第18話 商業国家ルートデイ

    ✳︎

 

 僕が今いるこの国の名前は『ルートデイ』という。

 ここは古くから物流の要所として発展した大きな国だ。


 様々な人間とモノがこの国に入り、そして様々なモノがこの国から送られて行くのだ。

 その影響で人間、獣人、エルフといった様々な種族の者が住んでおり、多種多様な文化が日に日に形成され、変化し、淘汰されているのがこの『ルートデイ』という国の特徴だ。


「ハハハ、かんぱーい!!」「獣人ビーストの旦那、良い飲みっぷりですね!」「楽しいぜぇ!!」


 表通りには火の魔法で作られた街路灯が色鮮やかな光に照らされながら、人々は通りにある屋台の中で肩を組み、笑顔で酒を傾け、この夜の街を謳歌していた。


 しかし、その煌びやかな表通りから一つ外れた路地。明かりひとつない路地の先に寂れた酒場があった。

 酒場の客はただ一人、冒険者サミーだけだった。


「………おかわり」

「…………」

 

 注文を受けマスターは無言でボトルをカウンターに置く。サミーの周りには既に四本の空の酒瓶が置かれていた。


 静かにボトルに入った酒をグラスに注ぐと、グラスを手に持ち一気に呷った。

 そして再びグラスの中に酒を注ぐ。


「…………」


 もう一杯、もう一杯。と嫌なことを忘れようと酒を飲む。が、これだけ飲んでもサミーの意識は未だにハッキリとしていた。


 幸運不運なことに彼の身体はお酒に対しての耐性がとても強い。いくら飲んでも潰れることができないし、何かを忘れることもできない。

 しかしそれでも必死に忘れたいという想いでひたすら酒を飲み続ける。


 どうしてだ、僕の何が劣っているんだ。そんな答えの無い問いをいつまでも自分に問い続ける。そして頭のモヤモヤを無理矢理消そうとしてまた酒を飲む。


 四本目のボトルの中身の半分が無くなろうとしたその時、カランという音と共に酒場の扉が開かれた。


「大分荒れているようで」

「ローランド…………」


 扉が開く音と共に赤く上質な服を着た小さな男の子が酒場に入って来る、男の子はサミーの隣にちょこんと座り「いつもの」とマスターに注文した。


「何でそんなに荒れているんですか。良かったら相談に乗りましょうか」

「お前達においそれと相談なんてできるか。次の日には商品になってるかもしれないんだぞ」

「ふっ、それもそうですね」


 ふふっと不敵な笑みを浮かべながら出されたカクテルを上品に口を付けた。その幼い見た目からは考えられないほど上品な仕草、相変わらず何を考えてるのか訳がわからない不気味なだ。


 さて、の名前は『ローランド』。この世界の裏社会で活動している情報屋だ。


 ルートデイは物流の要所というのは説明したが、それ故に様々なモノが取引されており、そこには表には出せないようなモノも沢山ある。


 とても危険な薬物、持ち込みが禁止されている植物の種、盗まれた美術品など様々な裏のモノが存在している。その中でも一番多く取引されているのが『情報』だ。


 『ローランド』は主に情報を商品として商売をしているのだ。


 近々流行が訪れそうなモノから始まり、特定の魔物の生息状況、まだ公にされてないダンジョンの詳細、商人が保有している金庫や帳簿の位置、果てには国の機密情報なども商品として取り扱っており裏のルートで高値で取引されているらしい。


 そして情報商品を仕入れるために世界中に『ローランド』の人間を潜伏させており、その規模、組織力、情報収集能力の全てが未知数な存在だ。

 

「まったく、そんなしょぼくれた顔で飲んでちゃ、その酒の方が可哀想ですよー」

「どうやって飲もうと僕の勝手だろ」

「ま、それもそうですね」

 

 目の前にいる彼はこのルートデイの情報収集と窓口を担当をしている『ローランド』、その五代目か六代目らしい。前任者が誰なのかは知らない。


 半年前にこの酒場で偶然出会って少し話しただけなのに、何故か気に入られておりちょくちょく絡まれている。


「それで、今日は何の用だ?」

「つれないなぁ、まずは世間話をしましょうよ。北の国の温泉とかどうです?」

「うるさい、さっさと話せ」

「はいはい。わかりましたー」

 

 そう言って一口お酒を飲み、目を細めて僕を見る。

 それは先程の子供のような見た目に似合わないその態度、彼の仕事をする時の顔だ。

 

「『冒険者パーティー・青い空ブルースカイ』にご依頼があります。受けて頂けますね?」

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