第19話 『ローランド』
✳︎
「『冒険者パーティー・
有無を言わさぬ圧が小さな酒場を包み込んだ。
その圧に思わず冷や汗が垂れる。
「依頼……?」
「はい、さるお方から貴方達へと」
ローランドは情報を主な商品として扱っている組織だが、その繋がりで依頼を斡旋することがある。
依頼先は『ローランド』から直接依頼されるものもあれば、誰かから仲介したもの、中には意志を持った魔物からの依頼を仲介したという噂すらある。
依頼内容も魔物の討伐から運び屋まで千差万別。中には情勢を動かし『ローランド』の都合が良いようにするマッチポンプのような依頼だってある。
さて、今回はどんな依頼なのか。
「……内容は?」
「簡単な依頼です。ここから東にある洞窟の奥へ行ってください」
そう言いながら懐から水色の丸い石を取り出しカウンターの上に置く。
透き通るような水色、一見すると宝石と見間違いそうな程綺麗な石だ。
「そして、この石をその洞窟の奥へ置いてきて欲しいんです」
「この石を洞窟に……?」
カウンターに置かれた石を見る。綺麗な水色という事以外は何の変哲もないただの丸い石だ。
「報酬は金貨五枚。期限は二日後までに」
「金貨五枚?」
金貨五枚といったら三年間は遊んで暮らせるぐらい大金だ。
今まで聞いたことがない報酬の額に思わず唾を飲み込んだ。
「わからない。こんな石ころを運ぶだけで金貨五枚、僕達じゃなくて、もっと安く雇えるパーティーに依頼すれば良いじゃ無いか」
「依頼者は『
「……この依頼を出したのは誰だ?」
「それはお答えできません」
怪しすぎる。
美味しすぎる報酬、そして誰かもわからない依頼者が僕達のパーティーを指名した。こんなの十人中十人が怪しいと思うだろう。
「さすがに怪しすぎる。こんな依頼は受けられない」
「いいえ、受けてもらいます。受けて頂けない場合は『ローランド』の持つ全ての力を使って貴方達を丁重におもてなしいたします」
要は依頼を受けなければ殺すという事だ。肉体的にも社会的にも。
つまり始めから拒否権は無いということだ。
「はぁ……、そこまで言われたら断れないね」
「ありがとうございます。それではこちらをどうぞ」
そう言って、上質な紙で作られ緑色のネズミの封蝋が押されている封筒。そして水色の石をカウンターに置いた。
「依頼書と石です。ご確認を」
「はい、しっかりと」
そうして依頼書と水色の石を懐にしまった。
その直後、『ローランド』がニヤニヤしながら話しかけて来た。
「それで、最近何かあったんです? 聞かせてくださいよー」
「切り替え早いな……」
先程の有無を言わさぬ圧が無かったかのように『ローランド』が子供のように話しかけてきた。
このギャップの差はさすがにちょっと怖い。
(はぁ……、どうしようかなぁ)
唐突に舞い込んだ依頼、みんなにどうやって説明しようかと悩みながらグラスに入った酒を飲んだ。
「良いじゃ無いですかー、何なら今日のお代は持ちますから」
「そんな自殺行為できるか」
その借りで一体何をされるか溜まったもんじゃない。
隣から僕の話を聞こうとギャーギャー騒ぐ子供の声を肴にしながら。
(そろそろ潮時かな…………)
そんなことを考えながら薄ら寒い夜が更けていった。
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