第11話 戦闘試験③
✳︎
周りの雑談が聞こえる訓練場の観客席。
試験が終わった僕は二人の居る所まで戻っていた。
「お疲れ様。サミー」
「サミー! さっきの戦いは凄かったな!」
観客席に戻るとシオンとライングが僕を迎えてくれた。
「ありがとう。でも負けちゃったよ」
「でも試験官といい勝負だったじゃないか! 最後に押し切れれば勝てたかもしれないし!」
嫌みが一切ない純粋な賞賛に少し照れ臭くなる。でも気持ちをハッキリ言えるのがライングの一番いいところなんだろうな。
「次はライングの番ね」
「おう! サミーが頑張ったんだ、俺も良いところ見せてやるぜ!」
燃えるような情熱を胸にライングは水色の瞳を輝かせる。この様子なら試験も万全に挑めそうだ。
『ウオオオオオオ!!』
観客席から歓声が沸いた。その視線は訓練場の方へ向けられていた。
「さて、試験はどうなってるかな?」
僕たちは訓練場の方へ目を移した。そこでは試験官が参加者である剣士との試合が繰り広げられていた。
「良い打ち込みだ」
「クソっ、届かない!」
剣士は激しい動きで打ち込み試験官がその攻撃を受けるという形になっていた。
剣で止め、受け流し、たまに避ける。剣士の攻撃を試験官は涼しい表情で捌いており、捌くたびに剣士は焦った表情を露わにしている。
━━ガキンッ!
試験官の攻撃により剣士の持つ剣が金属音を響かせながら宙を舞い地面に転がり落ちた。
「クソっ! 降参だ!」
「お疲れ様。良い攻撃だったよ」
やはりラヴァーさんはかなりの実力者だ。相手の攻撃に瞬時に対応し、隙を突く。相当な経験を積んでいるのが見受けられた。
「お、そろそろ俺の番だな」
ライングはそう言いながら立ち上がり大きく身体を伸ばし首をコキコキと鳴らした。
「調子はどう?」
「絶好調よ! 負ける気がしないね!」
「相変わらずライングは元気ね。ま、頑張って来なさい」
おう!と元気な声で返事をしながらライングは訓練場へ向かって行った。
(あの調子じゃあ本気でやるんだろうけど……大丈夫かな?)
僕は訓練場を見ながらそんなことを思っていた。
どっちの心配かは語るまでもない。
✳︎
さっきまでとは打って変わり雑談の声が一切聞こえない訓練場、そこには戦闘試験の試験官とライングが立っていた。これから行われる戦闘試験は今までの試験と比べて明らかに緊張感が違っていた。
「君が魔法試験で魔力操作制度A++の結果を出したのかい?」
「はい! と言っても俺は魔法については全く修行出来てませんけどね」
自笑する様に答えるライングに対して試験官は笑顔で首を横に振る。
「いや、大丈夫さ。魔法もこれから鍛えれば君はもっと強くなれるさ。だが」
そう言いながら試験官は剣を抜いた。鋭い音が静かな訓練場に響く。
「まずは
「はい!」
ライングも続いて剣を抜く。観客席に居る人たちは二人の一戦が始まるのを今か今かと待ち侘びているように息を呑んでいる。
「ルールは説明した通り、制限時間内に降参した方が負けだ」
試験官の言葉にライングは無言で頷き応えた。
「それでは……始め!」
━━ガキンッ!!
「なっ……!」
試験官と観客席で見ていた冒険者から驚きの声が聞こえた。
驚いても仕方ないだろう。お互い10メートル程離れた距離で開始したのにも関わらず、始めの合図と同時に一瞬でライングが試験官の目の前で剣を振り下ろしたのだ。
「なんて速さだ……!」
「ヒュー……」
試験官はライングの剣を受け止め、先程の僕と同じ互いに押し合うという状況が生まれる。
どちらが先に仕掛けるかという緊迫した空気の中、
「ハアァッ!!」
仕掛けたのライングだった。後ろに跳び退き、そして試験官に向けて再び突撃し、
とても速い斬撃の連続を繰り出してきた。
左、右下、中心、左上。受け止めても受け止めても止まらない攻撃が試験官を襲いかかる。一つ一つ対応はできているが、攻撃を受ける度に一歩づつ後退してしまう。
「は……は……! ここまで攻撃をしているのに息一つ乱れないとは……とんでもないスタミナだね!」
「俺はまだまだやれるぞ!」
そうして連続した金属音が僕のいる席の下まで近づいてきた。
「ここで決めるッ!!」
「………!」
その声と同時にライングは剣を大きく振り上げる。その隙を試験官は見逃さなかった。
剣を振り上げたと同時に試験官は地面に転がり込んでライングの右側面に素早く移動。起き上がると同時に手に持った剣を横に薙ぎ払う。剣はライングの腹部に狙いを定め。
「そこだッ!」
大きな声と共に試験官の剣がライングに迫った。
━━━ガンッ
静寂の中に破壊音が木霊する。
試験官の持つ剣は真っ二つになっていた。ライングの振り下ろした一撃は試験官の剣を捉えへし折ったのだ。
「いやはや……とんでもないね……」
「…………」
『…………』
試験官は真っ二つになった剣を引き攣った笑みで見ていた。
ライングも自身が真っ二つにした剣を固まった表情で見ていた。
この一戦を見ていた観客たちも何が起こったかわからないと言わんばかりに静かにその光景を見ていた。
「参った。降参だ」
「え?」
試験官の言葉にライングは素っ頓狂な声を上げる。まだこの状況を理解していないようだ。
「おめでとう。君の勝ちだ」
静寂の中で響く試験官の声。そしてようやくその状況を理解したのか観客席から割れんばかりの歓声上げられた。
『騎士のラヴァーさんに真正面で勝ったのかよ! スゲエ!!』
「あ、俺やったのか………………よっしゃあ!!」
冷めやらぬ歓声が湧き上がる訓練場で、状況をようやく理解したライングは拳を空の方へ大きく掲げた。
「やっぱりライングはすごいわね」
「…………そうだね」
その光景はまるで新たな英雄の誕生を示唆しているようでもあった。
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