睨み今にも襲ってきそうだ。
「戦闘体勢!!」
魔物を見た瞬間、僕達はすぐさま武器を構え戦闘陣形を作ろうとする。
「ワオォーン!!」
しかし巨大オオカミは待ってくれない。
後ろ脚で地面を蹴り、祠から僕達の元へ風のように一瞬で近づきその大きな前脚を薙ぎ払った。
━━ドグォンッ!
サミーは何とか攻撃を盾で受け止めた。
(重い……! これでは持ち堪えれない!)
「陣形を作れ!!」
その言葉を叫ぶと同時に広間の壁まで飛ばされてしまう。
背中に衝撃と盾を持つ腕の軋むような痛みが同時に襲い、目の前で小さな光の線が点滅する。
頭を横に振りながら立ち上がり周りを見渡す。
ライングは巨大オオカミを惹きつけ、シオンとケーアはそこから離れた場所で魔法の詠唱を始めていた。
「サミー、大丈夫か!」
「大丈夫! 僕達で時間を稼いで二人の魔法の時間を稼ぐ!」
「了解! 無理をするなよ!」
そうしてライングは巨大オオカミを挟み撃ちにできるよう、僕の居る位置とは反対の位置へ移動した。
挟まれた巨大オオカミはサミーに狙いを定め再び地面を蹴った。
そして近づいた巨大オオカミは前脚を使って踏み潰そうとする。
━━ガァッン!!
横に飛び退き回避する。地面を強く叩き付ける音が響く。
「…………ッ!?」
その光景をみて驚愕する、巨大オオカミが攻撃した地面には大きな足跡が作られていた。
巨大オオカミ凄まじいパワー。その攻撃を少しでも喰らえばひとたまりも無い。
だが、このパーティーにはライングが居る。
「ウオリャアッ!!」
大声を上げながら巨大オオカミの身体に斬り掛かる。
ライングの攻撃を受けて無事だった魔物は見たことがない。これでこの戦闘も有利に進められるはず、だった。
━━ギィンッ!
「なッ……!」
まさか、まさかこんなことが。
ライングの渾身の一撃、数多の魔物を葬った一撃が巨大オオカミに対しては小さな傷しかその身体には負わせられなかった。
巨大オオカミはこの好奇を見逃さない。動揺したライングに向けて前脚を薙ぎ払ってきた。
だがライングはその攻撃を素早く反応、身体を伏せて攻撃を避けた。
しかしオオカミの攻撃はまだ止まらない。
「まだだ! 踏み潰しがくるぞ!」
オオカミはもう一つの前脚でライングを踏み潰そうとする。このままではライングでもひとたまりがない。
サミーはライングを助けようと剣を握り巨大オオカミに向かって走る。
「間に合え……!」
三秒、二秒、一秒。
無我夢中で走り、剣をオオカミに突き立てる。
「グッ…………」
剣はオオカミの右前脚の腋に刺さった。
刺さりは浅かったがサミーの一突きはオオカミの狙いを逸らし、ライングの肩を掠める程度に留めた。
「ライング、急いで離れるぞ!」
「お、おう!」
魔法の詠唱までの時間は稼げた、二人の強力な魔法ならあのオオカミが相手でも倒せるはずだ。
急いで巨大オオカミの下から退く。
それと同時に後衛の二人の詠唱が終わった。
「"ロックゲイル"」
「"…………スピリットブリンガー"」
シオンとケーアは同時に魔法を撃ち出した。
風を纏った大岩と真っ黒な槍。二つの魔法がオオカミに襲いかかる。
瞬間。巨大オオカミがニヤリと笑ったように見えた。
「ウゥ………ワオォーーーン!!」
耳を
その爆音に僕達は耳を押さえることしかできない。
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