第13話 友情と心配事
✳︎
声が聞こえたのは冒険者ギルド裏の路地、そこへ向かうと、髪の尖った男と眼鏡を掛けた男がシオンを壁に追い詰めていた。
「なぁお嬢さん、硬い事言わずにウチのパーティーに来ないかね?」
「いやいや、君は俺のパーティーの方が活躍できる」
「何度も断ってるじゃないですか!」
二人はシオンをスカウトしようとしている冒険者だった、しかし暗い路地でスカウトとはどうにも怪しい。
「なあ、お前いい加減にしろや。俺が最初に彼女に目をつけたんだぞ」
「ふん、貴方みたいな下品ない人など彼女に相応しくない」
「あの……」
どうやら二人は知り合いというわけではないらしい、互いに喧嘩腰で会話している。
一方のシオンは困っている様子だった。そりゃあ、いきなり知らない人に囲まれてるんだシオンじゃなくても混乱する。
「なんだと! スカした野郎が俺の邪魔するな!」
「ハァ、全く。下品なパーティーはこれだから、」
「すみません。彼女が困ってるじゃないですか」
「シオン、大丈夫か!」
そうして到着した僕は二人に向けて話しかけ、ライングはシオンの元に駆け寄り彼女を庇うように立った。
「あん? 誰だお前ら」
「部外者は出てこないでくれたまえ」
いきなり登場した僕達に冒険者の二人は不機嫌を隠そうともせずに睨みつけた。
「僕は彼女の友人です。貴方たちの強引な勧誘に彼女が困ってるので止めに入りました」
「あん? ていうかお前、検査官に負けてたヤツじゃねーか。ザコがでしゃばんじゃねーよ!」
「ほお。つまり君は負け犬ということか」
「…………ッ」
髪が尖った方が僕を見下ろしながら罵倒し、眼鏡を掛けた方は嫌味たっぷりにニヤついている。
落ち着け、ここで怒ってもロクな結果にならない。冷静に対処するんだ。
「僕の実力と今の状況は関係無いでしょう」
「ハッ! ザコが何言っても意味ねーだろ!」
「負け犬は引っ込んでくれないか?」
髪の尖った方は僕に対する罵倒と共にライングの方を見る。
「おいテメェ、俺が彼女をスカウトしている途中だろうが、さっさと退けや」
一方ライングは顔を俯かせながらプルプルと震えていた。
(まずい……)
嫌な予感を感じ、ライングを止めようとしたが、もう遅かった。
「グハァッ!!」
ライングの拳が髪が尖った冒険者の頬に思いっきりめり込んだ。殴られた冒険者は狭い路地の壁に勢いよく飛ばされる。
「おい、サミーをバカにしたな」
「は、はぁ?」
突然殴られた冒険者は訳もわからずに頬を手で押さえている。
しかしライングは未だに燃えるような感情を放っていた。
「サミーは俺より強いんだよ! それをバカにする奴は俺が許さねぇ!」
「ライング!」
さすがにこの状況はまずいと僕はすぐさまライングと男達の間に割り込んだ。
「僕なら大丈夫だから落ち着いてくれ!」
「だがコイツらはお前を━━」
「ライング、……落ち着いてくれ」
僕はライングの水色の瞳と自身の眼を合わせながらゆっくりと落ち着かせる。
「……わかった」
よかった、どうやら落ち着いてくれたようだ。
「すみませんが、もういいですか?」
僕は二人の冒険者を見ながらそう言った。
冒険者は先程のライングの様子に驚いたのか、少し肩を震わせていた。
「わ、わかったよ、今回は手を引いておこう」
「クソが!」
そうして二人は路地から逃げるように去って行った。
僕は再びライングの方へ向いた。
「ライング。僕のことで怒ってくれるのは嬉しいけど、いきなり殴るのはやめてくれ」
「……あぁ、ごめん。悪かったよ」
あの時から変わらずライングは僕やシオンが馬鹿にされたりするとカッとなって手を出してしまっていた。その時その時に僕とシオンで場をおさめていたけど、未だに遭遇すると少し怖い。
「そういえばシオンは大丈夫?」
「えぇ、大丈夫よ」
何はともあれシオンに怪我とか無くて本当によかった。
「とりあえずギルドに戻ろうか」
「あぁ、そうだな」
そうして様々な出来事で疲弊した僕達はゆっくりとした足取りでギルドに歩いて行ったのだった。
歩きながら僕は考える。彼の責任感の強さ。これが後々に悪い影響が無いかとても心配だった。
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