第三章 僕の戦い

第16話 三年後

    ✳︎


 ━━ギィイン! 


「ぐぅ……!」


 激しい金属音と共に魔物の一撃を盾で受け止める。

 押し返そうと盾を持つ左手に力を込める。魔物との力の差に痛みが響くが、なんとか持ち堪え押し返した。


「まだ来るか……」


 直後、四匹の小さな魔物が襲い掛かって来る。

 盾で受け、剣で受け流し、その攻撃に対応するが………続けてくる攻撃に対応できず、突き飛ばされ体勢を崩してしまう。

 

 獲物に追撃を与えようと魔物達は一斉に襲い掛かる。地面を転がり攻撃を回避し、膝を地面に着きながら剣を払って魔物を追い払う。

 再び臨戦体勢に入ろうと剣に力を込めた。だが。


「サミー、もう大丈夫よ」

「……ッ! わかった!」


 シオンの声だ。

 サミーは彼女の合図と同時に正面の魔物を蹴飛ばしながら急いで後方に退いた。


「"高き壁を敷け━━ロックウォール"」


 シオンが魔法の詠唱を完了させ地面に手を置いた。

 その直後、無数の岩の壁が魔物の集団を囲うように地面から生えて来る。


「今だ! ライング!」

「おうよ!」


 剣を構えたライングは岩の壁を飛び越えた。目標は囲まれた魔物の集団。ライングは魔法を纏った金色に輝く剣をその中心に振り下ろした。


「"ブライトバスター!!"」


 爆発のような衝撃と共にライング渾身の一撃が魔物達を襲った。

 魔物の叫び声と壁の崩れる大きな音がこの森の中に響いた。

 そして音が静まった時、残ったのは崩れた石壁と魔物の群れの死骸。まさに死屍累々だった。


「はぁ……ふぅ……」

「よし、今回の依頼もこれで終わりだ」


 身体が重い。盾を持って左手は痺れ、剣を持つ右手の掌は鬱血して青くなっている。疲労の蓄積と共に息は乱れ軽く目眩がする。


 そんな僕の様子を他所に、未だに元気一杯なライングは剣を納め、僕の方へ向いた。

 その奥にある影が狙っていることを気づかずに。


「後ろだ! まだ残ってる!」


 喉を震わせ声を張り上げた。ライングは反応して応戦しようとするが間に合わない。このまま魔物の爪が振り下ろされてしまう。が。


「"…………ヴォンド"」


 囁くような小さな声と共に襲いかかって来た魔物が突然苦しみながら地面に転がった。

 まるで頭痛で苦しむように。


「グビャアッ! グギャーッ!」


 魔物は頭の痛みに耐えるように頭を抑えていたが、しばらく苦しんだ後、魔物の声は消え、その呼吸も止まった。

 いつ見ても恐ろしい魔法、魔物が相手でも同情してしまいそうだ。

 

「…………終わったよ」


 ふとベルが鳴るような高い声が響く。すると背後の方から銀色の小さな杖を携えた、褐色の肌で緑色の髪の小さな女の子が現れた、彼女は眠そうな眼差しで魔物の住処をぐるりと見渡した。


 そしてライングを見つけると眉と頬を少し上げながらトコトコと近寄って来る。


「ありがとうケーア、お陰で助かった」

「…………大丈夫。このぐらい簡単だから」


 女の子、ケーアは何事も無かったかのように答える。しかしその頬の赤い色を見て僕とシオンは苦笑いを浮かべる。


「ライング、ケーア、魔物の討伐は完了したので街に戻る準備をしよう」


 これ以上この場所にいる必要は無い。

 僕の提案にライングはゆっくりと頷く。


「だな! ケーア、手伝ってくれるか?」

「…………もちろんよ」


 ライングの礼にケーアは興味なさげに返事をした。

 その声はどことなく嬉しそうだった。


「……それじゃあ戻る準備をしよう」

「そうね。あと討伐した証明も持って帰らないと」


 その後、魔物の集団のボスの毛皮を剥いだり、必要な荷物を纏めたりした後、拠点である街へ戻って行った。

 


 あの日から三年。僕の物語が過去から現在となった。

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