第10話 戦闘試験②

    ✳︎


「それでは、戦闘試験を再会する!」


 休憩が終わり前衛志望の戦闘試験が開始される。

 そして今、僕の心臓はバクバクと高鳴っていた。


「それでは最初の者は入場してくれ!」

「は、はいぃ!」


 僕は訓練場に続く扉を抜け入場した。

 そう最初の挑戦者は僕だった。まさか最初とは思ってもいなかった。


「後衛と違い前衛は魔物との白兵戦が想定される、なのでこの試験では私もこの剣で攻撃をする。そして制限時間までに私が降参するか制限時間まで耐え切れば君の勝ちになる。逆に君が降参した場合君の負けになる。これがルールだ」

「……はい!」


 つまり、試験官と剣で斬り合うということだ。今までライングとしか戦ったことがないがどうなるか。


「ではよろしく」

「はい、よろしくお願いします!」


 そうしてお互い離れた距離に移動し、剣を抜く。

 サミーは右手に持つ剣を目の前にし、一つ深呼吸をする。


「すー……はー……」


 右足を後ろ下げ、野球のバッティングフォームのように身体を斜めに構え、剣を両手で握りしめ試験官を両眼で見据えた。

 転生前にプレイした、刀を使ったゲームの主人公がやっていた構えの真似事。そしてライングと対等に戦うために編み出した構え。


「その変わった構え、面白いね」

「この一戦でさらな面白いものが見れますよ」

「ほお、それは楽しみだ」


 試験官も剣を両手で持ち構えた。

 

「よし、それでは……始め!」


 開始の合図と共に僕は試験官に向かって突撃を━━せずにその場で剣を構えジリジリと距離を詰める。


「おや、来ないのかい?」

「制限時間はまだあるんです。焦らずじっくりとやります」


 徐々に試験官の元へ近づく。そしてお互いの剣が届く間合いに。


「…………」

「…………」


 静寂の中、最初に仕掛けたのは……試験官だった。

 

 左から振り下ろされた一撃をサミーは両手に持った剣で弾いた。試験官は弾かれた反動を利用して今度は右から斬りかかる。


 サミーは足を使いながら身体を捻り持っている剣を移動させ試験官の攻撃を防御。そして攻撃を弾くと同時に身体の捻りを戻すように剣を横に薙ぎ払った。


 もらった。サミーは胸中に攻撃が当たるのを確信する、が。


「ッ!!」


 その攻撃を試験官は後ろに跳んで回避した。

 長年の騎士の経験が攻撃を回避させたのだ。

 しかし試験官からは焦りの表情が窺える。


「危なかった………… なるほど、これが君の戦い方か」

「まさか避けられるとは思ってもいませんでした」


(二合で決着は付かなかった。簡単に行くとは思ってなかったけど、本当に強い)


 そんなことを考えているサミーを他所に試験官は警戒を崩さず、静かに語る。


「私の攻撃の隙を作りそこに一太刀を喰らわせる……か」


 守りを固め相手の攻撃の一瞬の隙を突く守りの剣。

 この戦い方を編み出したのは十一歳の時、ライングの激しい攻撃に対抗するために必死に練習したのだ。

 力も才能も無い僕が強者と戦うためにはこうした方法ぐらいしか思い浮かばなかった。

 

「この戦い方をする者は少ない。久しぶりに楽しくなってきた」


 その言葉を発すると共に試験官が僕に向かって駆け抜け再び剣で斬りかかってくる。


「クッ!」

「まだまだ行くぞ!」


 右、左、正面。素早い斬撃が一つまた一つと襲い掛かってくる。今は何とか対応できているが少しづつ壁に押されてしまう。攻撃を受けるのも時間の問題だ。


「さぁ、このまま守ってばかりか!」 

「…………ッ!」


 何とかして隙を作らなければ。

 焦った僕は試験官へ向けて一気に距離を詰め剣を振り上げる。


「ハァッ!!」

「うおっ、来るか!」


 一撃を受け止め、そのまま試験官の方へ近寄り腕に力を込め試験官の剣を押し込んだ。試験官も負けじと剣を持つ手に力を込める。

 そしてお互いに剣を押し合う形になった。


「ぐぐぐ……」

「劣勢の状況を力で無理矢理変えて来たか」


 必死になり押し込もうとする僕、冷静な表情で周囲の状況を確認する試験官。


「ハァァァッ!!」


 この押し合いに勝てばいけるはず。そう信じ剣に全力を注いだ。

 そして決着は訪れる。


 ━━━バンッ


「あ……」


 素っ頓狂な声が響いた。不意に足元を蹴られバランスを崩したのだ。身体は正面から倒れ地面に顔を思いっきりぶつけ剣は倒れた時に落としてしまう。

 うつ伏せになった身体を仰向けにすると、目の前には剣が向けられていた。

 

「押すことに集中しすぎて足元が疎かになってしまったね」


 サミーに剣を向ける試験官。

 この光景を見てこの一戦の結果がどうなったのかがようやく理解する。


「参りました。降参します」

「いい戦いだった。あの反撃はかなり焦ってしまったよ」


 こうして戦闘試験、最初の一戦が終わった。

 観客席から聞こえるまばらな拍手が僕の耳に寂しく響いていた。

 

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