第20話 ささやかな戦闘
✳︎
次の日の朝、僕の部屋にみんなに集まってもらった。
内容はもちろん、昨日の『ローランド』から発注された依頼についてだ。
「ローランドからの依頼か!」
「これは…………」
「…………」
この依頼についての反応は三者三様だった。
ライングは楽しそうな笑みを浮かべており今回の依頼について気乗りの様子。
シオンはこの依頼について自分と同じ事を思ったのだろう、依頼書が入っていた封筒に対して不審な目を向けている。
ケーアは無言で依頼書を見ておりその様子はよくわからない。
「それでどうする?」
「受けるに決まってるだろ! これは面白そうだ!」
さすがに決断が早すぎないか。
元気に答えるライングに、シオンはため息を吐き、僕は心の中で苦笑いをした。
「ライング、怪しいと思わないの?」
「大丈夫だって! 俺達ならなんとかできる!」
確かにシオンの考えもわかる、僕だって断れるなら断りたかった。しかし今回の依頼はそうはいかない。
「そもそも断るとローランドの奴らから狙われることになるんだ、選択肢が無い」
ローランドから狙われた物の末路は『道端で暗殺される』か『社会的に抹殺される』かの二択しか無い。いくら
「一応それに見合うだけの報酬も用意してくれている。怪しいのは確かだが、受けるメリットも充分にある」
金貨五枚は破格の報酬なのだ。
僕の指摘にシオンは諦めたように頭を抱えた。
その様子はある種覚悟を決めたようにも受け取れた。
「そうね……、仕方ないよね」
「よし、それじゃあ頑張るぞ!」
そうして僕達は東の洞窟へ向かうため、冒険の準備を始めた。
✳︎
東の洞窟には街から二時間ほど歩いた場所にある。日が差し込む林道の奥がその目的地だ。道中の魔物や野生の獣の数も少なく至って順調な道のりだ。
途中にある村で少し脚を休めた後、僕達はその洞窟の前まで辿り着いた。
しかし。
「二体か……」
厚い鱗に覆われた緑色の身長が2mほどある大きな爬虫類、
洞窟に入るにはアイツらを倒さないといけない。
「どうするんだ、サミー?」
ライングが僕に耳打ちして来た。その手は既に剣が握られている。
リザードマンは連携が得意な魔物と本で読んだことがある。なら最初にすべきは連携ができない状況を作ることだろう。
「まずライングが側面から奇襲、その後に僕が正面に突っ込み魔物を分断する。魔物の連携を崩しライングとケーアは右の魔物を、シオンと僕は左の魔物を一気に叩く」
「了解!」
「わかったわ」
「………わかりました」
そうして、林に隠れながらライングとケーアが魔物から少し離れた左側面の場所へ移動する。魔物はまだ気づいていないようだ。
リザードマンが警戒している様子は無い。仕掛けるなら今だ。
「シオン、合図を頼む」
剣と盾を構えながらシオンに耳打ちする。
シオンは頷きながら魔導本を開いた。
「"風よ囁け。ブリーズ"」
その言葉と共にシオンの手からそよ風が吹きだした。そよ風はひらりと流れ、ライング達の元へ向かう。
そして。
「うおりゃあァ!!」
けたたましい声と共にライングが左側の魔物に向かって飛び出し剣を振り下ろした。奇襲成功。
「グギャ!!」
奇襲に驚いた魔物は慌てた様子でライングの方へ動き始める。好奇。
「今だ!」
僕は二体のリザードマンの間に割り込み右側の魔物に斬りかかる。
トカゲの魔物故、皮膚が鱗で守られていて剣が弾かれてしまう。だが幸いにもこの攻撃で魔物の注意を引けた。
そして奇襲を受けた魔物はライングに釘付けになっている。
「詠唱が終わるまで九秒よ」
「わかった、一気に行くぞ」
急襲されたリザードマンは慌てた様子で大きな爪を薙ぎ払った。
━━ガキンッ
爪の攻撃を盾で受け止めると同時に剣を振り下ろす。狙いは脚だ。
「グクワァ!!」
剣は脚に突き刺さり魔物は苦しそうに叫ぶ。やはりだ。鱗の数が少ない脚なら剣は通る。
シオンの詠唱がまだ終わったいないがこのまま一人で倒せるかもしれない。
(よし、畳み掛ける!)
勢いのまま魔物に近づき剣を突き刺そうとする。が、魔物は叫び声を上げながら自身の身体を大きく振り回したのだ。
「なッ!」
リザードマンの尻尾が襲って来た。回転による遠心力が加わり威力の増した一撃。
なんとか反応し盾で受け止めていたが、大きな質量の攻撃に僕は突き飛ばされ、地面に転がってしまう。
だが時間は充分に稼げた。
「グッ……シオン!」
「"━━岩よ、疾風の刃を以って切り裂け。ロックゲイル"」
直後、魔導本からとても大きな岩が生成され、魔物に向かって撃ち出される。
疾風のように速い岩は魔物に直撃し身体をめり込ませた。
「グギャ!? ギャガカガガ!!」
そして、岩が弾けると同時に無数のかまいたちが放たれる、魔物の皮膚という皮膚を切り裂き、身体の至るところから緑色の血を噴き出させながら魔物は倒れた。
「サミー、大丈夫」
魔物が倒れたのを確認したシオンはすぐに僕の元へ駆け寄って来た。
受け身も取れたし、傷も肩の擦り傷ぐらいで大きな傷は無い。
「だ、大丈夫、ちゃんと防御はしたから」
「…………念の為、治癒の魔法をしておくわ」
そう言って倒れている僕の肩に触れ、治癒の魔法を詠唱する。
「"清き水よ。彼の物の傷を塞ぎ、癒しを与え給え"」
治癒魔法のおかげで痛みは引いていき、魔物の攻撃で受けた打ち身や地面を転がった時の擦り傷が塞がった。
「ありがとう」
「ええ」
シオンは感謝の言葉を慣れたように返事をした。
さて、ライングの方はというと、既に終わっていたようだ。
ライングの相手をしていたリザードマンは真っ二つになって倒れていた。
「終わったぜ!」
「…………」
爽やかに笑うライングと無言で歩くケーア、どうやら全く手こずらなかったらしい。
「よし、それじゃあ行こう!」
そうして僕達は洞窟へ入って行った。
さて、そこには何があるのか。
ピシッ……
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